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2023.11.08

Dog Snapshot R 令和の犬景Vol.32 永遠にきらめく秋景色

Dog Snapshot R 令和の犬景Vol.32 永遠にきらめく秋景色

写真・文 内村コースケ

犬は太古より人類と一緒に歩んできました。令和の世でも、私たちの暮らしにさまざまな形で犬たちが溶け込んでいます。このフォトエッセイでは、犬がいる情景を通じて犬と暮らす我々の「今」を緩やかに見つめていきます。

きらめきが戻った秋

この連載が始まったのは、2021年の3月。最初に掲載したのは、凍結した冬の信州・白樺湖畔を歩く我が家のラブラドール・レトリーバー「マメスケ」の写真だった<Dog Snapshot R 令和の犬景 Vol.1>。その当時はまだコロナ禍の真只中で、雪の中を歩くマメスケの表情にも厳しさが垣間見えた。

それから2年半の月日が流れ、今年2023年の秋は、全国の行楽地がマスクから解放された人々で賑わっている。冒頭と下の写真は、もみじで色づく女神湖畔の遊歩道で撮影したもの。第1回の写真を撮った白樺湖の隣にある高原の湖だ。この間、マメスケは大きな病気もして、命の危機を何度も乗り越えてきた。10歳でアイメイト(公益財団法人「アイメイト協会」出身の盲導犬)を引退して、うちの家族になって迎えた5度目の秋。いまは日常生活に介護が必要で車いすがないと歩けないけれど、紅葉を背にしたマメスケの表情は、これまで以上に柔和に見えた。

僕には、秋色に色づく風景にも、きらめきが戻ってきたように見える。この秋は、カメラを通してたくさんの「きらめく犬景」に出会った。



秋風そよぐコスモス畑で





秋の訪れを告げる河川敷いっぱいに広がるコスモス畑。そこで出会ったのが、この美人さんたちだ。アイメイトの不適格犬(アイメイトに向かないと判断され、家庭犬になった犬)とその家族のお嬢さんで、姉妹のように仲が良い。明るい日差しに照らされた花畑は、若さあふれる二人にぴったりの華やかな舞台だった。





高原の新しい仲間





この秋にアイメイトを引退して、マメスケと同じように紅葉の高原で家庭犬として第二の犬生を始めた犬にも出会った。ニックネームはオーちゃん(10歳・オス)。来た初日こそ、前のパートナーを探してクンクン泣いていたらしいけれど、大自然を駆け回るうちにすっかり新しい環境に慣れたみたい。瞳を輝かせて紅葉の森を歩く姿は、周りのみんなを元気にする。先住犬の14歳のおばあちゃん犬も、新しいやんちゃな家族に釣られて若返ったみたいだ。





愛の光景は永遠に








そして、どんな時代のどんな季節にあっても、「人と犬の絆」が紡ぐ愛の光景は変わらずに輝き続ける。今年の秋はとりわけそれが美しく見えたような気がするけれど、去年も一昨年もその前も、やっぱり変わらなかったに違いない。そして来年も再来年もその後も、僕はずっと同じことを言い続けるだろう。






(追記)
この原稿を書き終わった直後の2023年10月28日未明、マメスケこと本名「マルコ」は、14年の生涯を閉じました。骨肉腫により左後脚を失ってから1年以上3本脚で元気に駆け回っていましたが、2ヶ月ほど前から下半身が弱り始め、自力で立ち上がれなくなっていました。そして、2日前のこの女神湖の紅葉散歩が、彼の最後の外出となりました。アイメイトの誇りと共に車いすを使って最後まで歩いた姿は、とっても立派でした。

アイメイトは、生涯で5つ(人)の家族・主人と暮らします。「今を生きる」犬にとっては、その時々の家族が全てです。そうした観点からも、過去や出自の追及によるトラブル防止のため、これまで、本連載やSNSでは本名を公表していませんでした。でも、女神様の導きで天国に行ったこれからは、カトリックの聖人から取った本名の「マルコ」と書かせてください。「優しさゆえの強さ」にあふれた、みんなのマルコ。マルコほど優しい存在を、僕たちは知りません。今ごろは不自由な体から解放されて、爽やかな秋風のように優しく天国を駆け回っていることでしょう。これからもずっと一緒だね。永遠のマルコ!



(マメスケことマルコが主役の回はこちら)

Vol.6 <12歳のちゃぷちゃぷ歩き>

Vol.14 <Peace - 平和なごあいさつ>

Vol.15 <「街か山か」- 終の住処の選択>

Vol.16 <やっぱり山がいい!「犬の老後の選択」その後>

Vol.21 <「今」を優しく強く生きる「老後の青春」>

Vol.26 <3本脚のリタイア犬と共に迎えた浅間山麓の春>

Vol.29 <「いつも一緒がいいね」 − 犬と入れる水族館訪問記>



■ 内村コースケ(写真家)

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒。中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験後、カメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「撮れて書ける」フォトジャーナリストとして、ペット・動物愛護問題、地方移住、海外ニュース、帰国子女教育などをテーマに撮影・執筆活動をしている。特にアイメイト(盲導犬)関係の撮影・取材に力を入れている。ライフワークはモノクロのストリート・スナップ。日本写真家協会(JPS)正会員。