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2024.09.11
Dog Snapshot R 令和の犬景Vol.42 リタイア犬「マメスケ」こと「マルコ」が『日本写真絵本大賞』で受賞!
写真・文 内村コースケ
犬は太古より人類と一緒に歩んできました。令和の世でも、私たちの暮らしにさまざまな形で犬たちが溶け込んでいます。このフォトエッセイでは、犬がいる情景を通じて犬と暮らす我々の「今」を緩やかに見つめていきます。
「日本写真絵本大賞」毎日小学生新聞賞に輝く
第1回から本連載にたびたび登場したラブラドール・レトリーバーの老犬「マメスケ」の物語を、写真と文で描いた『リタイア犬日記〜3本脚の元盲導犬〜』が、このたび<大空出版 第5回日本写真絵本大賞>で、「毎日小学生新聞賞」をいただきました。
「マメスケ」こと本名「マルコ」は、アイメイト(公益財団法人「アイメイト協会」出身の盲導犬)のリタイア犬です。アイメイト協会出身の犬は、使用者や奉仕者のプライバシー保護などの観点から本名を公表できないため、本連載では「マメスケ」の仮名を使っていました。一方、受賞作の写真絵本『リタイア犬日記』は、彼が亡くなった後にまとめたため、本名を名乗っています。本稿でもそれに倣って、キリスト教の聖人から取った本名の「Marco=マルコ」で呼ぶことにします。
マルコは、ラブラドール・レトリーバーの男の子。アイメイト候補の子犬を生むメスの繁殖犬を預かる「繁殖奉仕家庭」で生まれました。子犬の時から、真っ白な毛並みの美犬だったといいます。アイメイト協会で訓練と歩行指導を受けた後、長年パートナーの視覚障害者のもとで暮らし、歩行を助けました。
体力の衰えなどから現役を引退したアイメイトは、一般家庭に引き取られて余生を過ごします。マルコがそんな「リタイア犬」として我が家に来たのは、10歳の時でした。僕は、それからというもの、彼の優しくて強い生き様に心打たれ、リタイア犬としての余生を日記のように毎日写真で記録し続けました。そして、それを本連載のほか、愛犬雑誌やペットフードメーカーのサイトで随時紹介させてもらっていました。それらを写真絵本の形で再構成したのが、受賞作『リタイア犬日記 〜3本脚の元盲導犬〜』です。同作はまだ書籍化されていませんが、動画の形で公開されていますので、まずはそちらをご覧いただければ幸いです。また、本連載のマメスケことマルコが登場する回も、下記にまとめました。
■「リタイア犬日記」 〜三本脚の元盲導犬〜 -【第5回 日本写真絵本大賞】毎日小学生新聞賞 受賞作品
「Dog Snapshot R 令和の犬景」おもなマメスケ(=マルコ)登場回
*1 Vol.1 Dog Snapshot R 令和の犬景
*2 Vol.3 日本の犬連れ旅行
*3 Vol.6 12歳のちゃぷちゃぷ歩き
*4 Vol.14 Peace – 平和なごあいさつ
*5 Vol.15 「街か山か」- 終の住処の選択
*6 Vol.16 やっぱり山がいい!「犬の老後の選択」その後
*7 Vol.21 「今」を優しく強く生きる「老後の青春」
*8 Vol.26 3本脚のリタイア犬と共に迎えた浅間山麓の春
*9 Vol.29 「いつも一緒がいいね」- 犬と入れる水族館訪問記
*10 Vol.32 永遠にきらめく秋景色
「きっと神様が見ていてくれる」
『リタイア犬日記 〜3本脚の元盲導犬〜』の動画はいかがでしたか?マルコはうちに来てから2年が過ぎたころ、骨肉腫という病気で左の後ろ脚を失いました。3本脚となってからも元気に駆け回り、それまでと変わらず穏やかに暮らし続けました。『リタイア犬日記』では、脚を失う前とその後の様子を、マルコが暮らした高原の四季の風景と共に伝えています。それは僕の作品というより、マルコの生きざまそのものの記録だと思っています。
だから、僕はマルコの犬生が彼を直接知らない人たちにも伝わり、認められたのが嬉しくて仕方がないのです。作中でもマルコは、脚を失った直後に「きっと神様が見ていてくれる」と語っていますが、その言葉どおりに、骨肉腫の中央生存値の8カ月を優に超え、かなり難しいと思っていた14歳の誕生日も迎えることができました。それは、獣医さんも驚くほどの“奇跡”でした。
視覚障害者に寄り添い、自分が障害を負っても自然体で歩き続けたマルコ。最後まで僕たち家族に、出会った全ての人々に、精いっぱい愛情を寄せてくれました。僕は、そしてきっと本人も、その優しさ、ほんとうの意味での強さを、必ず誰かが見てくれていると信じていました。それが形となったのが、今回の受賞だと思うのです。
「これからもずっと、みんなと一緒」- 写真展で会いましょう!
マルコの物語は、みなさんと愛犬の物語でもあります。犬は、共に暮らす私たち人間に、惜しみなく愛情を寄せてくれる存在です。各々の物語の形は違っていても、愛犬と暮らした日々に横たわる大きな「愛」は、普遍的なものです。それは、猫や他の動物でも同じだと思います。
今年10月には、『リタイア犬日記』の写真展も開催します。写真絵本とはまた違った構成で、マルコの愛を通じて「みんなの物語」をお届けします。
「ぼくはとっても幸せだよ。そして、これからもずっと、みんなと一緒」
そう言ってマルコは天国へ旅立ちました。みなさんの愛する存在も、同じく永遠です。ぜひ、その「永遠の愛」を胸に、マルコと一緒に空で微笑むみんなに会いに来てください。
『リタイア犬日記 3本脚で駆けた元アイメイト(盲導犬)の物語』内村コースケ作品展
2024年10月4日(金)〜10月17日(木)
ソニーイメージングギャラリー銀座(東京都中央区銀座5-8-1銀座プレイス6階)11:00〜19:00 入場無料
また、同会場で開催中のこちらの写真展にも『リタイア犬日記』から2枚出品しています。
ソニーイメージングギャラリー企画写真展『わたしのともだち〜写真家と愛しい存在の物語〜 Part4』
2024年8月2日(金)〜8月15日(木)ソニーイメージングギャラリー銀座
*1 詳しくはこちら
■ 内村コースケ(写真家)
1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒。中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験後、カメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「撮れて書ける」フォトジャーナリストとして、ペット・動物愛護問題、地方移住、海外ニュース、帰国子女教育などをテーマに撮影・執筆活動をしている。特にアイメイト(盲導犬)関係の撮影・取材に力を入れている。ライフワークはモノクロのストリート・スナップ。日本写真家協会(JPS)正会員。