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2019.12.18

フィトセラピストが贈る、犬と暮らしのハーブ便り『ヤロー』

【この特集の資料提供】Urara Herb Design Lab. フィトセラピスト 堂山うらら氏

*1 現在、ホリステックケアアドバイザーとして人と犬へのフィトセラピーを中心としたカウンセリングや、人と犬のクオリティ・オブ・ライフに役立ち、犬と一緒に楽しめるフィトセラピー講座、ハーブ講座を行っている。

寒さが厳しくなってくると、楽しい犬との散歩も、少しだけおっくうに感じてしまう日もあると思います。
寒さは気持ちだけではなく、体調にも影響を与えることがありますよね。私たちであれば、風邪をひきやすくなるほか、犬たちには関節やオシッコに関連するトラブルが起こりやすくなってきます。

そこで、お散歩に行かれる前に、好みのハーブティーに「ヤロー」やジンジャー(ドライ)、スパイス類などをブレンドした温かいハーブティーを飲み、少し冷ましたものを犬に飲ませてから出かけてみるのがオススメです。
ヤローは、体を温めてくれるだけではなく、消化器系にもうれしい働きを持っています。おいしい食事をしっかりと栄養として体に取り込むために必須の器官である消化器系は、何かと普段とは違うものを食べることが多いこの時期に労わりたい部分です。
体をやさしくぽかぽか温めてくれるハーブたちの中から、本日はお腹の健康にも働きかける「ヤロー」をご紹介します。

冬のオススメハーブ「ヤロー」

●ヤロー
学名
:Achillea millefolium
別名:セイヨウノコギリソウ
科名:キク科
使用部位:全草

特殊な用途
抗菌、鎮痛、血管拡張、血流改善、止血、収斂、創傷、抗炎症、消化機能強化、血圧降下、利尿、駆虫

ヤローの歴史と働き

「ヤロー」の学名の「アキレア」は、ギリシャ神話のトロイ戦争中に、アキレウスが、兵士の傷の出血を止めるために「ヤロー」を使用したというギリシャ神話から由来していると言われています。
ヨーロッパの民間薬ではとてもポピュラーなハーブで、神話の中だけではなく、戦いに行く兵士たちは必ず「ヤロー」を持参し、第一次世界大戦まで歴史をとおして傷の手当てに使用されていたそうです。

フランスおよびアイルランドでは、聖ヨハネの祭日のイブの薬草と呼ばれ、病気を防ぐためにそれを門口に吊るす風習がありました。(ヤローではありませんが、日本では年末の時期に柊とイワシの頭を玄関につるす風習がありましたが、今ではすっかり見かけなくなりましたね。)
また、コショウに似た爽やかな風味のある開花前の「ヤロー」のフレッシュリーフは、サラダに加えたり、さっと茹でてお浸しやソテーとしても美味しく食べられるんですよ。 
スウェーデンでは古くから「フィールドホップ」の名でビールの蒸留に利用され、葉と花はリキュールの風味づけに利用されていました。

その他、アメリカの先住民は筋肉の強化に根の煎じ液を用い、全草のハーブティー(浸剤・煎剤)を発熱などの風邪の諸症状の緩和や胃腸の不調、婦人科系の疾患、痔疾などに用いた歴史が残されています。
中国では現在でもフレッシュリーフを傷口治療のハップ剤として用いられ、全草の煎出液は、胃潰瘍、無月経、膿瘍に処方されています。

寒がりな犬や関節に不安がある犬にオススメの理由

「ヤロー」は、伝統的に解熱に用いられる薬草としてもよく知られていて、温かいハーブティーは血行を良くし発汗を促すことで熱を下げ、毒素を体外へ放出させます。
ジャーマンカモミールやエルダーフラワーなどの発汗作用をもつハーブ同様、この作用は植物中に含まれるフラボノイドによるもので、フラボノイドは末梢動脈を膨張させ、血流を促進し、また血栓の浄化を助けます。
更に「ヤロー」に含まれるアルカロイドは血流を良くすることで血圧を下げ、シアニジンという成分は、自律神経系の副交感神経と関係が深く、内臓(胃腸、心臓、血管など)に分布しており、生命活動に直接関わっている重要な神経である迷走神経に影響を与え、心拍速度を緩めたり、胃腸の蠕動運動、発汗促進に有効とされています。

また、シアニジンとアズレンもサリチル酸と同様に抗炎症作用があり、民間療法として、様々な炎症緩和や痛みの緩和として用いられリウマチの治療に使われるのは、この理由によると思われています。
馬や犬など、動物たちへのハーブ、サプリメントに、消化機能のサポート、 関節の痛みの緩和や抗炎症、血流改善を目的として配合されているものが多いように、寒がりの犬や関節周りが気になる犬にオススメしたいのがハーブなのです。冬になると運動量が低下しがちな犬たち、関節が気になる犬たち、そして消化器系もケアしたい時に知っておくと、役に立てるかもしれません。

飼い主さんにもオススメ消化器系にも働きかける「ヤロー」

このハーブを特徴づける成分は、ジャーマンカモミールの有効成分のひとつである、 アズレン前駆物質を含む精油成分と苦味質、それにアピゲニンなどのフラボノイド類です。
ドイツ政府に対してハーブの医薬効果などを報告、アドバイスをする「コミッションE」では鎮痙、利胆、収斂、抗菌作用が記載されており、内用で胃・腸・胆系の機能障害による食欲不振や消化不良に対するトニック剤として利用されています。
一方、英国ハーブ薬局方では発汗、消炎、止血、通経作用が記載されており、内用で風邪や胃腸の不調に、外用で消炎作用と抗菌作用を生かして治りにくい傷や皮膚の炎症への局所的な使用をあげています。

飼い主さんたちにとっては、年末年始の食べ過ぎ飲み過ぎ、風邪からくる消化器の荒れや疲れが気になるところですよね。 この「ヤロー」のハーブティーがオススメです。

その他にも、「ヤロー」は、外用では生理痛などの骨盤周囲の痙れんや自律神経系の緊張状態に坐浴での適用が認められています。
古くから傷薬として用いられてきたのは、ヤローに含まれるポリフェノールの一種・タンニンの作用によるもので、鼻血を止めることからノーズブリード(鼻血)という別名があるぐらいです。あらゆる出血に用いられ、痔や、逆に無月経の治療にも用いられてきたんですよ。

健康な血流を促し、痛みを和らげるこれらの「ヤロー」の働きを見てみると、犬たち、飼い主さんにとってもこの季節に常備しておきたいハーブのひとつと言えます。

■ フィトセラピストが教える 「ヤロー」のオススメの使い方

1.用途別組合せハーブティ
寒がりな犬、飼い主さんの冷え性改善には血行促進に役立ちますし、寒くなると関節の痛みが出たり、こわばりの改善にはホーソンやジンジャー(ドライ)をブレンドして使用するのがお勧めです。
また、年末年始、食べ過ぎによる消化系のケアとしてマシュマロウやペパーミントなどとブレンドして用いたり、風邪の引きはじめにエキナセア、ローズヒップとブレンドした温かいハーブティーがお勧めです。

「ヤロー」のシングルハーブティーは少し苦みがあるので、他のハーブに気持ち少なめにブレンドするか、ハチミツやメープルシロップなどを加えるのもひとつの方法です。
また、長期の過剰摂取はまれに胃に負担を与える場合がありますので、消化器系がとても弱っている場合はマシュマロウをブレンドして使用されると安心です。


2.パットのお手入れにも
乾燥によるパットのひび割れ、皮膚を掻いて出血してしまった時、ちょっとした傷の止血や殺菌、消毒として使用できます。
更に「ヤロー」に含まれる二酸化ケイ素は組織の修復を助けるため、傷の治癒促進にも役立ちます。

DOG's TALK

フィトセラピスト 堂山うららさん

さぁ、ハーブのやさしいチカラをかりて、今よりもっとHappyな毎日をスタートしましょう。