• コラム
  • フォトエッセイ

2024.02.21

Dog Snapshot R 令和の犬景Vol.35 20年越しのドッグラン考

Dog Snapshot R 令和の犬景Vol.35 20年越しのドッグラン考

写真・文 内村コースケ

犬は太古より人類と一緒に歩んできました。令和の世でも、私たちの暮らしにさまざまな形で犬たちが溶け込んでいます。このフォトエッセイでは、犬がいる情景を通じて犬と暮らす我々の「今」を緩やかに見つめていきます。

20年で初めての“ドッグラン犬”

20年間で5頭の犬と暮らしてきて、ドッグランを必要とする犬は初めてである。最初のフレンチ・ブルドッグの「ゴースケ」は、噛み癖があって無理だったし、その次のフレンチの「マメ」は気が強い女子で、誰とでも上手に遊べるわけではなかった。保護した雑種の「爺さん」は、1〜2回しか走ったのを見たことがない老犬。アイメイト(公益財団法人「アイメイト協会」出身の盲導犬)のリタイア犬「マルコ」は、菩薩のように穏やかな犬で、ドッグランに初めて連れて行ったら優しく微笑んで立っているだけだったので、その時しか行っていない。その後を継いで今一緒に暮らしているアイメイトの不適格犬(アイメイトに向かないと判断された元候補犬)の「ルカ」(2歳・オス)だけが、ドッグラン大好きっ子だ。初めて一緒に行った時から誰とでも仲良く駆け回り、他の犬がいなくてもボールや僕たちを追って全力疾走する。

そんなわけで、僕らがドッグランに日常的に行くようになったのは、ルカを迎えた昨年11月からと日が浅い。今回は、ドッグラン初心者だからこそ気づいたこと、考えさせられたことを、ルカと訪れたドッグランで撮影した写真とともに、思いつくままに書いていきたい。



さまざまな形態のドッグラン

山間部のリゾートエリアにある我が家の周辺は、ドッグラン環境に恵まれている方だ。これまでに、車で15分〜1時間の範囲で6カ所のドッグランに行った。以下のようにバリエーションにも富んでいて、国内のドッグランの傾向を概ね網羅していると思う。

・公園内の無料ドッグラン(登録不要・出入り自由)=3カ所

・商業施設内の無料ドッグラン(要登録・予約制。頭数制限あり)=1カ所

・観光施設内の有料ドッグラン(登録不要)=1カ所

・動物病院内のドッグラン(診察待ちの患畜が無料で利用可能)=1カ所

このほかに、広い庭をフェンスで囲った実質ドッグランになっている個人宅も3カ所利用させてもらった。別荘地が多い土地柄、ドッグランとして整備した庭がある家が結構ある。その中には、犬仲間同士で散歩の途中で寄り集まって、毎日のように犬たちを遊ばせているお宅もあるのだ。また、うちはまだ利用したことがないが、ドッグカフェ併設のドッグランや個人経営の有料ドッグランも周辺にいくつかある。







常連が集う無料ドッグラン

都市部では、初回にワクチン接種の証明書を提出する登録制のドッグランが多いかと思うが、僕の家の周りでは登録不要・無料のいつでも誰でも利用できる所の方が優勢だ。過疎地とリゾート地にまたがる地域性が、最大の理由だろう。比較的利用者の分母が少ないため事故やトラブルのリスクが都市部よりもぐっと少ないし、少子高齢化が顕著な地元社会では、システマチックに運営・管理する体制を作るのも容易ではないと思われる。そうしたドッグランは、僕の地域では有志が行政と連携して、「自己責任」を基本に、最小限の手間と経費で運営している。

当然、登録制の方が万が一の事故・トラブルの拡大リスクは少ないわけだが、少なくとも、僕の限られた体験の範囲では、登録不要のドッグランもうまいこと回っているように感じられる。たとえば、自分の犬が他の犬とあまり仲良くできないと自覚している飼い主さんはドッグランの中には入らず、外からフェンス越しに顔見知りとおしゃべりしているだけだったり、相性が悪い子が入ってきたらリードをつけたり、タイミングを見計らってスッと帰っていくといったルーティーンが、自然とうまく回っているように見える。

こんな感じで「かっちり管理しなくてもなんとなくうまく回る」のは、利用者の大半が顔見知りだということも大きく関係していると思う。犬同士のことを考えても、性格や相性が分かっている「いつものあいつ」との間では、大きなトラブルは起きにくい。もちろん、そうした地域のつながりや自己責任論でトラブルを100%回避するのは不可能だが、登録制の是非を含め、どういう利用形態が最適かは是々非々で論じていかなければいけないのだと思う。



新参者の悲哀

一方で、ドッグランデビュー間もない新参者としては、常連さんで占められるドッグランに入りにくさを感じたのも正直なところだ、ルカ本人は、初対面の犬にも警戒心をほとんど与えない温和な性格なため、誰とでも遊べる方だ。一方で、新参者に対してマウントを取ってやろうという犬も少なからずいて、マウンティングなどのちょっかいのターゲットにされがちだ。ルカはしつこい子を一喝して遠ざけるような強さには欠ける性格なので、体当たりされたり、のしかかられて転ばされることが多い。そして、最後には「もうやめて〜」と降参のポーズを取るのがいつものパターンだ。飼い主としてはそうした犬社会の上下関係を見ているのも興味深いのだが、いつかケガをさせられてしまうのではとひやひやする。でも、ルカはルカで他の子のオモチャを奪ってドヤ顔で走り去ったりするので、お互いさまなのだが・・・。





一方、全国チェーンのホームセンターの一角にあるドッグランは、無料だが初回登録が必要で、かつ1時間単位の予約制だ。1枠あたりの利用頭数に制限があり、利用のたびにスマホアプリから空いている時間帯を予約する。予約後発行されるQRコードで解錠して入場するというなかなか合理的なシステムだ。

都会育ちの移住者で性格的にもコミュ障ぎみな飼い主としては、常連さんの人間関係で成り立っているタイプのドッグランより、こういう都会的なシステムの方が気が楽だ。ただ、同じグループが毎日のように予約を入れて半ば専有している時間帯もあるようで、使われ方によっては、かえって排他的になってしまう恐れがある点が気になっている。



世知辛さを乗り越えるのは「真の自己責任」

僕が体験した地方の事情だけでは物足りないと思う。そこで、僕の写真と文章の先輩で、秋田犬「トク」の飼い主さんのSNS投稿を抜粋して引用したい。ルカと同じく山間部の小都市で暮らすトクが、東京都心のドッグランに行った時の話。都会は都会で、なかなか大変な面もあるようだ。

■ とあるドッグランでの出来事

田舎育ちの秋田犬トクちゃんを少しでも都会の風に馴染ませようと、寒さの緩んだ昼下がり、都心の公園のドッグランにクルマで連れて行った。そこには既に、洋犬を中心として20頭を下らない先客がいたのだけど、飼い主としては都会育ちの犬たちと一緒に遊ばせる目論見なのに、トクはまるで転校生みたいに緊張していて、さっぱり溶け込まない。

万が一噛んだり暴れたりして事故がおきたら、大変な補償問題にもなりかねないので、念のため口輪をつけて慎重を期した。すると色々な犬がウェルカムな雰囲気ですり寄ってきて、体の匂いを嗅ごうとしたり顔を近づけて初顔合わせの挨拶を試みる。けれどトクちゃんはほぼ見ないでふりして無視!それどころかある一線を越えて接近する相手には目を三角にしてウ〜と唸りだす始末である。どうしてそんなに緊張してるの?あぁ〜嘆かわしい!2歳6ヶ月になっても犬の社交界でどう振る舞って良いのやら、分からないのだろう・・・。

このドッグランを日頃から仕切っているらしき常連の方から、こんな戦闘モードの大型犬は連れて来るなと言われる始末。もしも、この公共の場の仕切り方として、これがよくあることなら東京って実に住みづらいなぁー。少しでも場に慣れさせたいから、普段から調教師もつけて口輪までして来ているのに。
都会の一角の人工的なこの場所は、実に厄介なカッコつきの解放空間なのだとつくづく思う。

このエピソードにはさまざまな感想があろうかと思うけれど、僕が思うのは、ドッグランという空間で最も大事なのは、犬同士もさることながら、飼い主同士の「人間関係」だということ。そして、ドッグランで楽しく安全に遊ぶためには、日本的な上からの管理もある程度は必要だとは思うが、最終的には飼い主各々が自己責任を全うできるかどうかに尽きると思う。

この狭い日本では、なかなか犬が思い切り駆け回れるフリーな場所はない。飼い主にとっても、犬が思い切り体を動かし、感情を開放する様子を見るのは、至福のひとときである。だから、僕はやっぱりドッグランは必要な施設だと思う。社会全体にもっと本当の意味での自己責任が浸透すれば、自ずと犬の解放区も広がるはずだ。









■ 内村コースケ(写真家)

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒。中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験後、カメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「撮れて書ける」フォトジャーナリストとして、ペット・動物愛護問題、地方移住、海外ニュース、帰国子女教育などをテーマに撮影・執筆活動をしている。特にアイメイト(盲導犬)関係の撮影・取材に力を入れている。ライフワークはモノクロのストリート・スナップ。日本写真家協会(JPS)正会員。