• コラム

2026.03.12

【#獣医師に聞く】痩せすぎ注意!中医学の視点から獣医師が体調管理をアドバイス

【#獣医師に聞く】痩せすぎ注意!中医学の視点から獣医師が体調管理をアドバイス

文=臼井京音

あまり目立たないけれど、実は犬との生活を陰で支えている繊細なプロの仕事の存在を、意識したことはありますか?犬と暮らしていくうえで欠かせない知識や知っておきたい情報、身に着けておきたい技術などについて、"真のプロフェッショナル"とたたえたい、ある方面で専門性の高い有識者の方々にインタビューした内容をご紹介しています。(POCHI編集チーム)

   

今回のお役立ち情報痩せていることの問題点と改善法

人間の鍼灸師の資格を持ち東洋医学に詳しい菅野晶子獣医師に、中医学的な観点から、犬の体質による健康管理法や、食が細い子が食べるようになる根本的な改善策を教えていただきます。

痩せていることも問題

人ではメタボリックシンドローム健診もあり、太っていることが問題視されやすいでしょう。
けれども、人間同様、犬において痩せすぎもよくありません。
アキホリスティック動物病院(東京都八王子市)の院長で、東洋医学に詳しい菅野晶子獣医師によると、
「中学的には、痩せているほうがいいとか、太っているほうがいいとか、この身長にはこの体重や腹囲が最良だとか、そのような考え方はありません。それぞれの体質や体形が違いますから、なによりも体質による健康管理を重視しています。
けれども、人間も犬も、痩せすぎている状態では身体の防衛機能が落ちる(免疫力が低下する)ので、風邪症状の出るような感染症にかかりやすくなる、大病をした際は病気と戦うエネルギーが足りなくなるといった懸念が生じます」とのこと。

筆者のまわりには、犬の破壊行動やストレス発散行動が増す原因として、食欲が満たされていないことも影響していると感じているドッグトレーナーも多くいます。
また、ごはんの量が増えたことで食糞が収まった犬も、筆者は実際に複数知っています。

子犬は体内の水分量が多いのでぽっちゃりしていて問題ありません

子犬は体内の水分量が多いのでぽっちゃりしていて問題ありません

子犬で痩せすぎている場合、身体の発育が健全に進まないことは想像にかたくありません。
食が細い子は低血糖になりやすく、低血糖症になると元気がなくなり、症状が進むとけいれんが起こったり命を落とす危険性もあります。
消化機能が未発達な子犬に1日に3~4回に分けて食事を与える理由のひとつは、低血糖を予防するためでもあるのです。

飼い主さんがうちの子の健康管理に気を遣うのは、愛情の証。けれども、太らせてはいけないと気にするあまり逆に痩せすぎにさせていたり、常に食欲が満たされず飢餓状態にさせていては、うちの子が心身ともに健康であるとは言えません。
たとえばドライフードのパッケージに記載されている給与量は、現在の体重に対しての給与量ではなく、理想体重における給与量の目安であると理解することなど、正しい知識で、うちの子が常に良好でハッピーな状態でいられるように管理してあげたいものです。

明らかに痩せすぎ。原因を探ることと対策が必要です

明らかに痩せすぎ。原因を探ることと対策が必要です

うちの子が痩せているかをチェック

うちの子が痩せているか太っているかを確認するには、ネットで「ボディ・コンディション・スコア(BCS)」と検索すると出てくる、犬の理想体型のイラストと解説を参考にしてください。BCSは、犬の体を触ったり横から見たりすることで、犬の肉付きの状態を把握できる評価を5段階または9段階にまとめたもの。
BCS3のスコアが犬の理想的な体型です。肋骨が薄い皮下脂肪で覆われていて、飼い主さんの手で触ると肋骨が確認できる状態。

犬を真上から見ると、腰はゆるやかにくびれていて、横から見ると腹部が後脚の付け根にかけてつり上がっているのがBCS3の理想的な体型

犬を真上から見ると、腰はゆるやかにくびれていて、横から見ると腹部が後脚の付け根にかけてつり上がっているのがBCS3の理想的な体型

肋骨が少し浮き出て見え、簡単に肋骨を触れるのは、痩せ気味であるBCS2のスコア状態。
肋骨や腰椎や骨盤の形がはっきり浮き出て見え、手で触るとゴリゴリした感触があるようであれば、痩せすぎとされるBCS1のスコアの状態です。

ここで注意したいのが、プードルやポメラニアンのように被毛がフワフワしている犬種だと、見ただけでは痩せているか判断できないこと。うちの子の体をしっかり触って、痩せすぎでないかを確認するのが重要です。

太れない理由とは

菅野獣医師は、ガリガリに痩せた状態で保護された犬を家族に迎えました。
「うちのウメが痩せていたのは、放浪生活中に十分な食料を確保できなかったのはもちろん、寄生虫がいるカエルを食べてしまうなどして、寄生虫が原因で下痢をしていたからです。
最近、診察をすると元野犬や劣悪な環境の繁殖場からレスキューされた保護犬には、寄生虫がいるために太れない子もめずらしくありません。
なお、新鮮な下痢便を使って検査しないと見つからないジアルジアなどの寄生虫もあるので要注意です。
うちの子に適切な量のごはんを与えているのに下痢をしたりして痩せている場合、その原因を特定するのが先決です」(菅野獣医師)

15歳でノーズワークを楽しんでいた、菅野家のウメちゃん

15歳でノーズワークを楽しんでいた、菅野家のウメちゃん

痩せてしまう原因は、ほかにもあります。
「中医学では”陰虚(いんきょ)”という体質があります。これは体を潤し冷ます働きをもつ”血(けつ)”や”津液(しんえき)”が不足し、相対的に体内に”虚熱(きょねつ)”と呼ばれる熱っぽさなどが生じている状態です。
陰虚の体質では、体が乾きやすく水をよく欲しがる、痩せ気味、体がほてるといった特徴がみられることがあります。
食事の偏りや慢性的な消耗、加齢などによって陰虚が起こると考えられており、日常の食事や水分バランスにも注意が必要です。
体質や病気が原因で痩せている可能性があることも、念頭に置いて対応策を考えるのが大切です。
もし痩せていることが気になる場合は、獣医師に早めに相談することをおすすめします」(菅野獣医師)

また、栄養バランスが偏った食事をしていると、毛づやも悪く痩せがちになる可能性が高くなります。
「ドッグフードであれば、子犬のうちから栄養バランスが整っている総合栄養食を食べることが重要です。脂質、タンパク質、炭水化物がバランス良く含有されていてビタミン、ミネラルも配合されていて、さらに原材料が良質な総合栄養食を選びましょう。
とはいえ、繰り返しますが中医学的にはバランスが良いごはんを適切な量食べたからといって、それぞれ体質が異なるのでみんなが同じ体形にはならないことも覚えておいてくださいね」(菅野獣医師)

良質な総合栄養食を、理想体重に対する給与量を目安に与えましょう

良質な総合栄養食を、理想体重に対する給与量を目安に与えましょう

食が細いのはなぜ?

食が細くて痩せている犬も、少なくありません。
「うちの子が食べたくない理由を、考えたことはありますか?
まず、人も犬も夜間によく眠れていないと、朝ごはんを食べる気にならないんですよ。
睡眠中は全身をめぐっている血液が肝臓に戻ってくるため、ホルモンが正常に分泌されたり、免疫をコントロールするための生理活性物質が出ます。夜間に安眠できて肝臓に血がたまらないと、翌朝に疲労感が残るので食欲が湧かない可能性があるのです。夜はなるべく真っ暗な部屋で寝ることが、飼い主さんも含めて大切です」と、菅野獣医師。

犬も人間と同じように、夜間に明るすぎる部屋にいたり、テレビやPCのブルーライトを浴び続けたりすると、脳の興奮状態が続き良質な睡眠を得られません。
「肝臓は“怒りの臓器”と呼ばれ、肝臓の不調がイライラを招いてしまうことも……。
規則正しい生活を送り、なるべくストレスがかからない環境にうちの子を置いてあげること。それだけで、食が細い子が食べるようになるかもしれません」(菅野獣医師)

明るい部屋で寝かさなければならない場合、暗くなるようなドッグベッドやクレートを用意して

明るい部屋で寝かさなければならない場合、暗くなるようなドッグベッドやクレートを用意して

また、中医学で定義される“脾虚(ひきょ)”の状態にあると、脾臓の働きが弱まっているので食べ物をうまく消化吸収できず、食欲不振や冷えや下痢などの不調が現れやすくなります。
「なかでも“脾気虚(ひききょ)”の状態の場合、全身の倦怠感を伴い、食べる力が湧かなくなります。うちの子の食が細いことでお悩みの場合、中医学に詳しい獣医師にいちど相談してみてくださいね」(菅野獣医師)

それでは、食が細い子の解決策を教えてもらいましょう。

うちの子にちゃんと食べてもらうには

生活習慣や食事への少しの工夫で、食が細い子が変化する可能性があると菅野獣医師は言います。

1. 適度な運動をする

運動不足は不健康を招く恐れがあります。
「ストレスがたまったり運動をしないと、体内に余分な水分や老廃物がたまる“痰湿(たんしつ)”になる可能性が高まります。痰湿の状態になると、軟便や下痢、体が重だるいといった症状が出てしまうので、良いものを食べていてもスムーズな消化排せつができなくなってしまいます。
チワワのような超小型犬や老犬だから運動が不要なわけではありません。
その子その子に適量な運動は、ストレス解消の意味でもさせてあげてくださいね」(菅野獣医師、以下「」内同)

運動は中医学的には水分や老廃物を輩出するためや、ストレス軽減のために大切

運動は中医学的には水分や老廃物を輩出するためや、ストレス軽減のために大切

2. 心配そうに食べている様子を見つめない

「家族の『食べてくれるかな』というような圧が強く、じっと監視されているような雰囲気の中では、犬たちは緊張して食欲が失せがちです。『まぁ、食べてくれたらうれしいけど、食べなくてもいい』くらいの軽い気持ちで、圧をかけず見守るようにしてあげましょう」

3. 冷えた食べ物を与えない

冷たい食べ物は胃腸の消化機能に悪影響を与えます。
「冷蔵保存していた缶詰のフードやパウチフードを、冷蔵庫から出してすぐに与えるのはやめましょう。冷えた食べ物で下痢をする恐れがあります。お湯を加えたり湯せんしたりしてから、飼い主さんの指で温度を確かめてあげてくださいね」

4. 安眠できるひとり時間を提供してあげる

「意外に思うかもしれませんが、リモートワークの飼い主さんや乳幼児と暮らす家族などでひとり時間が確保できていない犬では、慢性的な睡眠不足に陥っている場合があります。日中の家族の在宅中も、静かに過ごせるひとり部屋やスペースにいさせてあげたりして、安眠できる時間は確保してあげたいものです」

うちの子が休息できるひとり時間を提供してあげましょう

うちの子が休息できるひとり時間を提供してあげましょう

5. ストレスを取り除く

日常生活のあらゆるシーンで、うちの子のストレスを取り除いてあげるのも大切です。
「心身がほぐれるマッサージやツボ圧しなども、気づいたときには飼い主さんとのスキンシップタイムもかねて実施したりすれば、心地よいひとときが増えますね」

飼い主さんと散歩に出かけて遊んだりしながら過ごす幸せなひとときが、健康づくりに欠かせません

飼い主さんと散歩に出かけて遊んだりしながら過ごす幸せなひとときが、健康づくりに欠かせません

飼い主として、うちの子の毎日のリズムをなるべく崩さないように心がけながら、適度な運動と良質な睡眠と胃腸にやさしいごはんを提供し、うちの子の体とメンタルを整えてあげたいものです。そうすればきっと、ごはんをおいしくもりもりと食べてくれて、痩せすぎでも太りすぎでもない、その子のベストな状態と体重を維持できるようになるに違いありません。

DOG's TALK

健康維持のための工夫 By菅野晶子先生

健康維持のための工夫 By菅野晶子先生

今、我が家には元保護犬のチワワがいます。食事に気をつけるのはもちろんのこと、ツボ圧しやマッサージなどを日課にして、健康維持に努めています。



■ 取材協力:菅野晶子獣医師

bigdog-choose-skinny-dogs-food_prof.jpg東京都八王子市のアキ ホリスティック動物病院の院長。獣医師、鍼灸師、国際中医師、 日本獣医ホメオパシー学会認定医。元保護犬や元保護猫と暮らし、人や動物を癒すことをライフワークに幅広く活動を行っている。





■ 文・取材:臼井京音

profile_202506.jpgドッグライター・ジャーナリストとして、20年以上にわたり世界の犬事情を取材。現在は犬専門誌『Wan』をはじめ週刊誌、Web媒体、会報誌等で情報発信を行う。以前は『愛犬の友』誌、毎日新聞の連載コラム(2009年終了)などでも執筆。著書に『うみいぬ』『室内犬の気持ちがわかる本-上手な育て方としつけ方をアドバイス!』がある。
現在は元野犬の中型犬と暮らす。歴代愛犬のノーリッチ・テリア2頭と同様にボールを追いかけることが喜びで、趣味はテニスとバレーボールと写真撮影。パリやNYで撮影し自宅暗室で焼いたモノクロ写真は、ドッグリゾートWoof、ペットショップP2などのインテリアにも使用されている。