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2022.05.12

【#大きな犬と】野犬だったラブラドール似の保護犬ライフは驚きの連続!

【#大きな犬と】野犬だったラブラドール似の保護犬ライフは驚きの連続!

同じ犬でも小型犬と大型犬では、育て方や食事など気をつけたいポイントがちょっと違います。でも世の中にある知りたい情報は小型犬向けが多いのが少々残念…。そんな飼い主さんのために、大きな犬にフォーカスした、最新情報やお役立ち情報を集めて紹介します。(POCHI編集チーム・大きい犬班)



今回のお役立ち情報元野犬との生活

ラブラドールとゴールデンの2頭のレトリーバーの多頭飼育をしていた田尻夫妻は、3頭目に沖縄で保護された推定3歳の大きめな犬を引き取りました。さらに、4頭目にも野犬だった保護犬を迎えました。次から次へと出現する“元野犬あるある”に対処しながら、家庭犬への成長のギャップを楽しんでいると語る田尻夫妻の、保護犬ライフを紹介します。

次に迎えるならば保護犬

「おっ! どことなくラブラドールっぽい子の里親募集が出ているよ」
犬がメインのカメラマンである田尻光久さんは、2018年の夏のある日、SNSで知人がシェアしていた投稿に目が留まりました。
千葉県の一戸建てで、半年違いのゴールデン・レトリーバーとラブラドール・レトリーバーと暮らしていた、田尻さん夫妻。投稿を見たのは、ゴールデンのきっかちゃんが旅立ってから数週間後のことでした。
「黒ラブのさくらが、妹分をなくしてさびしそうだったんですよね。それで、さくらのために、今度は保護犬を迎えようと妻と話していた矢先、黒ラブ風の垂れ耳の子の写真が目に飛び込んできたんです」
田尻さんは、さっそく保護団体に連絡して、野犬だったというその保護犬を引き取ると決めました。

沖縄の“琉球犬”の血も入っていると思われる虎柄の毛色 ©Teruhisa Tajiri

沖縄の“琉球犬”の血も入っていると思われる虎柄の毛色 ©Teruhisa Tajiri

「3歳まで沖縄の野山を駆け巡っていた元野犬か……。いったいどんな子だろう? と、ドキドキでしたね。でも、ご縁だからしあわせにしてあげたいと願い、沖縄と同じくらい暑い夏の日、羽田空港までその子を迎えに行きました」

元野犬との新生活は予想超え

田尻家に新しくやってきた黒ラブ風の元野犬は、“なつ”と名づけられました。
「私も妻もなつを意識しないように振舞い、なつのペースに合わせました。なつは到着後の2日間、クレート(ケージ)にほとんど入りっぱなし。人の姿がリビングから消えると、急いで食事とトイレを済ませていました。さくらと猫のくぅのことは全然気にしていない様子でしたが、人への恐怖心は予想以上に強そうでしたね。まさに、野生動物と暮らしている感覚でした(笑)」

黒ラブのさくらちゃんと風貌が少し似ているなつちゃん ©Teruhisa Tajiri

黒ラブのさくらちゃんと風貌が少し似ているなつちゃん ©Teruhisa Tajiri

なつちゃんに変化をもたらしたのは、先住犬のさくらちゃんの存在でした。
「さくらが平然としているのを見て安心したのか、次第にさくらのあとを追って室内を歩くようになってきました。
それで、おやつで誘導してみたんですけど、やっぱり人を疑うような目をしていて近寄らず。だけど、たまたまある日、私たちが食べていたバームクーヘンを差し出したところ、目を輝かせてかぶりついてきたんです。初めて、人の手からなつが食べた瞬間に、『おぉ!』と感動したのを思い出します。
その日から、少しずつ距離も縮まっていった気がしますね。とはいえ、リビングテーブルの下で丸くなっているなつの背中に私の足先が少し触れただけでも、そーっと身体をずらしていましたけど(笑)」
なつちゃんは、さくらちゃんのサポートも借りながら、数ヵ月かけて田尻家での生活に慣れていきました。

なつちゃんの日常の一コマ ©Teruhisa Tajiri

なつちゃんの日常の一コマ ©Teruhisa Tajiri

初体験の刺激に脱糞の連続

なつちゃんを抱っこできるまでになると、田尻さんは首輪とリードをつけてのお散歩デビューにチャレンジ。
「元野犬なので屋外は怖くないのですが、3歳にして初めてリードでの散歩でしたからね。『さぁ、行ってみよう~!』と抱っこして外に出たとたん、なつは怖がって脱糞……。自宅の庭に避難すると、庭の片隅でブルブル震えてしまいました」

さらに、なつちゃんが落ち着いていた日に初の自宅シャンプーを試みたところ、またしても糞尿を漏らしてしまい……。
「ラブやゴールデンでは考えられないくらい、なつは初めての体験に対して驚きと恐怖を感じてしまうようでした。
『そうだよね、野犬だったんだから無理もないよ。ゆっくりでいいんだよ』と、なつに声をかける日々でしたね。散歩も喜んでで行くようになるまで、半年はかかりました」

「リードをつけての散歩は苦手だよ~」と、目で訴えているなつちゃん ©Teruhisa Tajiri

「リードをつけての散歩は苦手だよ~」と、目で訴えているなつちゃん ©Teruhisa Tajiri

出産経験を活かして子猫の乳母に!

田尻さんは、なぜか自宅近くで乳飲み猫に遭遇することが多いとか。
「子猫を見つけてしまうと、放っておけません。保護した猫のうち2匹は我が家の一員になったのですが、その他にも里親さんを見つけて巣立っていった子猫がいます。
実はなつ、そんな子猫の乳母として大活躍してくれるんですよ」

なつちゃんは、子猫たちをペロペロと舐めてきれいにしたり、排泄の世話をしたり、抱きかかえて温めたりするそうです。
まだ目も開かない子猫たちは、なつちゃんのおっぱいを両手でぐいぐい押しながら飲むのだとも。
「避妊手術済みや出産していない犬や猫でも、子犬や子猫におっぱいを吸われた刺激で、ホルモンが分泌されて母乳が出ると聞きました。
きっと、なつの母乳も出ていたんじゃないかな。
なつが子猫を咥えて運んだりしている様子を見ていて、野犬時代には出産育児の経験があるようだとも思いました」
田尻さん夫妻は、なつちゃんのおかげで離乳前の子猫の育児が助かったと、感謝しているそうです。

保護猫を我が子のように育てるなつちゃん ©Teruhisa Tajiri

保護猫を我が子のように育てるなつちゃん ©Teruhisa Tajiri

野生の本能はこんな行動に?

なつちゃんは、田尻さん夫妻と暮らしたレトリーバーたちにはなかった一面を持っています。
「まず、ボールやおもちゃ遊びに興味を示しません。そんなの、ラブやゴールデンでは考えらないので、やっぱり3歳まで野犬だっただけあるなぁ~、と。
でも、ドッグランで走るのは大好きです」

田尻さんがなつちゃんを海に連れて行くと、なつちゃんは鼻を高く上げてヒクヒクと動かすとか。
「故郷の沖縄と同じにおいがするのでしょうか? かつての暮らしを思い出したりしているのかもしれませんね」
家庭犬となった今でも、野性味を残しているなつちゃん。田尻さんは、海ではレトリーバーを超える泳力を発揮すると予想したそうですが……。
「それが、なつは泳げないみたい(笑)。お腹に水が触れる深さまでは行きますが、水辺でチャポチャポするだけで、海でも川でも泳いだことはありません」とのこと。

海では泳がず、浜辺を走ったり波打ち際で水遊び©Teruhisa Tajiri

海では泳がず、浜辺を走ったり波打ち際で水遊び©Teruhisa Tajiri

なつちゃんは、ほとんど吠えることがありません。
「野山で吠えると、敵に自分の居場所がバレてしまいますよね。だから、緊急時でない限り野犬は吠えないんじゃないかと推測しています」
田尻さんは、野犬時代の生活を想像して、なつちゃんの性格形成のルーツを考察するのも“元野犬ライフ”の楽しみのひとつだと語ります。

もう1頭の元野犬がやってきた

2018年になつちゃんを迎えてから3年半後、田尻さん夫妻は新しい保護犬を迎えました。
「またまた、元野犬の“きのこ”です。さくら亡きあと、やはりなつが少しさびしそうにしていて。なつとの3年間も『いやぁ~、目と目が合うまでに1年近くかかったしさ。最初はどうなることかと思ったけど、今はこんなに立派な家庭犬になったもんね』と、妻と笑って振り返られるようになっていましたし」
そう言いながら笑う田尻さんが2021年に出会ったのは、ゴールデン・レトリーバー似の生後3ヵ月くらいの子犬でした。

イエローの長めの被毛で垂れ耳、ゴールデン・レトリーバーと少し似た風貌のきのこちゃん ©Teruhisa Tajiri

イエローの長めの被毛で垂れ耳、ゴールデン・レトリーバーと少し似た風貌のきのこちゃん ©Teruhisa Tajiri

「やっぱりラブやゴールデンサイズの大きな犬がいいと思って、ゴールデンの里親募集犬を探した時期もあったんですが、ゴールデンはすぐに新しい家族が見つかるんですよ。あまりゴールデンの保護犬にはご縁がなかったのと、自分たちの愛情と熱意で家庭犬へと大きな変化や成長を見せる“元野犬ライフ”におもしろ味を感じていたので、きのこを迎える決意を固めました」

きのこちゃんの登場で、田尻家先住の犬や猫に驚きの変化が起こったと言います。
「山口県で野良犬として保護されたとはいえ、子犬らしくはっちゃけた部分もありました。その元気さを目の当たりにして、『あれ? アタチだって弾けてもいいのかも』と気づいたのか、なつが感情を表にどんどん出してくるようになったんですよ」
さらに、なつちゃんも2匹の猫も、田尻さん夫妻に以前よりべったり甘えてくるようになったとも。
「ただ単に、新参者に対して焼きもちを焼いていたのかな?」
いずれにしても、きのこちゃんは田尻家に新たな旋風を巻き起こしたようです。

ドッグランできのこちゃんとはっちゃけるなつちゃん ©Teruhisa Tajiri

ドッグランできのこちゃんとはっちゃけるなつちゃん ©Teruhisa Tajiri

やっぱり“野犬あるある”を経験

元気で明るいきのこちゃんでしたが、やはり“元野犬あるある”行動に、田尻さん夫妻は戸惑う日々でした。
「なつは内に籠るタイプでしたが、きのこは前面に出てくるタイプ。最初は全然身体を触らせてくれないし、気に入らないことがあると牙を剥いて咬んできました。さくらやきっかなど、レトリーバー種は回収した獲物を傷つけないように歯の先端が丸みを帯びているようですが、野犬は野生環境下で獲物を捕らえる必要がありますからね。きのこの犬歯は、やたらと尖っていて咬まれると痛いんです。なつとの生活ではなかった、流血ハプニングも何度か続きました」

元野犬の人慣れや環境慣れを、ドッグトレーナーなどの力を借りて十分に行ってから譲渡先を探す愛護団体も少なくありません。
田尻さんは、なつちゃんとの経験も積んでいるため、保護直後の子犬を迎えました。
「だから、ほとんどのハプニングも想定内。妻と『こんなもんだよね~。ゆっくり行こう~』と言いながら、きのこをなだめていました」

なつちゃんときのこちゃんはよく一緒に遊びます ©Teruhisa Tajiri

なつちゃんときのこちゃんはよく一緒に遊びます ©Teruhisa Tajiri

家族以外の人を怖がるのも、元野犬ならではだとも言います。
「先代犬のさくらとなつとはすぐに仲良くなって、取っ組み合いをしたり、追いかけっこをしたりしましたけどね。他の犬とはそんな遊びをしませんでした。
でも、なつもきのことだけは取っ組み合って遊ぶので、やっぱりなつの妹分を迎えてよかったと感じています」

2頭の元野犬が喜ぶ楽しみを追求

ほかの人にもフレンドリーだったレトリーバーのさくらちゃんときっかちゃんと暮らしていた時代とは、田尻さん夫妻のお出かけスタイルも変わりました。
「人混みではフリーズしてしまうなつときのこのために、誰もいないところに日帰りで旅行に行くことが多いですね。たとえば、川や海、あとは雪が積もる軽井沢とか。なつたちが慣れ親しんできた自然の中で、思い切り遊ばせてあげたいから」

誰もいない雪積る平原で追いかけっこ ©Teruhisa Tajiri

誰もいない雪積る平原で追いかけっこ ©Teruhisa Tajiri

「レトリーバーたちは、トレーニングを教えれば教えるだけ、あっという間に習得しました。でも、元野犬たちには『時間をかけて、できることを増やそうね』と語りかけつつ見守りつつ、必要なときに手助けをするイメージで付き合っています。
同じ元野犬でも、なつときのこは性格が違います。きのこは、動くものを追いかけたいという本能が強そうで、ディスクをやらせたら夢中になるかもしれません。
元野犬の“苦手”や“平気”を突然発見して、『へぇーっ』と目を丸くしながらの生活は、本当におもしろいですよ」
そう言いながら微笑む田尻さん夫妻の元野犬ライフの第二章は、まだ始まったばかり。これからも、思い出を彩る驚きと楽しみがたくさん待ってるに違いありません。



ライター:臼井 京音





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