• コラム
  • 獣医師コラム

2021.10.25

抗がん剤治療とがん治療中の犬の食事について【獣医師コラム】

抗がん剤治療とがん治療中の犬の食事について【獣医師コラム】

DOG's TALK

この記事を書いた人 (庄野 舞 しょうの まい)獣医師

東京大学 農学部獣医学科卒業。 東京大学付属動物医療センターにて、血液腫瘍科、神経内分泌科、消化器内科で従事。 たくさんのペットの生死を見てきて、共に戦った飼い主さんが最終的に願うのは「食べさせてあげたい」という思いであることに気づく。 現在は、病気予防のふだんの食事のこと~漢方、植物療法の世界の探求に励む。はじめの一歩に漢方茶マイスターを取得。 得意分野は、犬猫の血液腫瘍と回虫。講演なども行っている。

筆者に関する情報はこちら

*1  筆者についてもっと詳しく

*2  これまでの獣医師コラム

この数十年で犬の寿命は2倍近くまで伸び、そのこともあいまって、犬でも「がん」がよく見られる疾患の一つとして認識されるようになりました。がんへの治療はさまざまありますが、今回は抗がん剤治療について、どういった治療法なのか、気になる副作用などを解説します。また、がんの治療中の食事についても、気を付けなければいけないことなどをまとめてみました。

がんとは何か

「がん」が何かをお伝えする前に、まずは腫瘍について解説します。わたしたち生物の身体では日々、たくさんの細胞たちが遺伝子に制御された中で分裂を繰り返し、生命機能を維持しています。ほとんどの細胞はつねに制御された状態で活動しますが、時には一部の細胞がこの制御から逸脱してしまうことがあります。この逸脱してしまった細胞が、勝手に分裂や増殖をし、そして成長してしまったものを「腫瘍」と呼びます。

腫瘍には良性腫瘍と悪性腫瘍があり、良性腫瘍は分裂や増殖の速度が遅く、膨らむように大きくなる特徴があるのに対し、悪性腫瘍は、成長速度が速く、また成長する際に周りの細胞や組織を巻き込みながら大きくなることが特徴です。この、周りを巻き込みながら増殖することを浸潤と呼び、良性腫瘍との最も大きな違いとなります。そのため悪性腫瘍では、腫瘍細胞が浸潤によって最初にできた腫瘍の場所から離れて、他の場所にも腫瘍ができることがあり、これを転移と呼びます。悪性腫瘍の重症度は、浸潤や転移の有無などによって定義されます。
 
さて、今回のテーマである「がん」についてです。
「がん」は臨床現場で使われる呼び名で、前段でお伝えした悪性腫瘍のことを指します。そのため良性腫瘍はがん、とは呼びません。がんは全ての細胞がなりえますが、固形がんのうち、皮膚や胃、腸の粘膜などの上皮性細胞と呼ばれる細胞から発生したものを漢字で「癌」、筋肉や血管、神経などの非上皮性細胞と呼ばれる細胞から発生したものを「肉腫」と分類します。固形の塊を作らないがんとしては、白血病や悪性リンパ腫などの血液がんが該当します。平仮名のがん、と漢字の癌では違うものを指すためとても分かりづらいですが、この違いをうっすらでも理解しておくと、情報を集めるときに少し役に立つと思いますので最初に書きました。

抗がん剤治療の概要

この「がん」の治療は、外科手術、放射線療法、化学療法の3つに大きく分かれます。治療法の選択はがんの種類やそのがんができた場所、そして進行の程度や年齢などあらゆる条件を加味して選択されますが、一般的に獣医療では、固形がんで取り除くことに意味がある場合は外科手術を、外科的なアプローチが難しい場所にあるが局所的ながんである場合は放射線治療を、固形がんの術後、浸潤や転移が見られる固形がん、または固形がんではない場合は化学療法を選択することが多いです。
ただし、放射線治療はごく一部の病院でしか受けることができないため、治療の選択肢として挙げられることが少ないのが現状です。
 

この3つの中で化学療法とは、薬物によるがんの治療を指し、抗がん剤治療はこの化学療法に分類されます。
抗がん剤の目的は、がん細胞を壊したり、がん細胞の増殖を止めたりすることにあり、がんの種類によって様々な薬剤が使われます。主な薬剤として、がん細胞の増殖を抑える代謝拮抗剤、がん細胞の遺伝子を破壊するアルキル化剤、細胞分裂をする際に働く微小管というものの動きを止める微小管阻害剤、遺伝子と結合して分裂を阻止する白金製剤などが挙げられます。

これらの薬剤の標的はがん細胞ですが、正常な細胞にも効果がでてしまうことがあります。がん細胞は、分裂や増殖を活発に繰り返すことが特徴の細胞なので、この特徴を持つ正常な細胞が特に影響を受けやすくなります。
たとえば消化管や血液を作る骨髄、毛根などがこのような細胞です。そのため、抗がん剤の治療中にはこういった細胞での細胞分裂に影響がでることがあります。これを抗がん剤の副作用と呼び、嘔吐や下痢などの消化器症状、白血球が減少してしまうなどの血液への影響、毛根での細胞増殖に影響がでることによる脱毛などが現れることがあります。

ヒトの抗がん剤治療との違い

抗がん剤、と聞くと、ヒトのがん治療における抗がん剤の印象が強いため、髪の毛が抜けてしまったり、嘔吐が止まらなかったりと、そういった強い副作用を想像される方が多いかもしれません。
しかし、犬ではこのような強い副作用が起きることはあまりありません。理由は、ヒトと犬では使用する抗がん剤の量が大きく異なるからです。

ヒトで抗がん剤を使用する場合、これもがんの種類やその他様々な条件に左右されますが、がんを身体からなくすことを目的とした根治治療を目指すことが多いです。
そのため一度に使う抗がん剤の量は多くなり、そしてその分、副作用も大きく出てしまうことが多いのです。この副作用には血球の減少も含まれます。血球には白血球と呼ばれる細胞があり、この白血球は外部からの細菌やウイルスなどの異物の侵入から身体を守る働きをしています。
白血球が減少することは、こういった異物が侵入しやすくなることを示し、これを感染しやすい状態、易感染状態と呼びます。このような状況では身の回りを常に清潔に保つこと、外部との接触をできるだけ避けることが重要になってくるので、ヒトでの抗がん剤治療は特に量が多い場合、入院下で行われることが多いです。

一方で、犬の場合、意識や行動をコントロールすることは私たちヒトには不可能ですし、身体中に毛が生えていたり、排泄のコントロールを行ったりすることもできませんので、清潔な環境を整えることが、たとえ入院下であっても、ヒトと異なりとても難しくなるのです。そのため、抗がん剤によって易感染状態を引き起こすことがヒトよりも大きなリスクにつながることとなり、高用量の抗がん剤を投与することが実質難しくなります。これが、犬では低用量の抗がん剤を選択する理由となっており、多くの場合は通院で低用量の抗がん剤の投与が行われます。

ヒトと比べて低用量であったとしても副作用がでることがあります。薬剤の種類によっても出やすい症状は異なるのですが、嘔吐や下痢などの消化器症状や血球減少などの血液への影響がよく見られます。抗がん剤治療中はこういった副作用がでないか、通院で確認し、副作用に対しては症状を緩和する薬などを併用して過ごしていくことになります。

がん治療中の食事療法

最後に、抗がん剤治療中など、がんの治療中の食事について、現在分かっていることをまとめてみます。がんを発症すると、栄養素の代謝が健康な時と比べて変化し、特に、炭水化物、タンパク質、脂質、この三大栄養素について、ある程度注意が必要になってきます。

 

■炭水化物


炭水化物は生き物が生きていく上で主要なエネルギー源となる栄養素ですが、これはがんにとっても同じです。
ただし、がん細胞は正常な細胞と異なる使い方で炭水化物を利用しており、がん細胞が炭水化物を利用すると、最終的に乳酸を生み出します。
この乳酸は体内でふたたびブドウ糖と呼ばれる炭水化物に変化するのですが、この変化のためには生物のエネルギーが必要になります。つまり、がん細胞が自身のエネルギー源として炭水化物を利用するたびに、その生き物の身体からはエネルギーが奪われてしまい、身体が消耗してしまう、という悪循環が生まれてしまうのです。そのため、がんを発症した動物では、炭水化物を控えた食事が推奨されています。

 

■タンパク質

タンパク質を構成するアミノ酸は、細胞の増殖のために必要な栄養素です。これはがん細胞も同じで、がん細胞が増殖するためにはアミノ酸が必要になるのですが、このアミノ酸の摂取量が足りないと、筋肉を分解するなど生き物の身体自体からアミノ酸を手に入れようとします。そのため、がんを発症した動物では、良質なタンパク質を適度に接種することが推奨されています。アミノ酸の中でも特に注目されているのがアルギニンとグルタミンで、これらはがん細胞の成長や転移を抑制する効果を持つことが分かってきています。

 

■脂質


脂質もエネルギー源として大事な栄養素ですが、正常な細胞と異なり、がん細胞は脂質をエネルギー源として利用することがあまり得意ではありません。
そのため、がんを発症した動物では、炭水化物を減らした分、脂質を増量しエネルギー源を確保することが推奨されています。
脂質には様々な種類が存在しますが、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などのオメガ3脂肪酸は、がん細胞の成長や転移を抑制する効果を持つと考えられています。一方で、リノール酸やγリノレン酸などのオメガ6脂肪酸は、その逆で、がん細胞の成長や転移を助長する可能性があると言われていますので、脂質に関してはただ量を増やすだけでなく、その種類にも気を付ける必要があります。

おわりに

今回は、抗がん剤治療と食事について、駆け足にはなりましたがまとめてみました。がんはとても怖い疾患ではありますが、治療法や対処法がないわけではありません。完治は難しくとも、化学療法や食事によって、がんの進行を遅らせたり、犬たち自体の体調を改善したり、そういった効果を期待することはできるかもしれません。一方で、がん治療はとても複雑で、かつ少しでもバランスが崩れると体調などに直結する難しい治療の一種です。そのためサプリメントや食事も含め、ご自身だけで判断するのではなく、必ずかかりつけの獣医師の先生と相談しながら検討いただけると嬉しいなと思います。

がんと戦う頑張り屋さんの犬には、栄養補給サプリメント。

がんと戦う頑張り屋さんの犬には、栄養補給サプリメント。

POCHI イミューンZ

健全な免疫・自然治癒力を維持させるために必要な機能性食品をバランスよく配合したサプリメント。免疫が落ちてしまいそうな時、病中病後の回復期におすすめです。

主原料: ホエイプロテイン、ミルクプロテイン、デキストリン、鶏卵、ラード、植物性油脂、ビフィズス菌発酵代謝物
保証分析値: 粗タンパク質 29%以上、粗脂肪 12%以上、粗繊維 1%以下、粗灰分 8%以下、水分 10%以下
原産国: 日本

対象商品を見る