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2019.08.26

フィトセラピストが贈る、犬と暮らしのハーブ便り『リコリス』

フィトセラピストが贈る、犬と暮らしのハーブ便り『リコリス』

【この特集の資料提供】Urara Herb Design Lab. フィトセラピスト 堂山うらら氏

*1 現在、ホリステックケアアドバイザーとして人と犬へのフィトセラピーを中心としたカウンセリングや、人と犬のクオリティ・オブ・ライフに役立ち、犬と一緒に楽しめるフィトセラピー講座、ハーブ講座を行っている。

日中まだまだ暑さが続きそうですが、早朝や夕方は風が涼しい日もあり、季節は秋に向かっています。
朝晩の涼しさで身体がホッとしたところで、夏の間に溜まってしまった疲れがでてしまうことがありますので、 夏の疲れを回復させるためにも引き続きハーブでしっかりとケアしていきたいですね。

さて、夏の終わりにご紹介させていただくハーブは、甘草(カンゾウ)という名の示す通り砂糖の50倍の甘さを持つ、漢方薬の処方でおなじみの「リコリス(甘草)」です。

晩夏のオススメハーブ「リコリス」


●リコリス

世界で使用されてきた薬草リコリスの歴史

アジア、ヨーロッパに広く分布しているマメ科のリコリスは、古くから伝統医学で用いられてきたハーブです。
マメ科のカンゾウ属の植物は現在18種ほどあると言われ、主に知られているのは「ウラルカンゾウ」と「スペインカンゾウ」です。
発祥の地である中国最古の医薬書「神農本草経」にも記載が残され、他の薬物や生薬とよく調和し、諸毒を解するとも言われ、肝障害の改善と細網内皮系(体内の異物処理機構)の強化により抵抗力を増し、解毒作用を促進させる働きがあることから「甘草は百毒を解す」と言い伝えられ、現在でも漢方処方の中で最もよく用いられています。
その他中国では喉の痛みなど初期の咽喉痛、口内炎、去痰、喘息や胃腸の粘膜を保護し、肉芽形成を促進する働きから胃潰瘍などの症状を改善するために処方され、特にストレス性潰瘍、胃潰瘍、十二指腸潰瘍に他の生薬と合わせて用いられています。

もちろんリコリスは中国だけではなく、古代エジプトやギリシャ、ローマなどでも使用されていた記録が残されています。
ドイツでもリコリスは胃、十二指腸などの消化性潰瘍と上気道カタルやうっ血に用いられ、ギリシャの自然科学者のテオフラトスはリコリスの根を喘息や乾いた咳、それに肺の病気に用いたことが記録されています。

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ちなみに「神農本草経」の元になったとされる古代中国の神様、神農は後に日本の古代医学を司る少彦名神と同一視されるようになりました。無病息災や病気の癒しの神としてこれらの神を祭る神社は信仰を集めていますが、明治の頃から人々と一緒に暮らす動物たちのための祈願祭を行っているところもあるのだとか。人々だけではなく、動物たちの健康も守ってくれる神様なんですね。

リコリスの一般的な用途

薬効が多岐にわたり、生薬の調和を取るリコリスは、現在でも風邪薬や解熱鎮痛剤、催眠鎮静薬、健胃剤、消化薬、排泄系薬、痔疾患薬、婦人薬などに配合されています。

また、市販されているのど飴や、咳ドロップなどにも配合され、肺、喉、身体から出る余分の体液を除去する働きを持つグリコシドを含み、そしてサポニンが去痰作用として働き、身体が粘液を排泄するのを助ける力があり、咳を軽くするために役立つと言われています。 秋は空気の乾燥などに伴い、肺や喉の呼吸系疾患が出やすくなる季節でもあるので家庭に常備しておくと良いかもしれませんね。

その他、甘草の甘み成分には、グリチルリチン、ブドウ糖、ショ糖などが含まれ、薬用としてだけではなく味を調える材料として、醤油の味つけやその他の食品の矯味料や、ローカロリーの甘味料としてお菓子やハーブティー、ソフトドリンクに利用されています。

夏の疲れと自律神経系のかかわりについて。

以前にも触れましたが、季節の変わり目に症状がでやすく、気がつかないうちに溜まる疲れとして注意したいのが自律神経の疲れです。
身体の様々な機能を調節する自律神経は、体内環境を自然環境にあわせて順応するために常に無意識で働いています。 
特に夏は冷房のきいた室内と、日差しが照りつける屋外とを行き来するなど激しい温度差にさらされ自律神経が対応するのが難しく、秋に向かって寒暖差もあり、働きが低下しがちになります。
自律神経の働きが低下すると、消化、代謝や免疫、ホルモンなどを上手く調節できなくなり、夏の疲れがなかなかとれず秋になっても夏バテのような不調が続いたり、免疫低下にも繋がることがあります。
これからの秋から冬にかけて起りやすい免疫低下による感染症予防のためにもしっかりとケアしておきましょう。

夏の疲れは、まずは肝臓と自律神経から。
夏の間、暑さにより食欲が落ちてしまったり、水分を過剰に摂取するため、胃腸機能が低下し、ビタミン、ミネラル、タンパク質など肝臓が働くために充分な栄養素を吸収できず、暑さによるストレスも手伝って肝臓機能が低下しがちになり、そして胃腸の消化機能は更に低下するといった悪循環になってしまうことがあります。
肝臓をいたわり、夏の疲れを早く回復させるためには、ローズヒップはもちろんのこと、 肝機能を促進し、解毒を助けてくれるダンディライオンやミルクシスルにあわせて、 自律神経の助けをするリコリスがオススメです。

もっと詳しく、リコリスの働き

リコリスの代表的な作用として、リコリスに含まれるグリチルリチンは副腎皮質を刺激して、コーチゾンに似た自然のホルモンとして作用し、ストレスにうまく対処するのに役立つコーチゾンホルモンの生成を促進することがわかっています。
この働きは環境の変化などに対応する身体の防御機構である、細網内皮系(さいもうないひけい)を強化し、身体に抵抗力をつけ、様々なストレスや炎症に対抗する副腎皮質ホルモンの働きを高める作用があります。

これらのリコリスの作用の中心はトリテルペン系サポニンのグリチルリチンと考えられていますが、他の成分が協働して生物学的な活性を高めているようです。
現代の科学的な研究によれば、リコリスは消炎作用や去痰作用、それに粘膜の刺激を緩和する働きが報告され、近年では抗ウイルス作用や免疫賦活作用が確認されています。
更に、グリチルリチンというサポニンやトリテルペノイドなどはインターフェロンの体内での産生を促進することが明らかにされ、抗癌作用物質として予防医学の分野でも期待されているハーブです。

リコリスについてはまだまだ研究中の効果も。

また、リコリスは長期にわたりステロイドホルモンを使用したために副腎の機能が低下した身体の助けとしても用いられています。
(*ただし、その使用方法は個体差もあり、摂取量を間違ってしまったりすると副作用をもたらすことがあるため、専門家の方に相談した上での使用が安心です)

その他、リコリスは抗ヒスタミン・抗アレルギー作用、抗炎症作用にも優れることから、一時的に皮膚トラブルが悪化して炎症がひどくなってしまった時や痒みが強くでてしまった時の症状緩和や、関節の炎症が悪化した時などに炎症を緩和するためにブレンドすることをお薦めすることがあります。 

そして、最近注目されているのは、リコリスは古くからローカロリーでダイエットに役立つ甘味料として使用されてきた歴史がありましたが、ある研究により、リコリスにグラブラポリフェノールという成分が含まれ、この成分が内臓脂肪や体脂肪を減らす働きをもっているそうです。
夏の暑さによる運動不足が原因の肥満が気になる場合はダイエットサポートとしてもお薦めですし、これから迎える食欲の秋にも、体重管理に役立つハーブのひとつかもしれませんね。

■ その他のポイント

1.適度な運動
自律神経のバランスを整えるための適度な運動は、夏のあいだ運動不足になりがちだった身体をほぐし、新陳代謝を高め、自律神経を活性化させることができます。 涼しい時間に出来るだけ犬との散歩時間を増やしていきましょう。

2.生活のリズム
規則正しい生活を送れるよう心掛け、夜は意図的にリラックスできる時間を作り、できれば、マッサージやハーブを使ったコンプレスなどをしてスキンシップをはかってください。なによりも睡眠を充分にとり、暑さでダメージを受けた身体を休ませましょう。

3.旬の食材
そろそろ身体を温める働きのある食材、秋に旬を迎える味覚などを意識して食事に取り入れるように心掛けてみてくださいね。


それでは、夏の疲れを速やかに取り去り、季節の変わり目を上手に過ごし、行楽、スポーツ、味覚の秋を満喫してくださいね。

注意事項

*1 ・腹部膨満、おう吐、浮腫などの症状があるときは使用を避けましょう。 ・甘草を長期間服用、過剰摂取すると、副腎ホルモン様類似作用で水腫や高血圧などの副作用を起こすことがあります。 長時間服用すると血圧の上昇などの障害がある場合もあり、特にサプリメントや健康食品でカンゾウ(甘草)を摂取する場合は規定の量を正しく、お休みを設けながら摂取するようにしましょう。 ・妊娠中、高血圧、重度の腎疾患がある場合は使用を避けましょう。 ・サリチル酸エチル(アスピリンなど)、エフェドリン、アドレナリン、インシュリン、コルチゾンの効果を増強する場合があるので、これらの医薬品を使用している場合は使用を避けるか長期連用をしないように気をつけましょう。 ・同じ名前で、ヒガンバナ科のリコリスは有毒なので間違えないようにしましょう。

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フィトセラピスト 堂山うららさん

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