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2022.11.02

Dog Snapshot R 令和の犬景Vol.20 「人と犬の絆」を描く『アイメイト・サポートカレンダー』

Dog Snapshot R 令和の犬景Vol.20 「人と犬の絆」を描く『アイメイト・サポートカレンダー』

写真・文 内村コースケ

犬は太古より人類と一緒に歩んできました。令和の世でも、私たちの暮らしにさまざまな形で犬たちが溶け込んでいます。このフォトエッセイでは、犬がいる情景を通じて犬と暮らす我々の「今」を緩やかに見つめていきます。

11、12月は「カレンダーの季節」

アイメイト(公益財団法人「アイメイト協会」出身の盲導犬)のチャリティーカレンダー『アイメイト・サポートカレンダー』を毎年作っている。現役のアイメイトだけでなく、アイメイト候補の子犬、ボランティア家庭で暮らすリタイア犬など、アイメイトの一生を網羅した内容になっている。撮影だけでなくネット通販の担当もしているので、年末にかけてはその発送作業に追われる。僕にとっては毎年11月と12月はカレンダーの季節だ。

『アイメイト・サポートカレンダー』の目的は、アイメイト事業への理解促進と、収益の寄付だ。アイメイト事業の目的は視覚障害者の自立支援。それに合わせて、写真の内容はおもに「人と犬の絆」をテーマにしている。そこが一般的なペットのカレンダーと違うところだ。写真の表面的なところでは、犬が人(アイメイト使用者や候補の子犬などを預かるボランティア)と一緒に写っている写真が多いし、「絆」を感じさせる“行間”の表現も意識して余白を多く取ることもある。

そんな「普通と違う」内容からか、「犬が主役なはずなのに犬が小さい!」と直接お叱りを受けたことが何度かある。確かに、「犬のカレンダー」というと、かわいい子犬のアップや犬がニッコリ笑って(いるように見える)写真が並んだキラキラとしたものをイメージしがちだ。また、アイメイトになるのは全てラブラドール・レトリーバーなのだが、視覚障害者の自立支援への興味よりも「ラブを飼っているから」と買ってくださるお客さんもいる。こちらの主旨とは異なる期待を持って手にした方々を失望させてしまうケースがあるのは仕方がない。しかし、異なる見方・価値観からの感想にも耳を傾けると新しい発見もあり、信念を曲げずに続けることの大切さを噛み締めつつ、試行錯誤を重ねている。

「人が主役で犬は名脇役」

「人が主役で犬は名脇役」とは、アイメイト協会創設者で、“日本の盲導犬の父”と言われる塩屋賢一が遺した言葉だ。とかく盲導犬というと、「犬が健気」「犬が賢い」「子犬がかわいい」と、「犬」を主語にしてそちらばかりに目が行ってしまいがちだが、賢一の言葉には、アイメイト事業の本質は視覚障害者の自立支援だということを忘れないで欲しい、という意味が込められている。

僕は、石器時代から人類と共に生きてきた犬の幸せもまた、人の幸せと共にあると考えている。きっと、賢一の言葉の根底にもそれがあるのだと思う。だから、アイメイトの写真を撮影する際には、常に写真の中にしっかり「人の幸せ」が見えてくるように意識している。これまではそれを強調したいがあまり文字通り人の姿を強調した写真も多かったが、先に書いた「犬が小さい!」というお叱りなども考慮した末に、上の2023年4月、下の同11月の写真のように、一見犬が主役な構成でありながら「人の幸せ」が見える形も積極的に取り入れている。

「それってルッキズムですよね?」

一方、塩屋賢一が言う意味での「人が主役」を実践する中で、僕にはなかなか受け入れ難いご批判もあった。たとえば「おじさんの顔を1ヶ月見続けたくない」といった、写っている人の容姿を指摘したものだ。

『アイメイト・サポートカレンダー』に登場する人たちは、モデルやタレントではなく、本物の使用者と奉仕者(ボランティア)・その家族だ。一般の方を美しく撮るのもカメラマンの腕なのでそうした批判が出る第一の要因は僕の力不足である。とはいえ、対象が視覚障害者であってもそうでなくても無自覚な差別的な視線を感じざるを得ず、そこは看過できない。今なら便利な言葉があるので、サラッと「それってルッキズムですよね」と返すところだが、「人が主役、犬は名脇役」の真意への理解不足も絡み、なかなか頭の痛い問題だ。

ギリギリのアンサーとして若くてきれいな女性や子供にご登場いただく機会を増やしているが、本質的な解決にはならない。こればかりは社会全体が成熟するのを待つしかなさそうだ。

普遍的な愛を求めて

『アイメイト・サポートカレンダー』が示す「人と犬の絆」の本質は「愛」だ。犬は愛情に満ちた存在だ。その中でもアイメイトは、複数の飼い主の手に渡るその生涯の形からも、極めて温和で優しい性格からも、普遍的な愛情に満ちた存在だと僕は思っている。それが、大好きな犬の中でも特にアイメイトに注目して長年写真を撮り続ける強いモチベーションになっている。

普遍的な愛とは、私たち犬の飼い主が皆持っている「うちの子」に対する愛情から広がっていく、この世界を包む大きな「愛」だ。それを感じることが、人も犬も含めた生命の存在意義ではないだろうか。早くも再来年2024年のカレンダーの撮影も始まっている。アイメイトと人々の絆を通じて、それを示し続けていきたい。

『アイメイト・サポートカレンダー』(見開きA3)、『アイメイト・サポートカレンダー mini』(卓上)は、
『アイメイトサポートグッズ・オンラインショップ』で販売中です。

■ 内村コースケ(写真家)

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒。中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験後、カメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「撮れて書ける」フォトジャーナリストとして、ペット・動物愛護問題、地方移住、海外ニュース、帰国子女教育などをテーマに撮影・執筆活動をしている。特にアイメイト(盲導犬)関係の撮影・取材に力を入れている。ライフワークはモノクロのストリート・スナップ。日本写真家協会(JPS)正会員。