• コラム

2025.12.10

【#獣医師に聞く】歯周病予防に唾液腺マッサージと正しい歯磨きを

【#獣医師に聞く】歯周病予防に唾液腺マッサージと正しい歯磨きを

文・撮影=臼井京音
取材協力=かまくらげんき動物病院

あまり目立たないけれど、実は犬との生活を陰で支えている繊細なプロの仕事の存在を、意識したことはありますか?犬と暮らしていくうえで欠かせない知識や知っておきたい情報、身に着けておきたい技術などについて、"真のプロフェッショナル"とたたえたい、ある方面で専門性の高い有識者の方々にインタビューした内容をご紹介しています。(POCHI編集チーム) 



今回のお役立ち情報デンタルケア

歯周病予防につながる唾液腺マッサージと正しい歯磨きの方法を、石野孝獣医師に教えてもらいます。
プラズマ治療や特殊ジェルを用いた、麻酔のいらない予防歯科や最新歯科治療についても紹介します。

歯周病は内臓にも影響する恐ろしい病気

みなさんは、犬が2歳くらいから発症する歯周病の恐ろしさをご存じですか?「歯周病は、ただ歯肉に炎症が起こきたり歯が抜けたりするだけではなく、病原性歯周病菌によって犬のあごの骨までもが溶けるので軽視できません。
また、歯周病菌は血液の中に入って全身をめぐり、腎臓や心臓などにも悪影響をおよぼします。歯周病は感染症の一種と言えることが、おわかりいただけるでしょうか。
歯周病の最大の予防は、歯磨きで歯周ポケット内のプラーク(歯垢)を取ること。一度溶けた骨は再生しないので、正しい方法でしっかり磨くことが重要です。
歯周病菌は唾液がある口腔内環境だと増殖しにくくなるため、歯周病予防には唾液腺マッサージも、歯磨きと同じくらい大切です」
このように教えてくれたのは、かまくらげんき動物病院(神奈川県鎌倉市)の石野孝院長。
それではさっそく、一般社団法人 日本ペットマッサージ協会理事長でもある石野獣医師が考案した“口腔ケア 唾液分泌促進マッサージ”から教えていただきましょう。

下あご内の、歯を支える骨が溶けている状態(写真提供:かまくらげんき動物病院)

下あご内の、歯を支える骨が溶けている状態(写真提供:かまくらげんき動物病院)

唾液分泌促進マッサージのやり方

唾液腺とは、唾液を分泌する組織のこと。
犬には、以下の図のとおり4つの唾液腺と、2つの唾液腺の開口部があります。

唾液腺の位置(資料:石野孝獣医師提供)

唾液腺の位置(資料:石野孝獣医師提供)



唾液腺の開口部

唾液腺の開口部

唾液腺とその開口部をマッサージすることにより、唾液が分泌されやすくなります。
朝晩の歯磨き後に“唾液分泌促進マッサージ”を2分間してあげましょう。

口周りを触ることに日頃から慣らしておきます



唾液腺の開口部のうちのひとつ、奥歯のある部分をかるくもみます



もうひとつの唾液腺の開口部、前歯の下ももむようにして開きます



頬骨腺を、指の腹を使ってソフトな力でマッサージ



耳下腺は、指で挟むようにしてもみましょう



指の腹で下顎腺をやさしくマッサージ



舌下腺は、指でつまんで引っ張ります



仕上げに、マッサージによって分泌した唾液を唾液腺の出口(開口部)まで、手を鼻先まですべらせるようにしてマッサージ

正しい歯磨きの方法

歯磨きは、ただ磨けば良いのではなく、歯と歯茎の間にある歯垢を取り除くことを意識して行わなければ意味がありません。
「歯科に力を入れている当院では、正しい歯磨きの仕方を次のようにお伝えしています。
なお、歯磨きの際は衛生面を考慮して、可能な限り使い捨ての手袋を着用するのをおすすめします」(石野獣医師 ※以下「」内、同)

STEP1
口周りを触って慣れたら、ごほうびをあげることを繰り返します。



STEP2
飼い主さんの指で歯磨きペーストを歯につけて、歯を触ってからほめます。徐々に歯に触れる時間を長くしましょう。



STEP3
歯ブラシは、飼い主さんの手が歯の上を滑っているような感覚に犬がなるように、なるべく写真のようにブラシの背面に指を密着して持ちます。
とくに第四臼歯から奥は歯周病になりやすいので、しっかり磨くことを意識してください。犬の歯の形とその凹凸をイメージしながら、ブラシがしっかり歯の全体や歯周ポケットに入るようにブラッシングするのが秘けつです。



STEP4
歯磨きペーストを歯ブラシにつけて、歯に触れます。「おりこう~」と明るい雰囲気を作り、ごほうびをあげながら歯磨き好きな子にさせましょう。



STEP5
奥歯は磨きにくいですが、1本1本のパーツを磨いていく感覚でブラッシングを。



STEP6
歯の外側が磨けるようになったら、内側を磨くことにチャレンジ。歯は根元から磨いていくのがポイント。

もしうちの子が歯磨きをイヤがる様子を見せたら、スムーズにできるステップまでひとつ戻って、そこを完璧にしてからステップアップするようにしましょう。
歯磨きは、毎日、毎食後行うのが理想的です。

犬の歯科の最新治療とは?

かまくらげんき動物病院の歯科(歯周病外来)では、最新の歯周病治療も行っています。

ひとつが、プラズマ治療。
「麻酔をかけない歯周病治療で、プラズマ技術で生成する活性種を含む窒素ガスを、炎症のある歯肉患部に吹き付けます。プラズマの活性種には細胞活性化の結果として消炎作用があるので、歯茎の炎症である歯肉炎の症状を抑え、口臭を軽減させることができます」

プラズマエアの噴射は1回7分間。犬が痛みを感じることはありません(複数回の通院が必要です)

プラズマエアの噴射は1回7分間。犬が痛みを感じることはありません(複数回の通院が必要です)

また、石野獣医師も開発者のひとりである“漢方配合IGY卵黄抗体”を用いた治療も行われています。
「この口腔ケアジェルに含まれている鶏卵抗体(IGY)、クチナシエキスや褐藻エキスの働きにより、歯肉の炎症や出血を抑制したり、歯周病菌群の増殖を抑えたりする効果が期待され、口腔内を潤わせ、痛みの軽減にもつながります」

人差し指の第一関節まで塗ったジェルを、歯周ポケットに数回に分けて塗っていくだけの簡単ケア

人差し指の第一関節まで塗ったジェルを、歯周ポケットに数回に分けて塗っていくだけの簡単ケア

かまくらげんき動物病院は2025年、熊野筆を用いた化粧ブラシのようなペット用歯ブラシも開発しました。
「犬の歯のエナメル質は人間より薄いので、歯にやさしく磨きやすい、究極の歯ブラシを追究した結果です」

熊野筆の技術を活かして作られた歯ブラシは、密生したブラシが磨きやすいのも利点

熊野筆の技術を活かして作られた歯ブラシは、密生したブラシが磨きやすいのも利点

「犬たちの健康寿命を延ばすためには、歯の健康がとても大切です。
当院では、1530運動を提唱しています。人間の8020(ハチマルニイマル)運動を犬と猫にあてはめたもので、15歳で30本の歯が残っているようにケアをしようという運動です」
このように石野獣医師が語るとおり、唾液腺マッサージや適切な歯磨きなども日課にして、うちの子の健康管理に努めてあげたいものです。

■ 石野 孝獣医師

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中国内モンゴル農業大学にて中国伝統獣医学(鍼灸、漢方)を学び、かまくらげんき動物病院を開業。最新の西洋医療と伝統的な東洋医療を融合させた動物に優しい治療を実践している。同院では歯科健診を積極的に導入し、それぞれの犬に合った歯みがき指導や口腔ケア相談のほか、抜歯のいらない歯科治療、予防歯科を実施。
一般社団法人 日本ペット歯みがき普及協会理事。国際中獣医学院日本校の創設者であり、現理事長。中国南京農業大学教授、中国聊城大学教授、内モンゴル農業大学動物医学院特聘専家、四川農業大学特別教師、中国伝統獣医学国際培訓研究センター名誉顧問、一般社団法人日本ペットマッサージ協会理事長、日本メディカルアロマテラピー動物臨床獣医部会理事長等を歴任。NHKドラマ10【シバのおきて】で松坂慶子さん演じる滑沢好美獣医師のモデルでもある。

■ 文・取材:臼井京音

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ドッグライター・ジャーナリストとして、20年以上にわたり世界の犬事情を取材。現在は犬専門誌『Wan』をはじめ週刊誌、Web媒体、会報誌等で情報発信を行う。以前は『愛犬の友』誌、毎日新聞の連載コラム(2009年終了)などでも執筆。著書に『うみいぬ』『室内犬の気持ちがわかる本-上手な育て方としつけ方をアドバイス!』がある。
現在は元野犬の中型犬と暮らす。歴代愛犬のノーリッチ・テリア2頭と同様にボールを追いかけることが喜びで、趣味はテニスとバレーボールと写真撮影。パリやNYで撮影し自宅暗室で焼いたモノクロ写真は、ドッグリゾートWoof、ペットショップP2などのインテリアにも使用されている。