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2020.05.20

犬の病気とも関係している?小さな地球、マイクロバイオームっていったい何?

犬の病気とも関係している?小さな地球、マイクロバイオームっていったい何?

最近、健康に関するトピックスで「マイクロバイオーム」という言葉を目にする機会が増えてきたように思います。
マイクロバイオームというとなんだかとっても科学的なイメージをもちますが、犬たちにとっても、私たちにとっても身近に起こっている現象の考え方だったりします。
ここでは「マイクロバイオーム」という言葉の意味と犬たちの健康との関係性、そしてこれからマイクロバイオームが犬の健康にどのようにかかわっていくことになるのかについて考えてみたいと思います。

マイクロバイオームって、いったい何?

マイクロバイオームとは、犬や人間の体の中、皮膚の表面などさまざまな場所に存在している細菌類が構成する生態系のことです。人間の場合は、体の細胞すべてよりも多数の細菌がマイクロバイオームを形成しているといわれていて、それぞれが関係しあいながら生存しています。
この細菌たちの構成比率というものは、一人ひとり異なっていて全く同じ人は存在しないのだそうです。

犬も同様で、細胞とほぼ同じくらいの細菌がマイクロバイオームを構成しており、その構成は同じ両親から生まれたきょうだい犬であっても、同じということはなく、一頭一頭異なっています。

マイクロバイオームは生活習慣や食生活、環境などによっても変化することが分かっていて、また健康的な状態を維持するマイクロバイオームのバランスも個体によって異なっていると考えられています。まさに、犬それぞれ同じものはないというわけですね。

マイクロバイオームはよく「小さな地球」に例えられることがあります。
細菌たちは様々な変化を受けて数や勢力を目まぐるしく変化させつつ共存したり、戦ったりして生きています。そして、早いサイクルで世代交代を繰り返していきます。時には、捕食者と食べられる者といったように、弱肉強食の一面も。
マイクロバイオームとは、このように「腸内細菌」や「口腔内細菌」のように特定の場所に存在している菌だけではなく、体の中・外問わず存在している菌の世界=小さな地球を指す言葉なのです。

1キロくらいの小さな体の犬も、50kgを超えるような超大型犬でも、同じように体の中にそれぞれ小さな地球が存在している、と考えるとななんとも不思議でロマンすら感じてしまう気分になります。

マイクロバイオームと犬の健康の関係性って?

先ほどもお話ししたように、犬の体の中・外に存在している菌は目に見えないほど小さな単位ではありますが、それぞれ弱肉強食の世界を構築しています。そして、その犬の健康状態や生活環境、食生活などの要素によって変化していくとされています。
このことに注目して、犬と人間のマイクロバイオームのバランスを調査したところ、犬と人間に共通する病気・糖尿病ではマイクロバイオームの菌の構成バランスが非常によく似ている、ということが分かりました。

一方で、犬のアトピー性皮膚炎では、マイクロバイオームを構成する微生物の内、ブドウ球菌やマラセチアの増殖を高率で伴うことが分かっていることからも、マイクロバイオームのバランスの変化が大いに関係しているとされています。
マイクロバイオームは特定の部位だけではなく、犬の全身に存在している菌のバランスを考えることも大切だといわれています。一見直接的に関係していないような菌であっても、さまざまな形で影響しあっているとされているためです。私たちが暮らしている世界でも、さまざまな人や地域が意外な形で関わりあっているのと同じように、離れた場所にいても繋がって影響しあっているのと同じように、犬の体の中でも様々な菌たちが複雑に関係しあいながら健康状態に影響しているということなのかもしれません。

DOG's TALK

そういえば、糠(ぬか)漬けを作るときも素手で糠(ぬか)を混ぜますが、人の手の表面の菌たちの種類やバランスがそれぞれ異なっているので、作る人によって違った風味になりますよね。我が家では祖母の糠(ぬか)漬けが絶品なのですが、糠(ぬか)を分けてもらっても同じように漬けられるわけではなく、歯がゆい思いをしています。おばあちゃんのマイクロバイオームだからこそ実現できた味わいだ、ということになるのでしょうね。
マイクロバイオームは料理にも少し関係している、ということなのかもしれません。

おわりに

犬の体に何か不調が起きた時、私たちはつい器官を重点的に見てしまいがちですが、実はマイクロバイオームの種類やバランスが変化したことが原因なのかもしれません。

現在、ヒトでは皮膚、口、肺、尿路など、とくに腸のマイクロバイオームの分類を行うことで、体の中のどこの微生物生態系が乱れているのか、どうすれば良い状態のバランスを取り戻すことができるのかなどが研究されていて、検査キットの販売やフローラ検査ができる病院も出てきています。

もしかすると今後犬にも応用され、ウチの子の理想的なマイクロバイオームが分かるようになり、健康な状態に近づけるための「ウチの子だけの」対処や治療といったものが将来広まっていくことになるのかもしれません。
「お腹は健康のバロメーター」。今まではウンチで、近い将来はマイクロバイオーム、ってことになりそうです。
現段階ではまだまだ研究が進められている途中の段階ですが、これからより存在感が大きくなっていくような気がします。
それでも細菌たちのエサとなるのは変わらず今と同じ繊維質だと思われますから、犬の食事の繊維質にはぜひ意識していきたいですね。