- コラム
2025.08.27
【#ケアシリーズ】夏に最適なマッサージ&ツボ圧し&食事の工夫を獣医師が伝授
取材協力=アキ ホリスティック動物病院 菅野晶子先生
文・写真=臼井京音
犬の健康に気を遣っているけれど、さまざまな情報が飛び交う昨今、なにを信じていいかと混乱していませんか? 古かったり、信ぴょう性に欠けたりする情報が見られいるのも事実。
"犬の専門家"の見解や意見も割れることがしばしばありますが、信頼のおける有益な情報だけを集めたい飼い主さんのアンテナにビビッと来そうなトピックを集めてみました。(POCHI編集チーム)
今回のお役立ち情報夏の健康生活
人間の鍼灸師の資格も持つ菅野晶子獣医師に、暑い時期におすすめのマッサージやツボ圧し、食事の工夫点を教えていただきました。うちの子の夏の養生生活にぜひお役立てください!
夏の多湿のせいでも犬は不調になりがち
人間の鍼灸師の資格も持ち、東洋医学などにも詳しい菅野晶子獣医師(東京都八王子市のアキホリスティック動物病院院長)のもとには、夏になると軟便や下痢や食欲不振の犬が多く訪れるといいます。
「日本の夏は、暑いだけでなく湿度も高いのが特徴です。湿気のあるところで過ごすと、体がだるくなったり食欲が落ちたりします。中医学で言うところの“暑”だけでなく“湿”にも対策をすることが、夏バテ予防や暑い時期の健康維持にとても重要なんですよ。ただ、あまりに暑すぎる昨今の夏は、エアコンをつけっぱなしにしている家庭も多く、一日中冷気にあたりすぎて犬の体が芯から冷えてしまっているケースもめずらしくありません。
ツボ圧しをする前に、まずはうちの子の体が冷房で冷えてしまっていないかを確認しつつ、マッサージをしてだるさの解消や血行を促進してあげましょう」(菅野獣医師)
マッサージは毎日しなくてもOK。飼い主さんにゆとりがあるときに、気負わずしてあげましょう
マッサージは、できものや皮膚トラブルなどの早期発見のための健康チェックを兼ねて行ってあげたいものです。
「もし、うちの子が嫌がるところがある場合は執拗に触らないのも鉄則です。嫌がる原因としては、飼い主さんが触る圧が強いのかもしれません。マッサージと言っても、決して飼い主さんが力むことなく、なでるイメージで行ってくださいね。なでるくらいの力でも、十分に効果はありますから」(菅野獣医師)
獣医師直伝のマッサージ法
ではさっそく、ソファの上などでうちの子にマッサージを!
犬を触る前は、飼い主さんも呼吸をゆったり整えてリラックスを。「なでなでしようね~」などと声をかけたり、やさしい雰囲気づくりが大切です。
なお、飼い主さんの手で足先を触ってひやっと感じる場合は、犬の身体が冷えています。
まずは犬の首の付け根からしっぽに向かって、ゆっくりなぞるようにマッサージしてあげましょう。背中には督脈(とくみゃく)というエネルギーの経路があります。ここを刺激することで、免疫システムの強化や血液循環の改善、心身のバランス調整などの効果が得られます。
背中のマッサージが終わったら、お腹も触ってみましょう。飼い主さんが犬の腹部を触って冷たいと感じる場合は、エアコンなどで冷えてしまっている証拠です。そうなると、食欲が湧かなかったりうんちがゆるくなったりしがちに。消化器トラブルの予防や改善と健康促進のために、胸の上あたりから陰部まで続く任脈(にんみゃく)というエネルギーの経路を、ゆっくりさすって刺激してあげてください。
耳の根元をぐルグルと回すようにしてマッサージをしてほぐしてあげたり、顔の皮膚を延ばすようにしてマッサージをしたりすると、犬もリラックスできます。とくに耳は、触ってあげると気持ち良さそうにする犬が多いでしょう。顔は、頬の皮を引っ張ると血行が促進され、頭もスッキリします。
夏に圧したいツボ3選
ひととおり犬の体をなでてマッサージをしたら、次はツボ圧し。
こちらも飼い主さんの圧が強すぎないように意識して、ゆったりした気持ちで犬のツボを圧してあげるのが秘けつです。
★腎兪(じんゆ)
冷えを解消するツボと言えば、腎兪。生命の泉となるようなツボで、刺激することで力も湧くので夏バテ予防や解消にも適しています。
このツボは、犬のしっぽに最も近い肋骨と背骨が交差する位置の、突起した背骨の左右にあります(写真の赤シール部分)。やさしい力でもむようにして刺激してください。
とくに老犬など、このあたりの皮膚が冷たかったり、へこんでいたりすると「腎」の機能が落ちている可能性があります。その場合は、カイロなどで温めてあげるのもおすすめ。
★労宮(ろうきゅう)
前足裏の一番大きな肉球のそばのくぼみにあり(写真の赤シール部分)、疲労回復、自律神経の調整、精神安定に良いツボ。冷房の効いた室内にずっといるだけで、犬は体がだるくなったり、自律神経が乱れたりすることもあります。できれば毎日、そっと刺激するイメージでもんであげましょう。
★膻中(だんちゅう)
胸の真ん中の、被毛の生え方が変わるポイントにあるツボ(写真の赤シール部分)。
イライラやストレス、精神不安の解消に有効で、自律神経の乱れも整えられます。ふだんからこのツボを刺激することで、ストレスに強くなるとも言われます。
飼い主さんの指など、なるべくこのツボに向けて垂直に圧がかかるようにしながら、圧したりもんだりしてください。
特製ジュレで効率的に水分補給
特に老犬や超高齢犬など、あまり動かずクーラーに当たり続けると、腰のあたりが冷えて身体が重くなり食欲が落ちるケースもあります。
そこで、すべてのライフステージで活用できる、うちの子の食欲減退に対する裏技を菅野獣医師に教えてもらいました。
それは、ドライフードなどのトッピングとして、飼い主さん手作りのジュレを作ってあげること。
「夏こそこまめに水分を補給して、熱中症予防や健康維持に努めたいものです。そこで、水分はとろっとした食感が抜群なジュレにして、おいしい食材と混ぜ合わせるというワケです。ジュレはゼラチンタンパクも摂れて食欲が落ちた犬の栄養補給にもなって一石二鳥です」
「お魚のにおいにも食欲をそそられる! 早く食べたいよ~♪」
+夏におすすめの食材を使った特製ジュレレシピ
<食材>
・小女子(こうなご)…カルシウム、亜鉛、リン、ビタミンが豊富。
・苦瓜(にがうり、ゴーヤ)…体にこもった余分な熱を排出させる。
・山芋…薬膳として"腎" "脾" "肺" に作用して、それぞれの機能を高め、弱った消化吸収力や水分代謝の働きを向上させる。
・トマト…熱を冷ます働きがある。疲労回復や夏バテにも有効。

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このほか、体にこもった余分な熱を排出させる食材として、アスバラガス、すいか、冬瓜も活用できます。タンパク質では豚肉が、疲労回復を助け潤いを補うので夏におすすめです。少量の魚や肉、かつお節などで少し出汁が出ると食欲アップにつながります。
※特定のアレルギーがある場合は、その食材は避けるようにしてください。
■ 作り方
材料は上記などを参考に、小女子など大さじ1、夏野菜少量ずつ。
ゼラチン 5g、水300cc。
1.ゼラチンは少量の水でふやかしておきます。
2.全ての野菜は細かく切り、ゴーヤはさっと煮ておきます。
3.鍋に水と小女子をいれて軽く煮たたせたら、切った野菜も入れて火を通します。
4.ふやかしたゼラチンを入れて溶けたら火からおろし、少し冷めたら耐熱容器に入れて冷蔵庫で冷やし固めればできあがり。
ドライフードなどに特製ジュレを絡めれば、おいしく食べてくれる確率アップ
夏生活によくある質問の答えと獣医師からのアドバイス
菅野獣医師は夏の診察で、よく次のような質問を飼い主さんから投げかけられるそうです。それに対する答えも参考に、夏の快適生活に役立ててください。
Q:飲み水に氷を入れてもいいですか?
A:中医学の概念で、熱が体にこもりがちな“陰虚(いんきょ)”や暑がりな“実熱(じつねつ)”の体質で、冷たい水を好む犬には水に氷を入れるのもアリです。けれども、冷えやすい体質の犬や刺激に弱くなってきた老犬には、氷を与えたり飲み水に氷を入れることはおすすめできません。
Q:冷房の設定温度は犬には何度が最適ですか?
A:これは、部屋の大きさやエアコンの性能、日当たり、部屋に何人の人がいるかなどで設定温度の条件が変わってくるので一概には言えません。犬のいる場所を冷やし過ぎないようにだけは、注意してくださいね。
ドッグベッドやサークルにエアコンの風が直射しないようにすることと、犬が寒いと感じたら暖をとれるブランケットなどを一枚用意しておくと良いでしょう。
老犬や椎間板ヘルニアなどの持病がある場合などは、犬に薄手の洋服を着せておけば冷えすぎ予防になります。
「ボクたちがふだん過ごす場所は寒くなりすぎなようにしてね」by 7カ月齢のボストン・テリアのライムくん
今回ご紹介したマッサージやツボ圧し、そして食事の工夫を夏生活に取り入れて、犬たちの体の“健康貯金”を積み重ねていってあげましょう。
「今日はこれならできる」と思うものを、飼い主さんができる範囲で楽しみながら継続していってください。
*1 アキ ホリスティック動物病院 https://www.akiholisticvet.com/
■ 菅野晶子 先生
東京都八王子市のアキ ホリスティック動物病院の院長。獣医師、鍼灸師、国際中医師、 日本獣医ホメオパシー学会認定医。元保護犬や元保護猫と暮らし、人や動物を癒すことをライフワークに幅広く活動を行っている。
■ 文・取材 臼井京音
ドッグライター・ジャーナリストとして、20年以上にわたり世界の犬事情を取材。現在は犬専門誌『Wan』をはじめ週刊誌、Web媒体、会報誌等で情報発信を行う。以前は『愛犬の友』誌、毎日新聞の連載コラム(2009年終了)などでも執筆。著書に『うみいぬ』『室内犬の気持ちがわかる本-上手な育て方としつけ方をアドバイス!』がある。
現在は元野犬の中型犬と暮らす。歴代愛犬のノーリッチ・テリア2頭と同様にボールを追いかけることが喜びで、趣味はテニスとバレーボールと写真撮影。パリやNYで撮影し自宅暗室で焼いたモノクロ写真は、ドッグリゾートWoof、ペットショップP2などのインテリアにも使用されている。


