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2025.09.04
食物アレルギーでの注意点を獣医師と飼い主に聞く
実はあまり目立たないけれど、犬との生活を陰で支えている繊細なプロ仕事の存在や、犬たちの個性や特性はときに困った行動と捉えられてしまうこともありますが、個性を受け入れて前向きにうちの子と向き合う時間につなげる楽しい""チャレンジ""に変えている人、また、病気を受け入れ、病気と共に明るく生きるために工夫している人、里親以外でも飼い主がいない犬のためにできることを地道に実行している人など、#プロフェッショナル #チャレンジ #明るく生きる #犬の病気の専門家 をキーワードに、ある方面で専門性の高い有識者の方々にインタビューした内容をご紹介しています。
今回は、犬と猫の皮フ科を専門とする獣医さんからの食物アレルギーでの注意点についてご紹介します。(POCHI編集チーム)
今回のお役立ち情報食物アレルギー
人間とは症状が異なる犬の食物アレルギーについて、診断法や治療法、犬アトピー性皮膚炎との違いなどを獣医師に教えてもらいました。食物アレルギーのテリア犬の生活についても、飼い主さんから聞いたエピソードとともに紹介します。
食物アレルギーと犬アトピー性皮膚炎の違い
アレルギーと犬アトピー性皮膚炎を混同している飼い主さんが診察に多く訪れると、“犬と猫の皮膚科”(東京都江東区)の代表でアジア獣医皮膚科専門医の村山信雄獣医師は言います。その違いを、飼い主としてもまずは大切な知識としておさえておきましょう。
「犬の場合は食物アレルギーでも犬アトピー性皮膚炎でも、痒みを生じるという共通点があります。けれども、それぞれ違うものなので治療法も異なります」とのこと。
アレルギーの場合は、その犬に対して不都合なものにさらされると痒みが生じます。犬のアレルギー原因として多いのは、食物とノミの唾液です。
一方、犬アトピー性皮膚炎は皮膚のバリア機能の異常が原因。そもそも持って生まれた敏感肌と、一生涯にわたりどのように付き合っていくかが重要になります。
犬アトピー性皮膚炎は遺伝的素因も関係するため、柴犬などなりやすい犬種がいます
村山獣医師は、問診や視診などにより、目の前の犬がアレルギーか犬アトピー性皮膚炎かを判断しています。
「犬アトピー性皮膚炎の場合は、高温多湿な時期に痒みが悪化することが多いです。食物アレルギーで生じる痒みは、季節に関係ありません。なので、寒い時期に痒みと皮膚症状が収まれば、食物アレルギーだと考えられます。
なお、食物アレルギーの犬の1~2割は消化器症状が現われ、吐く、下痢をする、おならをするなどの症状が見られるでしょう。また食物アレルギーの犬は、そうでない犬よりも排便回数が多い傾向にあるとも言われています 。
消化器症状は犬アトピー性皮膚炎では見られないので、痒みに加えて消化器症状があれば、食物アレルギーの可能性が高まります」(村山獣医師 ※以下「」内同)
犬の食物アレルギーと犬アトピー性皮膚炎は、初めて発症年齢にも違いが見られます。
「食物アレルギーは若齢から高齢までどの年齢でも発症しますが、全体の30%未満は1歳未満で初めて症状が出ます。
アトピー性皮膚炎の発症は多くが1~3歳の若齢期であることから、4~5歳を過ぎて痒みを伴う皮膚トラブルを起こしたケースでは、食物アレルギーを疑います」
食物アレルギーは全年齢での発症があります
血液検査の結果は意味がない!?
アレルギーのチェック法といえば、血液検査だと思っている飼い主さんも少なくないことでしょう。けれども、村山獣医師は次のように語ります。
「食物アレルギーにおいて血液検査から得られる情報は、治療をすすめる上では参考程度にしかなりません。あくまでも、現在実際に食べている食材で過敏な反応が出ているかどうかが、もっとも重要な情報だからです」
そのため獣医師は、食物アレルギーだと診断した犬にまず、痒みの症状がどの程度あるかどうかを重視します。その上で、治療法を考えていきます。
犬アトピー性皮膚炎でも食物アレルギーでも、痒みが生じるのが特徴
「ちなみに、血液検査は、痒みや消化器の症状が出ていないのに実施する意味はありません。健康な犬でも、アレルギー検査でなにかの項目に対して陽性に出ることがあるからです。数値ではアレルゲンとされた食材を食べたからといって、すべての犬にアレルギー症状が出るわけでもありません。
また、血液検査で調べられるアレルゲンの数も限られていることにも注意が必要です」
うちの子にアレルギーがあるかどうかを、飼い主としては事前に知っておきたい気持ちになるかもしれませんが、アレルゲンを調べる血液検査はあくまでも皮膚や消化器に症状が出て、獣医師から必要であると言われた場合に行うのが賢明と言えるでしょう。
食物アレルギーを発症した犬の生活とは?
東京都で5歳のジャック・ラッセル・テリアと暮らすバジルママさんは、バジルくんが1歳の頃に、耳の後ろや前腕を痒がっている様子が気になり始めたと言います。
「バジルは口を使って腕をかじるようにしていたり、耳の後ろを後ろ足で掻いたりしていました。またある時、牛皮でできたデンタルガムを与えたら、軟便になってしまったんです。
それで動物病院に行ったら、バジルには食物アレルギーがある可能性が高いということで、念のため血液検査も実施しました。結果は、やはり牛肉はアレルギーの数値が高かったですね。それから、卵、トウモロコシ、イモ類にもアレルギーがありそうだとわかりました。
その後、アレルギー反応があった原材料を含むフードを避けるなどして、今はなんの症状も出ずに落ち着いています」
噛むおもちゃを愛用中のバジルくん
一時はどんなフードを食べさせたら良いか少し神経質に考えていたそうですが、次第にアレルギー検査の結果にかかわらず症状が出なければ大丈夫だとわかったとのこと。「チキンのフードでも、うんちの回数が極端に増えたり軟便になったりすることもあったからです。アレルギー検査ではチキンは大丈夫でしたし、パッケージの裏を見てもバジルがひっかかった項目の原材料はないんですよね。でも、チキンベースのドライフードは、ほかのフードに少量混ぜるくらいだと症状が出ません。なので、今はあまり神経質にならずに、バジルが好きなものを与えてみて、実際に食べたらどうなるかを観察して判断することを重視しています。フードは結局、サーモンと、ラムを主なたんぱく源としたドライフードを2種類ローテーションで与えています」
そんなバジルママさんは、お散歩やオフ会で触れ合う犬たちの飼い主さんにも「おやつあげてもいいですか? アレルギーはありませんか?」と必ず尋ねるようにしているそうです。
もしうちの子にアレルギーがなくても、出会う犬は食物アレルギーかもしれないと考えて常に配慮をしたいものです。
家族みんなでお出かけをするのがバジルくんの楽しみのひとつ
食物アレルギーの犬の治療法
食物アレルギーだと診断されたら、主には除去食療法で治療を行います。
「これまで食べたことのないたんぱく質あるいは加水分解(たんぱく質が分解されたもの)のフードを一定期間与えることで、痒みなどの症状が改善するかを調べる、除去食試験を最初に行います。
まずは、獣医師が選んだフードだけを2カ月間食べてもらうのですが、1カ月で8割、2カ月で9割の犬の痒みが収まります。その後2週間、もともと食べていたフードに戻します。すると、1週間で8割の犬が、2週目で残り2割を含む全ての犬が痒みなどの症状をぶり返します」
こうして、アレルギーの原因となるたんぱく質を特定し、アレルギー反応を起こさないフードに切り替えることで、アレルギー性皮膚炎や軟便や下痢が発症しないように治療するのです。
「ただ、食物アレルギーの評価をするのは涼しい季節がベストです。
実は、食物アレルギーよりも犬アトピー性皮膚炎で来院する犬が多いので、高温多湿な時期だと、犬アトピー性皮膚炎による痒みの可能性があるからです。痒みを生じる部位も、どちらもシワのある間擦部(かんさつぶ)である脇、股、足先、耳、目の周り、口の周りで同じである点も判別がむずかしい理由です。
食物アレルギーと犬アトピー性皮膚炎を併発している犬も、めずらしくはありません。
そのため、寒くなっても症状が収まらない場合に、除去食試験を行うほうが判断しやすいのです」
足を舐めている場合、痒みが原因かもしれません。皮膚トラブルがないかを確認してあげましょう
また、痒みは犬にとって大きなストレスとなります。そのため、痒み止め薬による治療を行うケースも少なくありません。
「ステロイドを含まない薬も含め、当院では主に5種類の痒み止めの中から、その犬に合うものを選んで処方します。
犬アトピー性皮膚炎だけ、または食物アレルギーと犬アトピー性皮膚炎を併発している犬の場合、生涯にわたって痒みが出やすい敏感肌の体質と付き合っていかなければなりません。寒い時期などの症状がないときは薬を飲ませないほうが体への負担が減るので、飲ませる時期と飲ませない時期とに分けて治療を継続できれば最良だと考えています」
うちの子が痒みによるストレスなく少しでも幸せに過ごせるように、飼い主としても正しい知識を得て活かして、食事管理や健康管理をしっかりしてあげたいものですね。
食物アレルギーの犬には痒み止めの薬も効きます
■ 取材協力:村山信雄獣医師
獣医学博士、アジア獣医皮膚科専門医。2016年に“犬と猫の皮膚科”(東京都江東区)を開設し代表を務めるほか、講演の講師としても活躍。
■ 文・取材:臼井京音
ドッグライター・ジャーナリストとして、20年以上にわたり世界の犬事情を取材。現在は犬専門誌『Wan』をはじめ週刊誌、Web媒体、会報誌等で情報発信を行う。以前は『愛犬の友』誌、毎日新聞の連載コラム(2009年終了)などでも執筆。著書に『うみいぬ』『室内犬の気持ちがわかる本-上手な育て方としつけ方をアドバイス!』がある。
現在は元野犬の中型犬と暮らす。歴代愛犬のノーリッチ・テリア2頭と同様にボールを追いかけることが喜びで、趣味はテニスとバレーボールと写真撮影。パリやNYで撮影し自宅暗室で焼いたモノクロ写真は、ドッグリゾートWoof、ペットショップP2などのインテリアにも使用されている。


