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2024.08.19

Dog Snapshot R 令和の犬景Vol.41 酷暑の2024年夏の水遊び景

Dog Snapshot R 令和の犬景Vol.41 酷暑の2024年夏の水遊び景

写真・文 内村コースケ

犬は太古より人類と一緒に歩んできました。令和の世でも、私たちの暮らしにさまざまな形で犬たちが溶け込んでいます。このフォトエッセイでは、犬がいる情景を通じて犬と暮らす我々の「今」を緩やかに見つめていきます。

地球温暖化に対応して「水遊び」に挑戦



年々暑くなっていく地球の夏。暑さに弱い犬たちにとっては、我々人類以上に厳しい日々が続く。ホットプレートのように熱された日中のアスファルトでは、ふだんの散歩もままならない。直射日光を避けて、夜明け前や日没後に散歩時間をシフトする人も増えている。これまでの常識や習慣にとらわれずに、犬との夏の過ごし方を考え直さないといけない時代だ。

自分の場合は、10数年前に、犬との暮らしを第一に考え、東京砂漠から長野県の高原に移住した。ここではまだ、真夏でもなんとかエアコンなしで過ごせる。それでも年々暑さは増していて、30度を超えることが多くなった日中の散歩は避けている。真夏は、長時間の散歩、野原やドッグランを駆け回るといった、これまでの遊び方がしにくい。愛犬のストレスがたまらないか心配だ。

そこで、ここ数年、ずっと頭の隅にあったのが「水遊び」への挑戦だ。我が家では、飼い主がカナヅチなのでほぼ未体験ゾーン。昨年秋に老犬との日々が終わり、今年は久しぶりに若い犬と過ごす夏が来たので、これを機会に新しい挑戦をしない手はない。これまでアイメイト(公益財団法人「アイメイト協会」出身の盲導犬)になるための訓練をしてきたルカ(ラブラドール・レトリーバー、3歳・オス)も、家庭犬としてうちに来る前に過ごした2回の夏には、おそらく本格的な水遊びや泳ぎは経験していない。



ルカと初めて行った海で。まだ波打ち際を恐る恐る歩く程度

ルカと初めて行った海で。まだ波打ち際を恐る恐る歩く程度



一方、子供の頃、ことごとくプールの授業から逃げ回っていた飼い主的には、苦手意識の最たるものが水辺である。ラブラドール・レトリーバーは本来泳ぎが得意とはいえ、そんな飼い主のもとでは、いきなり本格的に泳がせるのは危険だ。そう思って、まずは春に足がつく浅いプールに連れて行って水に慣らしてから、湖でカヌーを体験。7月に入ってから、浅い川や湖でちゃぷちゃぷ歩いたり海の波打ち際で遊んだりと、少しずつ「泳ぎ」に近づく日々を過ごした。

時代はSUP!



そんなこんなで8月に入ったころ、水遊び大好きな犬と暮らす知り合いが、犬友のグループで高原の湖に遊びに行くという話を聞きつけた。これ幸いと、今回はルカを家に残して、僕一人でカメラを手に同行させてもらうことにした。ルカ以上に水を怖がっている自分がまず、本格的な犬の水遊びをこの目で見て、勉強と心の準備をしておこうという魂胆である。

ところで、以前は、犬との水遊びの代表と言えば、カヌーだったように思う。愛犬「ガク」と世界中の川や湖をカヌーで旅した作家・カヌーイストの野田知佑さんが代表的なアイコンだ。そして最近は、カヌーよりも敷居の低いSUP(サップ)が、愛犬家の間で人気である。今回訪れた湖も、アクティビティのメインはSUP。合間合間に犬たちが水に飛び込んだり、岸辺を駆け回ったりする光景があった。















SUPとは、Stand Up Paddleboardの略で、浮力の大きいボードの上に立ってパドルで漕いで進むアクティビティだ。大人なら一人乗りが基本だが、犬や小さな子供を一緒に乗せても安全だ。慣れないうちは座ったままゆっくり漕いでも大丈夫。バランスを崩して乗員が落ちることはあっても、カヌーのような転覆の危険はほとんどない。

とまあ、理屈では安全なのは分かるのだが、百聞は一見にしかず。今回撮影させてもらった皆さんがそれぞれに愛犬を乗せてゆったり楽しんでいる様子を見ていると、自分とルカにもできそうな気になってきた。









憧れの「犬専用ビーチ」







少し残念に思うのは、日本では犬が自由に駆け回れる水辺が少ないことだ。今回訪れた湖も、SUPやカヤックを楽しむのが基本で、犬連れでの遊泳のみの場所としては提供されていない。日本の湖は遊泳者や釣り人、バーベキューを楽しむ人など異なるレジャーを楽しむ人々が混在している場合がほとんどだから、犬が締め出されがちなのは仕方がないとは思う。だが、一方で、撮影に通ったことのあるベルリン郊外の湖で見た光景が忘れられない。そこには、犬専用(優先)のビーチがあって、100頭、いや数百頭はいただろうか、大勢の犬たちがノーリードで水辺を駆け回り、見知らぬ犬同士や子供と一緒に泳いでいた。人口密度の違い、自己責任に対する考え方などの文化の違いなどがあり、日本では難しいのは重々分かってはいるが、羨ましい限りである。



上3枚 - ベルリン郊外の湖の犬専用ビーチ

上3枚 - ベルリン郊外の湖の犬専用ビーチ



日本の夏は、欧州以上に耐え難いほどに暑くなっているだけに、国内でもこんな光景が当たり前になってほしい。この日、高原の湖で出会った犬たちは、暑さを忘れて、のびのびと実に楽しそうに過ごしていたので、余計にその思いが強くなった。















帰宅後、ルカのライフジャケットを買った。その数日後、とある湖で初泳ぎ。飼い主も本人も恐る恐るだったけれど、足がつかない所まで体を支えて連れていき、手を離すとすぐに泳ぎ始めた!さすがレトリーバー、最初から上手に泳ぐものだ。暑い夏の楽しみが一つ増えたね、ルカ。



初めて泳いだルカ

初めて泳いだルカ



■ルカの初泳ぎの動画もあります

■ 内村コースケ(写真家)

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒。中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験後、カメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「撮れて書ける」フォトジャーナリストとして、ペット・動物愛護問題、地方移住、海外ニュース、帰国子女教育などをテーマに撮影・執筆活動をしている。特にアイメイト(盲導犬)関係の撮影・取材に力を入れている。ライフワークはモノクロのストリート・スナップ。日本写真家協会(JPS)正会員。2024年10月4日〜17日に、本連載でも取り上げたアイメイトのリタイア犬との日々を綴った写真展『リタイア犬日記〜3本脚の元アイメイト(盲導犬)の物語〜』(ソニーイメージングギャラリー銀座)を開催予定。