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2019.02.22

【獣医師コラム】犬の胆泥症って病気なの?

【獣医師コラム】犬の胆泥症って病気なの?

■ この記事を書いた人

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(庄野 舞 しょうの まい)獣医師 東京大学 農学部獣医学科卒業。 東京大学付属動物医療センターにて、血液腫瘍科、神経内分泌科、消化器内科で従事。 たくさんのペットの生死を見てきて、共に戦った飼い主さんが最終的に願うのは「食べさせてあげたい」という思いであることに気づく。 現在は、病気予防のふだんの食事のこと~漢方、植物療法の世界の探求に励む。はじめの一歩に漢方茶マイスターを取得。 得意分野は、犬猫の血液腫瘍と回虫。講演なども行っている。(詳しいプロフィールはこちら

犬に多くみられるという胆泥(たんでい)症…実はこれ、治療が必要な病気じゃない、って知っていましたか?

犬と暮らしているみなさんなら一回は、「うちの子胆泥症で、、、。」という会話を聞いたり、かかりつけの獣医さんから「胆泥症ですね」と言われたりしたことがあるかもしれません。この胆泥症という名前、泥という漢字がなんだか嫌な感じを連想させますが、実際のところどうなの?

今回は最新の胆泥症の捉え方について、胆のうの病気と共にお話したいと思います。

胆のうとは

胆泥症が起きる場所は、胆のうと呼ばれる臓器の内部です。この胆のう、肝臓と小腸に接して存在し、肝臓で作られた胆汁を溜めておく場所です。胆汁は胆汁酸によって構成され、この胆汁酸は脂肪の分解や吸収を助ける働きがあります。ふだん、胆汁は胆のうの中に収納されていますが、食事が小腸を通った時、その物理的な刺激によりコレシストキニンという物質が分泌され、この物質によって胆のうが刺激され、胆汁が胆のうから小腸へ分泌される仕組みとなっています。胆汁によって胆のう自体が傷つかないように、胆のうの内側にはムチンと呼ばれる粘液が覆い、保護しています、

この胆のう、面白いことに全ての哺乳類にある臓器ではありません。馬や鹿、ラットには存在せず、臓器がひとつ足らないことから、「馬鹿」という言葉が生まれたとの説もあります。

胆のうの病気あれこれ

胆のうの病気まずは、ヒトで多い疾患から。

胆のうの病気としていくつか知られているものがあります。ヒトで最も有名なものは、胆石症でしょうか。胆石症は、胆のう内や肝臓、胆のうと肝臓や胆のうと小腸をつなぐ管(胆管)の中に結石ができることで、ヒトではコレステロール結石が大部分を占めるとされています。このコレステロール結石は、脂肪分の多い食事や不規則な食事などが原因として挙げられており、胆のう疾患でも多くみる病気の1つですが、犬では比較的稀です。胆石症が見つかった場合は、ヒトでも犬でも基本的には胆のうごと摘出する手術が適応となります。

次いでヒトで多い疾患は、胆のう炎です。これは胆のうへの細菌感染が原因で、小腸からの逆流による大腸菌感染が最も多く、血液からの感染も認められることがあります。犬では胆のう炎もあまり多くは発生しておらず、犬の胆石症の原因になることもあります。こちらは抗菌薬などで治療する場合が多く、重症化した場合、胆のう摘出が適応となります。

 

胆のうの病気犬特有の胆のう疾患。

一方、犬特有の胆のう疾患として知られているのが、胆のう粘液嚢腫(ねんえきのうほう)と呼ばれる病気です。胆のう粘液嚢腫とは、胆のうの粘膜が乳頭状に肥大し、胆のう内にゲル状の固い粘液が貯留する病態を指します。このゲル状の粘液は異常なムチン(※1)であるとされており、胆のう粘液嚢腫の犬では異常なムチンが分泌されていることが分かっていますが、その発生や原因は分かっていないところも多いです。この病気は大変厄介で、進行すると胆管閉塞や胆のう破裂、胆のうの壊死など、重症につながることがよくあります。

症状は、軽度なものでは食欲がない、など非特異的なものになりますが、胆のう破裂などの重傷の場合、急激な繰り返す嘔吐、急にぐったりする、黄疸がでる、などの重篤な症状がでることがあります。

胆のう粘液嚢腫の診断には超音波検査を用い、胆のうがキウイフルーツのように見える、非常に特徴的な画像所見を持って診断します。胆管閉塞や胆のう破裂が超音波検査で分かることもあります。

治療は胆のうを摘出する外科手術となります。

※1 ムチンは、糖を多量に含む糖タンパク質(粘液糖タンパク質)の混合物で、細胞の保護や潤滑物質としての役割を担っています。オクラや里芋のネバネバ成分もムチンと称されていますが、日本国外の文献では植物由来のものは、必ずしもムチンとは呼ばれていないことも多いようです。

胆のうがなくても大丈夫?

先ほどから治療方法によくでてくる胆のう摘出。胆のうを摘出しても大丈夫なの!?と感じるかもしれませんが、胆のうがなくても、それに対する症状はほとんど認められないとされています。

胆のうがないことによる変化は、胆汁を食後のタイミングで小腸に放出できなくなることですが、これによる消化吸収が低下するなどの研究結果は今のところないようです。馬や鹿に胆のうがないのもうなずけます。胆のうがないと、胆汁の産生を肝臓が頑張る、という研究もあり、このような背景から、胆のう摘出は、犬では比較的よく見る手術です。(※2)

※2 胆のうをつるっと取れればいいのですが、胆のうが破裂していたりすると、手術は大変難しいものになります。時間もかかるため、犬の年齢や全身状態とよく相談しながら手術に進みます。

胆のうで最も指摘される状態…胆泥症

さて、胆のうの病気についていくつかご紹介しましたが、胆のうの変化の中でも圧倒的によくみられるのが、胆泥症と呼ばれる状態です。

胆泥症とは、胆のう内の胆汁成分が変化し、もともとはサラサラな液体だった胆汁が、変性したり濃くなったりし、泥のような形状になったことを指します。診断は胆のう粘液嚢腫と同じく超音波検査で行います。胆のう粘液嚢腫との見分け方は、胆のう内の液体構造物に可動性があるかどうか、をよく基準とします。中高齢犬での発生が多く、様々な犬種で発生しますが、ミニチュアシュナウザーやシェットランドシープドックなどでよくみられます。

胆泥症は症状がないことがほとんどで、健康な犬でも健康診断などで偶然に見つかることの多い状態です。また、この胆泥症の状態が、他の胆のう疾患に進行するのでは、と思う方も多いのが現状ですが、現状、そのような研究結果は実は得られていません。胆のう内の胆泥の量なども、その後の疾患の併発などに関係はないとされています。

そのため、この胆泥症、「病気」としてはとらえない、とするのが現在の標準的な考え方なようです。

したがって、治療も必要なし、基本的には無治療経過観察が勧められます。

 

参考として考え方による、アプローチ例。

この胆泥症、どうして起きるのか、原因は分かっていません。

たとえば、胆のうの収縮機能低下が原因だとする説。収縮機能が落ちるため、胆汁の小腸への分泌がうまくいかず、胆汁の流れが停滞してしまうからなのではないかという考え方です。この考え方により、胆泥症に対して、胆のうの動きを改善することを目的にエリスロマイシンという薬を投与することもあるようですが、エリスロマイシンを食事に加えても、食事だけの時と胆のうの動きに変化はないとされる研究がでていたりもします。胆汁の流れを良くすることを目的に、ウルソデオキシコール酸(別名:熊の胆)を投与することもありますが、多くの胆泥症では胆泥の量に変化がなかったとの研究結果がでています。

その他、上に上げた好発犬種に高脂血症が多いことから、高脂血症が原因となっているのではないか、とする考え方もあり、現在はっきりしたことは分かっていません。

胆泥症自体は病気ではないのですが、この胆泥症の裏側に、病気が隠れていることはあります。

たとえばホルモンの異常。犬ではよくみられる、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)や、甲状腺機能低下症などが基礎疾患として隠れている例が散見されており、このような場合は基礎疾患の治療が行われます。

また、血液検査にて高脂血症が認められた場合には、胆泥症のためにというよりは、高脂血症に対して、低脂肪食の摂取が推奨されています。

以上より、胆泥症、と言われるとなんだか怖い病気だったり、あるいは怖い病気への変化する前段階だったり、を想像される方が多いのですが、本当はそのような事実は報告されていない、というのが現状だということを、まずは知っておいてくださいね。

多くの犬が持っている胆泥症という状態、これからもっともっと研究が進んで、詳しいことが分かるといいなあと思います。胆泥症と言われたら、健康診断にはしっかり行って、毎年の状態や、その他に病気が隠れていないかは確認してみましょう。

まとめ

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胆のうの病気にはいくつかあり、最終的な治療は胆のう摘出である

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胆泥症はそれ単体では治療の必要な病気ではない

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その他の病気の前段階という研究結果もない

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ただし背景に他の病気がある場合があるため、それのチェックは必ずしよう!

DOG's TALK

Dr.マイ

Dr.マイ

胆泥症と言われたのですが何を食べたらいいとかありますか?とよく聞かれます。胆泥症で高脂血症がある場合は低脂肪食などがおすすめされますが、それ以外は特に、普通の食事、普通の生活で問題ないですよ、とお話しています。
最近胆泥症と言われる犬たちが増えているように思いますが、これは膵炎と同じく、超音波検査の機械が進歩したからでは…?と現場の獣医さんたちはよく話しています。胆泥症、あまり重くとらえず、そういう状態なんだなーと捉えてもらえたらな、と思います。