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2023.11.09

【#大きな犬と】胃拡張・胃捻転に要注意!予防法や早期発見のポイントをおさえておこう

【#大きな犬と】胃拡張・胃捻転に要注意!予防法や早期発見のポイントをおさえておこう

同じ犬でも小型犬と大型犬では、育て方や食事など気をつけたいポイントがちょっと違います。でも世の中にある知りたい情報は小型犬向けが多いのが少々残念…。そんな飼い主さんのために、大きな犬にフォーカスした、健康や食事や遊びといった暮らしの情報を集めて紹介します。(POCHI編集チーム・大きい犬班)



今回のお役立ち情報胃拡張胃捻転症候群

骨格構成上、胸が深い犬種は胃捻転が起こりやすいので注意が必要です。これまで多くの胃拡張胃捻転症候群の治療経験を持つ川畑健獣医師に、命の危機から大きな犬を守るための大切な知識を教えていただきます。
実際に大きな犬と複数回の胃拡張で緊急で動物病院に駆け込んだ飼い主さんの経験談からも、教訓を得ておきましょう。

発症から数時間で命を失うこともある、胃拡張胃捻転症候群

ボーダー・コリー、シェットランド・シープドッグ、コッカースパニエルなどの中型犬から、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバー、コリーなどの大型犬、さらにグレート・ピレニースやグレート・デンなどの超大型犬まで、胸が深い犬種に注意が必要なのが、胃拡張胃捻転症候群。
その名のとおり、ガスや空気が溜まって胃が拡張する、さらには胃が腹腔内でねじれてしまう病気です。

胸の深い大きな犬は、胃拡張胃捻転症候群になりやすい

胸の深い大きな犬は、胃拡張胃捻転症候群になりやすい

「発症から数時間以内に処置をしないと、死亡する確率が非常に高いのがこの病気の恐ろしいところです」と、川畑動物病院(神奈川県横須賀市)で胃拡張胃捻転症候群の症例を数多く治療してきた川畑健獣医師は語ります。

「特徴的な症状は、吐こうとしているのに胃の内容物を吐き出せないことですね。胃がねじれているので、胃から食道に内容物が流れないからです。食道はねじれませんので、食道に液体が溜まっていた場合、そうした水分だけは吐くこともあるでしょう。
ハァハァと呼吸が荒くなるのも、典型的な症状のひとつ。居場所を探すかのようにウロウロする犬が多いですが、苦しくなってくると動かずにぐったりする犬もいます。
また、飼い主さんは、お腹が張ってきているのを肉眼で確認できるかもしれません。ただ、長毛種ではお腹の張りが見えにくいことや、お腹がかなり張っている状態はすでに症状が進行していて危険な状態であることも認識しておいてください」(川畑獣医師)

長毛の大きな犬は、お腹の張りに気づきにくいことも

長毛の大きな犬は、お腹の張りに気づきにくいことも

緊急手術で命拾い!胃捻転の体験談

「うちの子が2歳の頃、急に荒い息づかいをしながら落ち着きなく階段を上り下りしたかと思ったら、あちこちの床を掘ったり、オエッーっと空嘔吐き(えずき)を始めて……。途中からはヒーヒーと悲鳴をあげるようになったので急いで、夜中でしたが車で20分のところにある動物病院に駆け込みました。以前から胃捻転に関しては知識があったので、そうかもしれないと」
このように現在12歳のジャスティンくんの胃拡張胃捻転症候群の経験談を話してくれたのは、滋賀県の“ぼくらはみんないきている”で動物愛護活動を行う千夏さん。
東日本大震災による立ち入り禁止区域で保護されたジャスティンくんは、生まれつき右の肺がないことも緊急手術でわかったそうです。

黒ラブに似た風貌の雑種犬のジャスティンくん。現在の体重は22kg

黒ラブに似た風貌の雑種犬のジャスティンくん。現在の体重は22kg

ジャスティンくんの緊急手術時には、胃捻転の再発を予防するための“胃固定”も行われました。
「それから7~8年は何事もなく元気に過ごしていたジャスティンですが、前回とまったく同じ症状が夜中に出て、お腹を触るといつもとは全然違ってパンパンに張っていたので、滋賀から大阪まで1時間、車を走らせました。車中はジャスティンが痛みのせいか気絶し、それを子どもたちが叩き起こすかのようにするなど、壮絶でしたね」と、千夏さんは当時を振り返ります。
救急病院でジャスティンくんの開腹手術が始まると、胃の固定がはずれていたことがわかり、再度の胃固定が行われました。

千夏さんは2度とも、あと数分~数十分、治療の開始が遅れていたら死んでしまっていただろうと、獣医師に告げられたそうです。
「胃拡張胃捻転かなと思ってから、超特急で動物病院に向かって良かったです。夜中に症状が出たけど『朝まで様子を見よう』じゃぁ、ダメなんだと思い知りました」(千夏さん)

もし胃拡張胃捻転を疑う症状が出たら、すぐに動物病院へ

もし胃拡張胃捻転を疑う症状が出たら、すぐに動物病院へ

胃拡張胃捻転症候群を予防するには?

川畑獣医師に、胃拡張胃捻転症候群を日常生活で予防するための工夫ポイントをうかがいました。



予防法1食後1~2時間は運動をさせない

胸の深い犬種の胃内のドッグフードが膨張したり発酵したりすることも、胃拡張胃捻転症候群の発症に関連性があると考えられています。そのため、食後は最低でも1時間、理想的には3時間は大きな犬に運動をさせないようにしましょう。
「胃捻転での受診で問診をしたところ、散歩には行っていなかったけれども、室内で食後すぐに体を動かすおもちゃ遊びをしていたケースがありました。その際に空気をたくさん飲み込み、胃内のフードの発酵と相まった違和感から興奮し、さらに胃が拡張して最終的に捻転したのではないでしょうか。食後は大きな犬を興奮させないように管理するのも、とても重要です」(川畑獣医師)

食事のあとはうちの子のリラックスタイムに

食事のあとはうちの子のリラックスタイムに



予防法2食事は1日2~3回に分けて与える

一度にたくさんの量のフードを食べると、胃が膨張しやすくなる可能性があります。食事は1日2回以上に分けて与えて、胃への負担を減らすようにするのが良いでしょう。



予防法3水をガブ飲みさせない

フードだけでなく、たくさんの水が一気に胃内に入ることは胃拡張の観点から見て好ましくありません。
熱中症予防のために散歩中や運動中の水分補給は大切ですが、一気に多量の水を与えず、こまめに与えるように心がけましょう。



予防法4胃捻転予防のために胃固定手術をする

大型犬や超大型犬では最近、胃捻転を予防するための"胃固定"を去勢・避妊手術の際に行うケースもあるようです。
なお、近年、犬の身体に負担の少ない腹腔鏡手術による去勢・避妊手術を実施する動物病院も増えています。腹腔鏡手術は、胃拡張胃捻転症候群を発症して行う緊急時にはできず、あくまでも正常な状態の時での適用になりますが、予防手段として検討するのも良いでしょう。

胃拡張胃捻転症候群は予防が重要!

胃拡張胃捻転症候群は予防が重要!

巷にあふれる予防法の真偽のほどは?

胃拡張胃捻転症候群の予防法に関しては、さまざまな情報があふれています。
たとえば、食事の際の台座を高くしたほうが良いなど。
川畑獣医師によると、「巨大食道症」など食道にトラブルを抱えている犬の場合は“テーブルフィーディング”と呼ばれるような、後肢だけで立ちながら食事をする方法が胃に食べ物がスムーズに流れやすいので好ましいのですが、胃拡張胃捻転症候群の予防の面ではフードボウルの高さは関係がないと思われるとのことです。

「長年コリーのブリーダーをしている私の母は、ドッグフードは大きな犬が食べやすい中粒を選び、水を加えて少しふやかしてあげています。しかし獣医師としての立場からは、ふやかすことに関しては発症予防になったという明らかなエビデンスがなく、意味があるかは不明です」とも、川畑獣医師は言います。

うちの子がふだんと違う様子を見せていたら要注意

うちの子がふだんと違う様子を見せていたら要注意

飼い主さんが予防のための生活管理を徹底していても、胸が深い犬種は胃拡張胃捻転を突然起こしてしまうケースがあると聞きます。食後に寝ていた犬がひっくり返った拍子に、胃捻転が起こる可能性もあるでしょう。
また、千夏さんの経験でもそうだったように、川畑獣医師の経験においても、なぜか夜間に胃拡張胃捻転症候群になる犬が多いようです。
「そもそも、胃捻転が生じるメカニズム自体がはっきりわかっていません。そのためこの疾患に関しては、予防法も含めてエビデンスがまだ不足している状態です。
ただ、重要なポイントは、どんなに注意していても、いつうちの子が胃拡張胃捻転症候群を発症するかわからないと心構えをしておくことです。そして、初期症状に気づいたら、深夜でも早急に動物病院へ向かってください。日ごろから、夜間でも診てもらえる動物病院をリストアップしておくのをおすすめします」(川畑獣医師)

うちの子の健康を守るために、胃拡張胃捻転症候群に関して、正しい知識のもとに早急に対応できるように心がけたいものです。

食事や運動の管理をしつつ健やかで楽しい毎日を

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ライター:臼井京音

DOG's TALK

取材協力:川畑健 獣医師

取材協力:川畑健 獣医師

川畑動物病院(神奈川県横須賀市)獣医師。ESVPS GP cert 小動物外科ヨーロッパ認定医の資格も持つ。



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