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2025.04.24
犬用車椅子での"グル活"で老犬がハッピーに!

実はあまり目立たないけれど、犬との生活を陰で支えている繊細なプロ仕事の存在や、犬の困った行動を個性と捉えて前向きな取り組みでチャレンジする人、また、病気を受け入れ、病気と共に明るく生きるために工夫している人、里親が見つかるまでにできることを地道に実行している人など、#プロフェッショナル #チャレンジ #明るく生きる #犬の病気の専門家 をキーワードにインタビューした内容をご紹介しています。
今回は、車いすを使った老犬の生活の質の向上のための「グル活」情報と、その子に合わせた犬用の車いすを作る職人さんをご紹介します。(POCHI編集チーム)
今回のお役立ち情報車椅子での“グル活”
最近、老犬の生活の質の向上のために車椅子を活用する飼い主さんが増えています。数時間置きにグルグルと部屋を周りながら歩き続ける高齢犬が、飼い主さんのサポート不要で歩けるアイテムとして、車椅子が注目されているのです。車椅子での“グル活”とは? 犬用車椅子の製作者と、飼い主さんを取材しました。
車椅子が老犬の心身を元気にする!?
足腰が弱って寝てばかりになった高齢犬や、認知症などの症状で起きている時間にグルグルと周回する犬のために、車椅子はとても役立ちます。
「2020年くらいから、老犬用の車椅子の製作依頼がとても増えました。14~16歳の子が多く、そのうち7割位は柴犬です。ほかにも、レトリーバーやポメラニアン、ビーグルなど様々な犬種の老犬用の車椅子を、数百台は作りました。先日は20歳のトイ・プードルも来てくれましたよ」
このように語るのは、椎間板ヘルニアのミニチュア・ダックスフンドやフレンチ・ブルドッグ、DM(変性性脊髄症)のコーギーなどのために約15年間、オーダーメイドの車椅子を作り続けてきた“ポチの車イス”(神奈川県厚木市)の木口光儀さん。
近年はかかりつけの動物病院やシニア犬特化型クリニックからのすすめで、ポチの車イスを訪れる老犬の飼い主さんがあとを絶たないと言います。

もとは人間用の義肢装具の職人だった木口光儀さん(左)
以前の記事で紹介した老犬デイケア施設のレッツでも、車椅子を装着したら元気になり、食欲が戻って表情も明るくなったケースがいくつもあると教えてもらいました。
「犬たちの目に輝きが戻ったのを見ると、飼い主さんも同じように目を輝かせて喜んでいます。
とくに、認知症や脳の病気でグルグルと円を描くように周る子と生活している飼い主さんからは『うちの子のリードや補助具を持って、室内で夜中にクルクル回してあげていました。眠れない日々から、今日から解放されると思うとほっとします』といった声が多く聞かれますね」(木口さん)

車椅子に乗ると自由に動ける喜びや自信を取り戻して、表情が明るくなります
車椅子での“グル活”で飼い主の負担が大幅減!
16歳の柴犬と暮らす鈴木さん夫妻も、車椅子をサスケくんのために作ってもらって良かったと語ります。
「私は仕事で日中はサポートできませんが、妻は自宅で、昼間も夜中も2~3時間置きにサスケの歩行補助などをしていました。
これまで大病と無縁のサスケは、足腰は不自由になりましたがとても元気です。
1年半前に、円形のサークルをサスケのために購入して、車椅子なしの“グル活”がスタート。ところが次第に歩行が不安定になり、この半年間は頭を床について前方にでんぐり返しをしてしまうことも増え……。そんなとき、昔からペットホテルとしても利用している施設から車椅子をすすめられ、1ヵ月ほど前にさっそく“ポチの車イス”に採寸をしに行きました」とのこと。

ポチの車イスで試乗をするサスケくん
その日のうちに完成したオーダーメイドの車椅子に乗り、サスケくんがまっすぐ快走する姿を見て、鈴木さんは胸が熱くなったと振り返ります。
「3週間後、頭が下がりがちなサスケのために微調整をお願いしに再び“ポチの車イス”を訪れました。木口さんがあれこれ試行錯誤しながら、あご受けパーツを追加してくださった改良版の車椅子は、サスケもさらに気に入った様子です。
以前は自力で立ち上がれないと、夜中でも吠えて私たちを呼んでいました。でも今は鳴かなくなりましたし、サスケも身体を自由に動かせないストレスから解放されたようで穏やかな表情をしています。サスケが安全に過ごせるようにもなり、私たちが安心できるようになったのも良かったですね」

足が滑らないようにソックス(犬用靴)を履き、重りを置いた扇風機下部のパーツを土台にしてリードを付けた状態で“グル活”
サスケくんは、1日に6~10回ほど、車椅子で“グル活”。調子がいいと、1回につき20分間グルグル周っているときもあるそうです。
試行錯誤で完成した“グル活”専用車椅子
「ヘルニアの犬用の車椅子と、“グル活”用の車椅子は、作り方が違うんです」と、木口さんは言います。
木口さんが初めて“グル活”用の車椅子を作ったのは、10年ほど前のことでした。
「軽井沢に住む黒柴のクロちゃんと飼い主さんのもとへ、ときにはビジネスホテルにも泊まり何日通ったことか……。何度も作り変えたり改良したりしたあのときの経験があったからこそ、今こうして、たくさんの老犬さんと飼い主さんに喜んでもらえているのだと、依頼してくれたクロちゃんママに感謝しています」(木口さん)

“グル活”がスムーズにできるか試乗中。視覚が落ちた犬には顔を守るためのバンパーも車椅子前面に取り付けます。写真右は20歳のトイ・プードル
“グル活”用車椅子とひと言では片づけられないほど、1台ずつ細かい点が異なるとも。
「頭が天を向いている子もいれば、逆に下を向いている子もいます。大きな円を描きながら歩く子もいれば、クルクルと小回りをするタイプの子もいるし、身体が傾いている角度もそれぞれ違い、千差万別です。
周りながら歩くと前肢が流れて、自分の前肢を踏んでしまう子も少なくありません。なので、車椅子は完全にカスタムメイドです。“グル活”用車椅子を作る際は宅配採寸キットは使えず、必ず来ていただき、試乗して問題点があればすぐに改良しています」(木口さん)
完成した車椅子に乗ると、最初は戸惑ってぎこちない歩き方をする犬も多いそうですが、すぐに要領を得てスタスタと歩くそうです。
飼い主の工夫も加わりご機嫌な“グル活”生活
「1年間ほとんど寝たきりだったのに、車椅子のおかげで走れるようになるなんて、夢のようです」
「私たちも睡眠不足から解消され、介護疲れがとれました!」
木口さんのもとには、多数の感謝のメッセージや動画が届きます。
それらを見ながら、“グル活”生活の工夫点も、木口さんは興味深く見ているとか。

「このような報告写真を見るのも、学びと励みになります」と木口さん
「一緒に車椅子を作っている息子と、『お、洗濯物干しの土台のポールにリードを付けているぞ』『フラフープをガムテープで床に張り付けてる』『これは、商店の入口にある旗の土台だね』などと言いながら、スマホ画面に顔を近づけています(笑)。飼い主さんも、うちの子の“グル活”にあわせて土台の工夫をしたり円周サイズを調整したりされていて、新しく来た方への生活アドバイスの参考にさせていただいています。
これまで車椅子を作ってくれたみなさんと一緒に、新たな“グル活”さんを迎えている気分ですね」
そう言って、木口さんは微笑みます。
文・写真:臼井京音
取材協力:
*1 ポチの車イス https://pochinokurumaisu.com/