• コラム

2026.10.22

【#働く犬たち】聴導犬とは?すばらしい役割と個性を知ろう

【#働く犬たち】聴導犬とは?すばらしい役割と個性を知ろう

文・取材 臼井京音 

犬は人に寄り添う存在として知られていますが、その力を活かして社会の中で大切な役割を担っている犬たちがいます。私たちが普段目にする機会は少なくても、誰かの暮らしや人生を支え、安心や勇気を届けている犬たち。そんな"働く犬"の活動や現場の様子など、社会を支える働く犬たちにスポットを当ててご紹介します。(POCHI編集チーム)



今回のお役立ち情報聴導犬

補助犬の1種である“聴導犬”のことを、詳しく知る機会になるイベントに潜入取材。デモンストレーションの様子、聴導犬の役割、その個性などに関する情報盛りだくさんのレポートをお届けします。

聴導犬は認知度が低い!?

みなさんは、聴導犬に出会ったことはありますか?
日本の“身体障害者補助犬”には“盲導犬”“介助犬”“聴導犬”の3種類がありますが、2026年4月現在、実働している盲導犬は744頭、介助犬は54頭、聴導犬は51頭となっています。
なお、聴導犬の認知度は37%と、盲導犬の半分以下だそうです。
聴導犬は自宅内での仕事が多いため、その仕事ぶりは具体的な想像がつきにくいかもしれません。実際、聴導犬の3分の2は、自宅内や自宅近辺でだけでその役割を担っています。
今回は、東京都多摩市の「癒しの杜~こうご動物病院付属TAMA統合医療センター~」で2026年8月15日に開催された、「聴導犬に会いに行こう」イベントの模様をレポートしながら、聴導犬のことを詳しく紹介します。

デモンストレーションドッグとして活躍する、黒ラブのひまわりちゃん

デモンストレーションドッグとして活躍する、黒ラブのひまわりちゃん

「しっぽフリフリ、かわいい!」と、参加者は会場に入ってきた瞬間から、公益社団法人 日本聴導犬推進協会のデモンストレーション犬であるひまわりちゃんに目が釘付け。ひまわりちゃんも、とてもうれしそうな笑顔で来場者を迎えていました。
「ラブラドール・レトリーバーのひまわりと私は、年に70~80回、主に関東周辺でデモンストレーションを行っています」と、同協会の水越みゆきさんは教えてくれました。

聴覚に障がいがあると困ること

イベントでは、聞こえにくかったり、まったく聞こえなかったりする“聴覚障がい者”が困るシーンや場所について解説がありました。
「聴覚に障がいがあると、人と話すことや言葉を覚えることがむずかしいことは想像がつくかもしれません。
実際はそれだけでなく、緊急地震速報など、あらゆるものを知らせる音をとらえることが困難で、命を守る行動が取りにくいこともあります」とのこと。

聴導犬は音の発生源を探して近づき、それを見つめて音が鳴っている場所を知らせます

聴導犬は音の発生源を探して近づき、それを見つめて音が鳴っている場所を知らせます

そこで役立つのが、聴覚障がい者に必要な音の情報を伝える聴導犬です。
「家の中では、インターホン、スマホが発する音、開けっ放しになった冷蔵庫など家電からの通知音、赤ちゃんの泣き声など、どこから音が出ているのかを、聴導犬は使用者さんに指し示してくれます。たとえば、アゴで音が鳴っている物をトントンするなど、それぞれの聴導犬が得意な方法で使用者さんに知らせます。
『呼んできて~』と、ほかの家族が使用者さんを呼んだ際に、聴導犬がかわりに呼びに行ってくれたりもするんですよ。
屋外では、落とし物、後ろから来る車や自転車の存在、運転中の場合は緊急自動車がどの方向から来るかなどを教えてくれます。
落とし物は、聞こえないと気づけなくて拾えないことも多いものです。実際に、年間3本ほどカギを屋外で失くしていた使用者さんは、聴導犬と暮らすようになって紛失しなくなったとのこと。
あと、授業が終わるチャイムの音がわからなかった大学の先生のケースでは、聴導犬のおかげで定刻通りに授業が終了できるようになったそうです」
それらのエピソードを聞いたり、実際に活動している聴導犬の動画を見て、会場からは「おぉ~、すごい」と感嘆の声が漏れていました。

小学生から大人まで、熱心に解説に聞き入る参加者さんたち

小学生から大人まで、熱心に解説に聞き入る参加者さんたち

デモンストレーションを見て、拍手喝采

イベントでは、ひまわりちゃんによるデモンストレーションも盛り上がりました。
まずは、目覚まし時計が鳴った時。
使用者さん役の水越さんの足元で寝転んでいたひまわりちゃんは、リリリーンという音を聞くと「ん!」と首を上げ、立ち上がると水越さんのもとへ駆けつけます。
そして、なんと布団の中に頭を突っ込んで水越さんの体をグイグイ圧すという方法で、見事に水越さんを起こしたのでした。

聴導犬それぞれが得意な方法で、頭を使いながら使用者さんを起こします

聴導犬それぞれが得意な方法で、頭を使いながら使用者さんを起こします

聴導犬は、使用者さんがなかなか起きない場合や、使用者さんが二度寝をしてしまった場合は、自分で考えて次の手段を使うのだそうです。たとえば、顔をなめまわすとか、おでこをひっかくとか。
「聴導犬には、自分で判断して行動することを教えていきます。人を理解できるように育てるのも大切です」と、水越さんは言います。

次は、外出時にカギを落としたというシチュエーション。
使用者さんが聴導犬の頭部の動きを見やすいので、ふだんは使用者さんの1歩前あたりを歩いている聴導犬ですが、使用者さんが何かを落とした瞬間に、歩みをピタッと止めます。
使用者さんからすると、隣を歩いていた聴導犬が視界から消えると、何かあったと認識できるというわけです。

聴導犬の姿が見えなくなると、使用者さんも立ち止まります。「あ、カギ! 良かった、ありがとう」と言う使用者さんから、聴導犬は“お給料”であるおやつをゲット

聴導犬の姿が見えなくなると、使用者さんも立ち止まります。「あ、カギ! 良かった、ありがとう」と言う使用者さんから、聴導犬は“お給料”であるおやつをゲット

デモンストレーションを見たイベント参加者からは、大きな拍手がひまわりちゃんに送られていました。

「聴導犬は音が止まっても、音が鳴ったところへ人を連れて行きます。
では、聴導犬は何種類くらいの音を聞いて仕事ができると思いますか? 20類? 10種類? 5種類?」(水越さん)
会場からはさまざまな声が飛び交っていましたが……、「正解は、20種類」。
「そんなたくさん!」と、参加者は感心していました。
聞こえない方の自宅でちゃんと働くことができるように、自宅での合同訓練をしっかり行うのが重要だそうです。

聴導犬に向いている犬とは

日本聴導犬推進協会をはじめ、育成される聴導犬はとくに犬種が決まっていません。
「私たちの団体では、保護犬の中から聴導犬を育てています。また、盲導犬や介助犬になれなかった犬を候補として協会に連れてきて育成をすることもあります。
聴導犬として向いているのは、人が好きで、どんな状況でも怖がらない性格の子ですね。
さらに、聴導犬は活動レベルが高いことと、自分で考える力を持っていることも大切です」

音への反応が鈍い子も聴導犬に向いています。多くの音を拾いすぎないからだそう

音への反応が鈍い子も聴導犬に向いています。多くの音を拾いすぎないからだそう

日本聴導犬推進協会に連れてきてから、聴導犬になるための認定を受けるまで早くて2年、長いと4年ほどかかるそうです。
同協会で聴導犬デビューをしたら、その後8~10年間、使用者さんと同居をしながら聴導犬としての仕事をします。 
10~12歳で引退して、その後は協会に帰ってきてからボランティアの新しい飼い主さんを探すケースもあれば、そのままペットとして使用者さんのもとに残るケースもあります。

「聴導犬は、聞こえない人と暮らしていると実際にわかっているんですよ。
ほかにご家族が同居している場合、洗濯機の終了音などお知らせが必要な音がした時、聴導犬と聞こえるご家族とが目を合わせて『そっちが知らせにいってよ』というなすりつけが発生することもしばしば。でも、その家族がいないと100%作業を行います」
それを聞き、イベント参加者も興味深そうに眼を丸くしていました。

合同訓練は、公共交通機関で移動したり、職場でも行ったりするなど、合計で170時間に及びます(写真提供:日本聴導犬推進協会)

合同訓練は、公共交通機関で移動したり、職場でも行ったりするなど、合計で170時間に及びます(写真提供:日本聴導犬推進協会)

聴導犬がケープを着用して外出する意義

聴導犬は“聴導犬”と大きく記されたケープ(ウェア)を着て外出をします。
「ケープを着ていると、聞こえないことを説明しなくても最初から聞こえない人として外出先で対応してもらえるという大きな意味もあるんです。
たとえば、電車や飛行機の発着が遅れるなどの緊急時には、聴導犬というケープを身に着けているので、ほかの人が聞こえない人なのだと認識して、内容を伝えてもらえます。
必要な時に、聴覚障がい者さんが必要な手助けが得られる聴導犬の普及が望まれるのは、言うまでもありません」(水越さん)

聴導犬の育成など日本聴導犬推進協会の活動は、8割は寄付でまかなわれているそうです。
水越さんは最後に、
「盲導犬や介助犬も含め、補助犬たちは外出中に何もしていないように見える時も、仕事中です。なので、仕事の妨げにならないよう、外で見かけても声をかけたり無断で写真を撮ったりしないようにしましょう」と述べていました。

記念撮影での一コマ。ひまわりちゃんも、デモンストレーションという大切な仕事を終えて満足げな表情に見えます

記念撮影での一コマ。ひまわりちゃんも、デモンストレーションという大切な仕事を終えて満足げな表情に見えます

最後は、ひまわりちゃんとの記念撮影も。ニコニコ笑顔でなでられていたひまわりちゃんと写真を撮った参加者に、感想を聞いてみました。

「聴導犬のことを図書館で借りた本で知ってから、楽しみにしていました。会えてうれしかったです」(小学1年生と2年生の姉妹)

「聴導犬と盲導犬が同じような“働く犬”だと思っていたのですが、聴導犬は自己判断して得意な動きをすることなど、個性が残されているという違いを知ったのと、その仕事ぶりがすごいと思いました」(小学4年生のお子さんと参加したお母さん)  

筆者も働く犬に関する理解が深まるとともに、犬のすばらしさをあらためて感じずにはいられない2時間でした。

グッズ販売による収益も聴導犬の育成に役立っています

グッズ販売による収益も聴導犬の育成に役立っています

■ 文・取材 臼井京音

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ドッグライター・ジャーナリストとして、20年以上にわたり世界の犬事情を取材。現在は犬専門誌『Wan』をはじめ週刊誌、Web媒体、会報誌等で情報発信を行う。以前は『愛犬の友』誌、毎日新聞の連載コラム(2009年終了)などでも執筆。著書に『うみいぬ』『室内犬の気持ちがわかる本-上手な育て方としつけ方をアドバイス!』がある。
現在は元野犬の中型犬と暮らす。歴代愛犬のノーリッチ・テリア2頭と同様にボールを追いかけることが喜びで、趣味はテニスとバレーボールと写真撮影。パリやNYで撮影し自宅暗室で焼いたモノクロ写真は、ドッグリゾートWoof、ペットショップP2などのインテリアにも使用されている。

取材協力:公益財団法人 日本聴導犬推進協会

*1 寄付も受け付けています。 https://www.hearingdogjp.org