- コラム
2025.07.17
マダニとノミから犬と人が身を守る方法を獣医師に聞く!
近年、関東など多くの都府県に広がりつつある「マダニ」の影響。寄生し吸血されると、人も動物も罹る可能性、かつ、うつる可能性もある「SFTSウイルス」に感染する可能性があります。自然豊かな場所を歩く際、飼い主と犬の両方面への万全な予防策が必要不可欠なマダニ対策を、ノミの被害実体験と対処法について合わせてご紹介します。(POCHI編集チーム)
今回のお役立ち情報マダニとノミから身を守る方法
犬や飼い主の命を奪う感染症を媒介する危険性があるマダニ、そしてアレルギーや皮膚炎の原因になるノミ、それら外部寄生虫の予防法と咬まれた時の対処法を獣医師に聞きました。
マダニによる感染症は危険!
以前は西日本中心だったマダニによる人獣共通感染症が、近年は関東など多くの都府県に広がっています。
2025年初夏には、三重県でマダニに咬まれSFTS(重症熱性血小板減少症候群)に感染した猫を治療していた獣医師が、SFTSを発症し亡くなりました。
2013年3月4日から2024年4月30日まで、日本国内の感染症発生動向調査で報告された955例の患者うち、届出時点での死亡例は106例(11%)でした。
「すべてのマダニではなく、SFTSウイルスに感染しているマダニに咬まれた場合に、人、犬、猫、そのほか野生動物などでSFTSに感染する可能性があります。
発症している犬や猫に咬まれるなどすると、人にもうつる可能性があるので注意しなければなりません。ちなみに、マダニは屋外に生息する8本足の節足動物で、屋内にいてアレルギーの原因となるコナヒョウヒダニやヤケヒョウヒダニなどのハウスダストマイトとは分類が異なります」と、“犬と猫の皮膚科”(東京都江東区)の代表でアジア獣医皮膚科専門医の村山信雄獣医師は語ります。
マダニは草むらや木の枝や葉に潜み、動物への寄生を狙っています
ほかにも、マダニによる感染症はあります。
ライム病は、マダニが媒介するスピロヘータという細菌による、人と動物の共通感染症。
免疫力の弱い子犬やシニアドッグが罹患した場合、数日から数年の潜伏期間を経て、発熱、元気消失、食欲不振、神経症状などが現われます。
人に感染した場合は、神経過敏や歩行異常などの神経症状、多発性関節炎、皮膚症状などが見られます。
犬バベシア症は、マダニを介して犬の体内に入ったバベシアと呼ばれる原虫が、赤血球の中で増殖。貧血や赤い尿が主な症状で、重症化すると嘔吐や下痢や発熱を起こして死に至るケースもあります。
河川敷など湿度が高い水辺にもマダニがいるので要注意
予防薬を投与しても寄生する!?
首都圏在住の筆者は、マダニとノミとフィラリアのオールインワンタイプの予防薬(駆虫薬)を我が家の中型犬に定期的に飲ませていますが、つい最近、数匹のマダニがうちの犬の胸元を這っているのを散歩後に足を拭く際に発見!さらに今朝は、民家の玄関近くの低木のにおいを嗅いでいた犬の頭頂部に急にマダニが現われたので、慌てて指先で弾き飛ばしました。
「予防のために駆虫薬を飲ませていても、マダニやノミが犬の身体につくことはあります。私たちが使っている虫よけスプレーなどとは、役割が違いますからね。
けれども、服薬していれば、薬の種類にもよりますが、だいたい8時間以内~24時間以内にはそれらの寄生虫は犬の身体から離れて死にます。予防的に駆虫薬を投与するのが大切なのは、寄生虫が産卵をする前にノックアウトできるという点です。なお、皮下に垂らすスポットオンタイプの外用薬(動物病院で取り扱うもの)であれば、マダニの寄生から48時間以内に駆虫することができます」(村山獣医師)
それを聞き、うちの犬に投薬しておいてよかったと筆者が胸を撫でおろしたのは、言うまでもありません。
こんな風に低木のそばで写真を撮っている隙に、マダニが寄生!
もし、犬や飼い主さん自身に吸いついて膨らんでいるマダニを見ても、決して指などでつまんで引き抜かないでください。
「マダニは、セメントのような物質を吸血時に体内に出して、口器のまわりを固めます。皮膚から無理に引き離そうとすると、口器だけが体内に残り、異物反応を生じる可能性が高まったり、マダニの体液を逆流させて病原体が体内に入りやすくなったりする恐れがあるので注意しなければなりません。吸血中のマダニは、医療機関を受診して除去などの処置をしてもらうのをおすすめします」(村山獣医師)
吸血前のマダニは3~8mm、吸血後(右)は10~20mmほどになります。満腹になると自分から離れますが、それまでに数時間~数日かかることも
ノミによる皮膚炎は人も犬も痒い
筆者はオーストラリア滞在中にホームスティ先で「ノミ刺咬症」になり、肢や背中の猛烈な痒みで苦しんだ経験があります。
ホームスティ先の犬や猫はバックヤードと呼ばれる広い芝生の庭と室内を自由に出入りしていて、そこから室内に持ち込まれたと考えています。ホストマザーが殺虫用の燻煙剤を数日おきに焚いてもノミは増え続け、ついには筆者のベッドでジャンプするノミまでいる始末。燻煙剤は卵には効果がないと知った後日、絶望的な気分になったのを思い出します。
ひたすらに、ノミを粘着テープにくっつけて退治しつつ、ホストマザーと洗濯と掃除に明け暮れました。
まわりに木がないからと油断は禁物。ドッグランなどの芝生内にはノミがいる可能性大
当時シドニーは冬だったのですが、ノミは気温が13度位あれば活発になるのと、室内は夜間でも暖かいのでカーペットなどに卵を産んで増殖してしまったようです。
ただ不思議なことに、ホームスティ先で皮膚炎になったのは私だけ。
「犬や猫では“ノミアレルギー性皮膚炎”の病名があるとおり、ノミの唾液に対するアレルギー反応が出たか出なかったかの差だったのでしょう。
数ヵ所刺されただけでも唾液の成分が体内に広がってしまうので、広範囲で皮膚炎が生じることもあります。犬の場合、腰からお尻にかけて皮膚炎が生じやすい傾向が高いですね。
あまりの痒さに、自分のしっぽを咬みちぎってしまったレトリーバーを診察したこともあります。その犬は予防薬を飲んでいたのですがノミに咬まれ、アレルギー反応が起こりました。多くの皮膚炎は痒みによる精神的なストレスが高くなるため、もし犬が痒がっていたら、痒み止めを使ってラクにしてあげるためにも早めに動物病院を受診してください」(村山獣医師)
痒がっている様子を見かけたら、皮膚炎の有無のチェックを
皮膚炎だけでなく、内部寄生虫であるサナダムシ(瓜実条虫)の卵を宿しているノミを飲み込んでしまうと、人も犬も消化管内で2次感染を起こすので軽視できません。
飼い主も万全の予防策を
これまでお伝えしたとおり、犬に定期的に寄生虫の予防薬を投与していても、数時間~1日は犬にマダニやノミがつくことはあります。
自宅にマダニとノミを持ち帰らないためには、散歩やお出かけ時に草むらや木々のあるところを歩かせないようにするのが簡単な予防策と言えるでしょう。
とはいえ、それでは春から秋にかけては飼い主さんも犬も自然を満喫できる機会が減ってしまいます。自然があるところへ行く際には、マダニやノミが嫌う虫よけスプレーの活用をおすすめします。犬用には、天然成分のハーブなどの虫よけが良いでしょう。
虫よけ加工がされた犬用ウェアを着用して、寄生虫の寄生を予防
さらに、自然が豊富なところでは、犬に洋服を着せたり、飼い主さんはなるべくサンダルではなくスニーカーなどを履き、足首までしっかり覆うパンツ、長袖、首元を冷やせるスカーフ、帽子などを着用してマダニに咬まれないように予防したいものです。
車や自宅に入る前には、寄生虫が付着していないかどかのチェックも忘れずに。
地球温暖化が原因なのか、年々被害が増えている寄生虫への対策を犬も人も万全にして、健康を守りましょう!
■ 取材協力:村山信雄獣医師
獣医学博士、アジア獣医皮膚科専門医。2016年に“犬と猫の皮膚科”(東京都江東区)を開設し代表を務めるほか、講演の講師としても活躍。
■ 文・取材 臼井京音
ドッグライター・ジャーナリストとして、20年以上にわたり世界の犬事情を取材。現在は犬専門誌『Wan』をはじめ週刊誌、Web媒体、会報誌等で情報発信を行う。以前は『愛犬の友』誌、毎日新聞の連載コラム(2009年終了)などでも執筆。著書に『うみいぬ』『室内犬の気持ちがわかる本-上手な育て方としつけ方をアドバイス!』がある。
現在は元野犬の中型犬と暮らす。歴代愛犬のノーリッチ・テリア2頭と同様にボールを追いかけることが喜びで、趣味はテニスとバレーボールと写真撮影。パリやNYで撮影し自宅暗室で焼いたモノクロ写真は、ドッグリゾートWoof、ペットショップP2などのインテリアにも使用されている。


