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2025.03.17
弁護士に聞いた、犬の身近なトラブル回避法
実はあまり目立たないけれど、犬との生活を陰で支えている繊細なプロ仕事の存在や、犬たちの個性や特性はときに困った行動と捉えられてしまうこともありますが、個性を受け入れて前向きにうちの子と向き合う時間につなげる楽しい"チャレンジ"に変えている人、また、病気を受け入れ、病気と共に明るく生きるために工夫している人、里親以外でも飼い主がいない犬のためにできることを地道に実行している人など、#プロフェッショナル #チャレンジ #明るく生きる #犬の病気の専門家 をキーワードにインタビューした内容をご紹介しています。
今回は、プロ仕事である法律にかかわる話をお届けします。(POCHI編集チーム)
今回のお役立ち情報犬の身近なトラブル
うちの子がもし、ほかの人や犬を咬んでケガさせてしまったら? 吠え声がうるさいと言われてしまったら? 日常生活で起こりうる犬をめぐるトラブルにどう対処したら良いか、岩井知大弁護士に話を聞きました。
うちの子がトラブルの原因になったらどうなる?
うちの子が原因で誰かに損害を与えてしまったり、逆にトラブルに巻き込まれてしまったり……。考えたくもない話題かもしれませんが、ペットをめぐる法律に関して、もしもの場合に備えて知識を得て頭に入れておきたいものです。
「ペットの管理は飼い主に責任があり、飼い犬による事故や被害が発生した場合、飼い主には民法718条1項に基づく賠償責任が問われます。これは、飼い主が動物の管理について相当の注意を払ったことを自らが基礎づけない限りは責任を負わなければならないという、重い責任です。
また、飼い主に代わって犬を管理する人も、同じ責任を負わなければなりません」
ご自身も元保護犬と暮らしていた経験があり、大の動物好きである岩井知大弁護士は、このように語ります。
うちの子は大丈夫という過信が事故を招くこともあります
賠償の範囲は、被害者の治療費、慰謝料、休業損害などが含まれます。
高額な賠償事例としては、以下があります。
1)
約1900万円の賠償(東京地方裁判所 、平成14年2月15日判決):
ゴールデン・レトリーバーの成犬が、夫と公園内を散歩していた原告の右下肢に衝突。転倒した原告の顔面、胸背部などに傷害を負わせた事例。
不法行為の成立に対しては、「被告の投げたテニスボールを追いかけていた○○が、原告の右下肢に衝突したことにより、原告は転倒したと認めることができる」と認定されています。
2)
約438万円の賠償(横浜地方裁判所、平成13年1月23日判決):
突然、犬が原告に向かって吠えかかったことから、原告は驚愕のあまりその場で転倒し、左下腿骨骨折の傷害を受け、約7ヵ月半にわたり通院。
3)
一人30万円の慰謝料(横浜地方裁判所、昭和61年2月18日判決):
受忍限度を超える犬の鳴き声に対する、慰謝料。
鳴き声で近隣住民の日常生活に不眠など支障をきたしたりしないよう気をつけましょう
責任を免れられる例外的なケースとは?
「飼い主が『相当の注意』を払っていたことを証明できれば、責任を免れる可能性もあります。『相当の注意』の基準は、犬の性質や状況によって異なりますが、一般的には、適切なリードの使用、犬がいた場所、犬の訓練(トレーニング)状況、犬の大きさや攻撃性といった特性への配慮が考慮されます」とも、岩井弁護士は言います。
たとえば、自分の犬に近づいてきた人に対して「この子は大きいから力も強いですし、フレンドリーですが近寄らないでくださいね」とはっきり伝えたり、リードを短く持って犬の動きを抑制してたのに、犬を刺激するような態度で強引に触りに来た人が、犬が動かした頭部に接触して転倒してケガをしたケースなどは、飼い主が「相当の注意」を払っていたとみなされるかもしれません。
犬が原因の事故で、以下のケースでは飼い主は責任を免れています。
ドッグランでのできごと(東京地方裁判所、平成19年3月30日判決):
事故当時、原告は広場中央付近を突っ切って反対側まで行こうと後ろを振り返りながら小走りに進んでいったのであるが、被告において、そのような者の現れる事態を予見して、飼い犬の動向を監視し、制御すべきであったとはいえないと判断。
これは、ドッグラン内で通行人がケガを負った例ですが、そもそもドッグランのような犬が自由に走り回れるという意味で危険のある場所であることを了承して、被害者が立ち入ったという事情から、責任を免れることができました。
穏やかな性質の大きな犬でも、小さな子どもに少し触れただけで倒してしまう危険性もあるのでしっかり管理を
刑事罰を問われることもある
重大な事故の場合、飼い主が刑事責任を問われる可能性もあります。
「故意に飼い犬をけしかけて人を負傷させた場合は傷害罪(刑法204条)、犬が人を押し倒すなどの暴行を行ったものの傷害に至らなかった場合には暴行罪(刑法208条)が成立する可能性があるでしょう。
また、人に対して飼い犬をけしかける行為や、他人に害を加える恐れのある犬を正当な理由なく解放する行為は軽犯罪法違反となります(軽犯罪法第12号、第30号)。
さらに故意がなく飼い犬が通行人にかみついてしまった場合でも、その犬を飼い主が制御できておらず、被害者が被害届や刑事告訴を行ったとしたら、過失致傷罪(刑法第209条)などの刑事責任を負う可能性もあります」(岩井弁護士)
傷害罪が成立すれば、起訴されて公開の刑事裁判が開かれる可能性があり、罰金刑や実刑判決が下されることもあるでしょう。
また、暴行罪や軽犯罪法違反の場合でも、公開の裁判を開かない略式命令などにより、罰金刑の前科がついてしまう恐れもあります。
飼い主が制御できない状態でうっかり通行人を咬んでしまうことがないように、どんなシチュエーションでも注意を
当然のことながら、うちの子が誰かに被害を負わせないようにしっかりと日常的に管理しなければなりません。
散歩中のリードの適切な使用はもちろん、うちの子が吠えすぎたり跳びかかったりしないよう、トレーニングをしておくことも大切だと、身が引き締まる思いがするのではないでしょうか。
うちの子が被害にあったら
日本の法律では、犬や猫などのペットは「動産」=「物」とされています。
そのため、もしうちの子がほかの犬や猫に損害を与えてしまったり、逆に損害を被った場合でも、人に対してと同等の賠償額とはなりません。
「たとえばペットショップで30万円で購入した子犬の場合、歳を取るごとにその価値が下がるとされ、人や犬に危害を加えられ命を落としてしまったとしても、たとえば1歳時には28万円、老犬時には1万円などと、動産としての犬の価値に対する賠償額は変わってきます。
とはいえ、動産としての価値は小さいとされても、愛するペットが傷を負ったことによる飼い主の精神的な損害(慰謝料)は賠償の対象となります。ただ、賠償額は決して大きくはありません」と、岩井弁護士は言います。
とくにノーリードで自由に動けるドッグランでは犬同士の事故が起こりやすいので要注意
実例を挙げると、以下のとおりです。
1)犬が犬をかみ殺した事例(名古屋地方裁判所、平成18年3月15日判決):
慰謝料10万円
2)犬が愛猫をかみ殺した事例(東京地方裁判所昭和36年2月1日判決):
慰謝料1万円
これらは裁判になった場合ですが、このような悲しい事故が起きないようにも、飼い主として注意をしておくことが重要なのは言うまでもありません。
うちの子がほかの人の持ち物を壊さないようにも気をつけましょう
トラブル回避や解決の助けになることは?
万が一、うちの子がトラブルに巻き込まれた場合、ペット保険のオプション契約などが役に立つ可能性があります。
「ペット保険の“ペット賠償特約”では、他人にケガをさせた場合、他のペットを傷つけた場合、他人の物を壊した場合に補償を受けることができます。保険会社により補償内容が異なったり、そもそもセットで加入できるオプション契約が用意されていなかったりしますが、対象となる事故について、本人に代わって保険会社が示談交渉をしてくれるサービスをつけている特約もあります」(岩井弁護士)
「うちの子に限って……」と、飼い主としては身近なトラブルに巻き込まれる事態は想像もしたくないかもしれません。
けれども、なにごとにも備えは大切。繰り返しますが、うちの子がトラブルの原因になったり、トラブルに巻き込まれないように、日頃からしつけやトレーニングをしっかり行い、社会で愛される子になるように心がけるのが重要です。
あらゆる刺激に対してびっくりしたり怖がったりしないよう、子犬期や迎えたばかりの保護犬には“社会化”にも力を入れておきたいものです。
いつもどこでも安心して過ごせるように、社会化やトレーニングは万全に
ライター:臼井京音
■ 岩井知大 弁護士


