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2024.02.13

犬の健康にも深く関係?免疫グロブリンとは?獣医さんに聞きました[#獣医師コラム]

犬の健康にも深く関係?免疫グロブリンとは?獣医さんに聞きました[#獣医師コラム]

犬の免疫系に関する情報を調べていると、ときどき「免疫グロブリン」という言葉を見かけたり、聞いたりすることがあるかもしれません。
この免疫グロブリンとはどのようなものなのでしょうか?また、犬の健康とはどのような関係があり注目されているのでしょうか?

病気の治療にも関係する言葉なので、獣医さんに解説していただきました。

DOG's TALK

獣医師 菱沼 篤子

獣医師 菱沼 篤子

犬の栄養指導や犬の健康に関する専門知識を持つコンサル担当スタッフとして、さまざまな飼い主のお悩みを聞いている。

免疫グロブリンとは

免疫グロブリンとは、抗体としての機能と構造をもつタンパク質のことをいいます。
免疫グロブリンは、血液やリンパ液などの体液中にあり、全身を巡っています。その働きや構造の違いによって分類され、血液検査ではその増減をみることでアレルギー反応の有無を判断したり、病気の原因の特定にも活用されています。
異物やウイルスなどに反応し、排除する働きを持つ種類のグロブリンは、治療薬としても使われることがあります。

犬の体内に存在するグロブリンは、IgG、IgA、IgM、IgE、IgDの5つの種類があります。(人間と同じ種類です)

免疫グロブリンの種類

■IgG

IgGは、すべてのグロブリンの中で最も多く血液中に含まれています。
体内に侵入した細菌やウイルスから体の機能を守ることが主な働きです。体内に侵入してきた病原体やウイルスなどの異物を感知すると、IgGが病原体などと結びつき増殖や細胞へのダメージを抑えるなどして、白血球(侵入者を倒す役割を持つ免疫細胞です)の働きをサポートしています。
また、胎盤を通過して胎児に移行するため、生まれてからしばらくの間、赤ちゃんの身体を守る働きをする、いわゆる「基礎免疫」もIgGの働きです。

 

■IgA

IgAは、血液中粘膜の表面や、産後数日間分泌される「初乳」に存在し、母子免疫でも知られる免疫グロブリンです。
主に呼吸器、胃腸管、尿路系などの粘膜、粘膜下組織に多くあり、体内に侵入しようとする細菌やウイルス、毒素などを取り込まないようにする働きを持っています。
近年では腸内の常在菌に含まれる善玉菌、悪玉菌を見分けていることも新たに発見されるなど、粘膜免疫で重要な役割を果たしています。

 

■IgM


IgMは、病原菌やウイルスに感染した時に最初に作られる免疫グロブリンです。少し前に抗体検査などで話題になっていたのは、IgGとIgMの数値です。
発症してから1週目の中頃から後半に生成が開始され、いわゆる抗体検査で検出可能になるのは発症後2週目頃からとされています。

体内に侵入したウイルスや細菌などの病原に対して結びつく力が強いのが特徴で、生体内に侵入した病原体などを感知すると、真っ先に増加して最初期の免疫で病原体を除去します。

■IgE

IgEは、グロブリンの中でも最も量が少ない免疫グロブリンです。多くの方が関心を持っているであろう、アレルギーに関係しているのはこのグロブリンです。

IgEは、肥満細胞(といってもいわゆる太りすぎ=肥満とは関係ありません)と呼ばれる細胞と結合しており、アレルギーの原因となるタンパク質=アレルゲンと出会うことによって、肥満細胞からヒスタミンが放出されます。
ヒスタミンは、この部分がダメージを受けていますよ、と緊急信号を発信するようなもので、体を守るために分泌されるものです。しかし、本来はヒスタミンを分泌する必要がないようなものにも過剰に反応してしまうことで、炎症が引き起こされるのがアレルギー反応です。

血液中のIgEの量は、アレルギー検査や寄生虫感染症などの検査でもチェックしています。

■IgD

まだ分かっていないことが多いグロブリンです。呼吸器の感染症による防御機能に関与すると言われていますが、ほかのグロブリンと比較して正確な機能まではよくわかっていません。

腸内環境と免疫グロブリン

2023年に発表された最新研究によると、免疫グロブリンが腸のバリア機能を強化し、腸内環境を改善することにも関与していることが実証されたとのことです。
先ほどご紹介したIgAが主に腸内に存在していることが知られていましたが、体内に病原体が入り込むことを防ぐだけではなく、お腹の調子も整えることにも役立っていたんですね。
腸は食べ物から栄養を取り込む器官です。腸の状態は健康の基本ですし、腸内細菌には免疫細胞を活性化させる成分を分泌するものもありますので、腸内環境を健康的に維持することは免疫の働きに、そして免疫の働きは再び腸内環境の健康維持に…といった良いループを保つことが大切だということが、改めて立証された形です。

これからのドッグフード


さて、先ほどご紹介した最新研究では、ドッグフードについても触れられています。
腸内環境を整え、免疫系の健康維持にはタンパク質、アミノ酸、プロバイオティクス、魚油といった成分をバランスよく取り入れることができるドッグフードが免疫系の健康維持に役立つと紹介されていました。
現段階ではどの成分がどれくらい、どのような形で摂取できるのが良いのか、はっきりしていないところも多いです。最適なバランスなどについては今後明らかになっていくと思います。
将来的には、継続的に食べさせることで、病気なりにくい体作りを実現する…そんな体調管理を意識したドッグフードが登場することになるかもしれません。

おわりに

今回は犬の健康診断などでも触れられることがある免疫グロブリンについてご紹介しました。
この研究は引き続き継続されていますので、今後より一層詳しいことが分かっていくことになりそうです。
免疫系と食事の関係性は気になる飼い主さんも多いと思いますので、正確なことの判明が待たれます。