- コラム
2025.12.24
【#真のプロフェッショナルに迫る】マンションで犬と暮らすコツをドッグトレーナーに聞く
あまり目立たないけれど、実は犬との生活を陰で支えている繊細なプロの仕事の存在を、意識したことはありますか?犬と暮らしていくうえで欠かせない知識や知っておきたい情報、身に着けておきたい技術などについて、"真のプロフェッショナル"とたたえたい、ある方面で専門性の高い有識者の方々にインタビューした内容をご紹介しています。(POCHI編集チーム)
今回のお役立ち情報マンションでの犬との共生
都心のマンションで柴犬と約16年間暮らしてきたドッグトレーナーの齋藤直子さんに、マンションで犬と暮らすうえで大切にしたい心構えやトレーニングについて、教えてもらいます。
ペットと暮らせる物件に暮らした人の声
ペットと暮らせるマンションが、賃貸も分譲も含めて日本で増加傾向にあります。
ペット可物件に関するアンケート(2025年11月、株式会社NEXERとペットホームウェブ(*1 )による調査)によると、ペット可物件(マンション以外も含む)に住んだ人の約6割が「ここにしてよかった」と満足していることがわかりました。
・新しい家族を迎えることができ生活が華やかで豊かなものに感じられました。(40代・男性)
・お隣さんも同じペットを飼っていたりで仲良くなれることもあるから。(20代・女性)
・周りもペットを飼っていて理解があるので。(40代・男性)
このような回答が寄せられ、「周囲にペットと暮らす人がいる安心感」に満足しているという結果が得られたようです。
また、ペット可物件では、同じように動物を大切に思う居住者が多く、「ペットを通じて人とのつながりができた」「暮らしがより温かくなった」と感じる声も寄せられたとのことです。
犬が一緒にいるだけで暮らしが豊かになります
では、犬とより快適にマンションで暮らすにはどのようなことを気をつけ、どのようなトレーニングをしておいたら役立つかなどを、東京都中央区と江東区で約16年間、柴犬のもぐちゃんと暮らしてきたドッグトレーナーの齋藤直子さんに教えてもらいましょう。
犬とのマンション暮らしで大切なことは?
東京都心で活動している齋藤トレーナーへの相談ごとのトップは、ダントツで吠え問題だそうです。
「住宅密集地では、室内外を問わず、うちの子の吠え声がほかの方を不快にさせてしまう恐れがあると気にする飼い主さんが多いようです。
確かに、必要以上に吠えないようにトレーニングをしておくことは、マンション生活かそうでないかにかかわらず欠かせません」(齋藤トレーナー、※以下「」内、同)
齋藤直子さんがドッグトレーナーになるきっかけを作った、黒柴のもぐちゃん
ただし、齋藤トレーナーの概念では俗にいう“無駄吠え”は存在しないとも。
「犬たちは、理由があって吠えているのです。決してムダな行動ではありません。
ドアベル(チャイム)が鳴った時には『誰か来たよ~』と教えてくれているのかも。共有廊下をガラガラと台車が通過する際には『あやしい音がしてるよ、注意して』と知らせていたり、『大切な我が家に近づかないで』とアピールしているかもしれません。
ベランダからほかの犬に吠える場合『おーい! ボクはここにいるよ~』と呼びかけていることも多いものです。犬たちからするとあいさつとして吠えているケースでも、飼い主さんからは『威嚇吠えをやめてもらいたい』と、ドッグトレーナーに相談されることも少なくありません。
まずは、うちの子がどのようなシチュエーションで、何に対して、どのように、なぜ吠えているのかをよく観察してあげてくださいね。
その結果、『教えてくれてありがとう、もう吠えなくていいよ』と、数回の吠えは許容範囲となることもあるでしょう。吠えることすべてが、決して悪ではないのです。
飼い主さんが『吠えないでっ!』『コラーッ』とキリキリ・ドキドキしながら声かけをすると、犬も神経が高ぶってさらに吠えるという負のスパイラルが生じる恐れもあります。吠えに対する対処として、飼い主さんがまずは落ち着いて、心をどっしり構えて接することが大切です」
飼い主さんが落ち着いていれば、犬も心穏やかに
吠え問題の対処法
もちろん、必要以上にうちの子が吠えると近所迷惑になる可能性もあります。
「『静かに』と言ったら吠えやむ子、穏やかな子、いつも安心して留守番できる子、物音に過敏に反応しない子に、生活習慣で育てることが大切です」
そのような犬に育てるのに、いくつかの方法をご紹介しましょう。
1. “社会化”をしておく
とくに警戒心が低く好奇心が高い子犬期は、あらゆる音やものごとに慣れる“社会化”に適した時期です。気密性の高いマンションでは、室内にいるとあまり屋外の音が聞こえず静かな環境になりがちですが、冷暖房を使用しないで済む日は窓を開けて外からの音の刺激に慣れさせるようにしましょう。
子犬期を過ぎた保護犬などを迎えた場合も、なるべく生活音を聞かせ、怖がるようならば長く噛めるおやつなどを与えながら少しずつでも慣れさせてください。
子犬期に音に慣れる“社会化”が適切にできれば、警戒吠えなどが減ります
2. 吠えなかった&吠えやんだ時にほめる
どのような行動が人間社会で生きていくうえで望ましいのかを、犬に教えることはとても重要です。なるべく叱らず、叱るよりもたくさんほめて育てるほうが、犬との信頼関係が築きやすいのは言うまでもありません。
日頃からうちの子が吠える状況をよく把握したうえで、いつも吠えがちな状況で吠えなかったら「すごい、吠えずにいられたね」と、ほめてごほうびをあげるようにしましょう。
同様に、「静かに」と毅然とした態度で飼い主さんが犬に伝え、興奮を抑えられ吠えやんだ時もほめてあげてください。
そのうち、吠えることが減ってきていると実感できるはずです。
3. ピンポンなど、吠えをトレーニングで対処
1日に数回チャイムが鳴る程度ならば、10回以内の吠えは許容範囲としてしまうのもアリです。実は吠える犬がいる家は、泥棒や強盗に入られにくいというメリットもあります。
それでも、夜間に家族の帰宅のたびに吠えるなど気になるケースもあるでしょう。その場合は家族や友人に協力してもらい、日中にチャイムを何度も鳴らしたり、ピンポン音の録音を昼に家族がいるときに何度も聞かせたりして、ピンポンという音が犬の刺激にならないように、また来客や家族の帰宅といった興奮スイッチにならないようにしてしまいましょう。
ほかの刺激音に対しても、その音が鳴っている間はおやつをあげるなどして、警戒心を下げるトレーニングをしてみてください。
吠えを減らせる工夫とトレーニング法はいくつもあります
留守番中に吠える場合
留守番をさせる際は、犬が興奮しないように声をかけないでそーっと出ていくのが良いと教えるなど、ドッグトレーナーにより対処法はさまざま。
「私の場合は、うちの子に『ちゃんと夕方には帰って来るから安心して留守番しててね』などといつも声をかけます。帰宅した時も『待っていてくれて、ありがとう』と。何事も、うちの子との対話が大切だと思っています」
退屈だったり体力が有り余っていたりと、ストレスが溜まるとこんな行動も……
留守番中に、壁を引っかいたり家具を噛んだり吠えたりといった行動をする犬の中には、日常生活でストレスが溜まっているケースもあるでしょう。
たとえば、もとは猟犬であるジャック・ラッセル・テリアなどのテリア種、ミニチュア・ダックスフンド、柴犬、ビーグルなどは、小型犬ですが運動欲求や作業意欲が高い犬種です。日頃からそれらの欲求が満たされていないと、ストレスが溜まって破壊行動や過剰な吠えが出現する可能性があります。
留守番前だけでなく、日常的に朝晩の散歩や遊びなどをたっぷり行って、犬がストレスを抱えないようにしましょう。
遊びなどでストレスが発散できると、吠えが減るケースも少なくありません
環境設定と近所とのコミュニケーションも大切
吠え対策として、住宅環境を整備するだけで解決することも少なくありません。
「ベランダに舞い降りる鳥や、窓やベランダから見えるほかの犬や猫、バイクなど動くものに吠えている場合、レースのカーテンをするだけで吠えが収まったケースもあります。
もちろん、吠えないでいられた時は、飼い主さんはほめてあげてくださいね」
同じマンション内の居住者とのコミュニケーションも大切だと、齋藤トレーナーは語ります。
「以前、犬のしつけ方教室でマンションの吠え問題に悩んでいた方に『犬が吠えてご迷惑かけて申し訳ありません。今、吠えを減らす練習をしてるので、もう少し待っていてください』って、明るく声をかけておけば気が楽になりますよ。とお伝えしたら、『その通りですね』と涙を流されていました。
ご近所さんの顔や努力が見えると、同じ状況でも相手が許容できることも多いのではないでしょうか。ふだんの人間関係ができていれば、少々吠えていても気にならないこともあると思い、私もマンション内の方々との日頃のあいさつやコミュニケーションは大切にしています」
ラグやカーペットを敷くだけで階下への騒音対策になります
飼い主としても心のあり方やうちの子への接し方を今一度見つめ直し、うちの子と対話しながら、もし問題があるならばうちの子に合った対処法を試してみたいものです。
犬と暮らせる共同住宅がさらに増え、社会で受け入れられ愛される犬も増えますように。
■ 齋藤直子さん
■ 文・取材:臼井京音
*1 ペットホームウェブ https://www.pethomeweb.com


