• コラム
  • スタッフコラム

2024.03.21

環境省主催 人と動物の共生シンポジウム~ペットが苦手な人の気持ちを理解する~取材レポ

環境省主催 人と動物の共生シンポジウム~ペットが苦手な人の気持ちを理解する~取材レポ

先日、都内で開催された環境省主催の「人と動物の共生シンポジウム」を取材させていただきました。
テーマとして「ペットが苦手な人の気持ちを理解する」を掲げ、有識者による講演、ディスカッションが行われました。
災害、同行避難、保護犬・保護猫の問題、犬や猫と一緒に過ごすということなど、現代の私たちにとって重要なトピックを含む、現代社会の問題を改めて整理する良い機会となりました。

私たちが犬や猫を心から愛するのと同じように、犬や猫を苦手とする人もいること、そういった人たちも無理なく、快適に過ごすことができる社会づくりに何が必要なのか、考える第一歩となりました。犬との共生を考えるポチ編集部にとっても、大変勉強になりました。

DOG's TALK

POCHI編集部

POCHI編集部

犬との暮らしをちょっと素敵に、快適に。日々、そんな情報集めに余念がない編集チームです。

"犬や猫が苦手な人"は「飼い主が作る」


令和5年(2023年)環境省では、犬や猫と暮らすことに対する意識調査を実施しました。調査では主に犬や猫といったペットをどのように考えているか、という調査を軸に展開されました。
犬や猫を「好き」と回答した人の割合は69.4%と過半数だった一方で、「嫌い、苦手」と回答した人は12.6%と、好きな人が大きく上回りました。
しかしながら、犬の散歩については排泄の処理が不十分だと感じるが全体の70%近くとなり、吠え声や咬傷リスク、ニオイ問題なども30%近くの人が不快に思っているという結果も出ていました。

犬を同伴できる飲食店に対しても、「増えて欲しい」よりも「減ってほしい」との回答が上回る結果が出ています。理由としては、衛生管理や騒音などの問題があるようです。

いずれにしても、飼い主のマナーや管理意識がより一層問われる結果となっていることが浮き彫りとなりました。

これらの結果を受けて、東京大学大学院農学生命科学研究科教授である西村亮平氏は、"犬や猫が苦手な人"は「飼い主が作る」と指摘していました。
事実、犬や猫と暮らしていない人が指摘する問題点は、飼い主に起因するものが多く挙げられています。例えば、トイレの後始末、通行人に吠え掛かる犬、ノーリードでの散歩、同伴禁止エリアへの犬連れ…。
犬が苦手、という人であっても、犬に対して不満を持つ人は少数派で、大半が飼い主に対して不快に感じているというのが調査でもはっきりしています。

犬たちがより広く受け入れられる環境づくりのためには、「まず」飼い主側の意識を引き締めることが前提となってくるという論には、思わずはっとさせられました。

保健所に収容されるペットたちの背景は

続いて、同じく飼い主側の意識について新潟県動物愛護センター長を務めた遠山潤氏からも厳しい指摘がありました。
「犬や猫を面倒見ることができなくなった時の備え」についてです。
たとえば、新潟県の保健所に収容されることになった犬、猫の理由の上位に「飼い主の死亡」「飼い主の病気・高齢」「金銭的理由」が入っているそうです。
犬では、「飼い主の死亡」「飼い主の病気・高齢」が上位のワンツーを占めており、このことについての意識を持つ重要性が問われていました。
また、過去に大規模な災害が発生した、新潟県での犬や猫を連れての同行避難についても話題が及びました。2004年の中越地震当時はまだ屋外飼育の犬が多かったため、車の中での同行避難を選ぶ飼い主が多かった一方、崩れた家からの脱走や避難中の行方不明も少なからず発生したことが語られました。

万が一への備え、という意味では災害時の避難先、物資の準備、マイクロチップの装着、それぞれの重要度に差はありません。どれも安全な避難のためには役立つ取り組みです。

実際に災害にあったら。「同行避難の条件」

公益社団法人日本獣医師会 動物福祉・愛護職域理事 佐伯潤氏は、能登半島地震で日本獣医師会の責任者を務めるなど、災害現場を生で見てきた経験から、避難現場の実情についてお話いただきました。

まず「ペットを連れての同行避難ができること自体、少数派である」とのこと。
日本は様々な災害がある国ではありますが、実は避難所は各自治体によってルールや規則、受け入れ態勢もまちまちであるというのが実情だそうです。
国ではペットとの同行避難を推奨している一方で、各自治体ではその備えが十分とは言えず、できて「同伴避難(=ペットは別の場所で管理)」となるケースが少なくないのだとか。
だからこそ、自助:自分でできる災害への備えをしっかり意識してほしいとのことでした。

具体的には、ワクチン接種、寄生虫対策、健康管理、しつけ、鑑札やマイクロチップ、備蓄品の準備などです。
とくにワクチン接種や寄生虫対策ができていないと、公的なサポート(一時預かり、避難所の利用)を断られてしまうケースもあるそうです。
厳しいですが、飼い主はこれらのことも踏まえ、できることをしていくことが重要とのことです。

また、緊急時には助け合い、譲り合いの精神が求められます。
困っているのはお互い様、いざという時には頼れる飼い主仲間のネットワークがあれば、助けになるケースも少なくないそうです。
緊急時、自分たちならどうするのか。
いざという時、頭の中が真っ白になって思考停止に陥らないためにも、ちょっとした時間に家族で会話にあげることも大切です。

もっと深掘りしたい「動物との共生」

今回は、動物が苦手な人の視点も踏まえて「ペットとの共生」をテーマにディスカッションが行われました。その中で公益社団法人日本愛玩動物協会会長である東海林克彦氏が課題としていたのは「社会的な寛容性をどう作っていくか」という点でした。
動物が苦手な人への配慮と、動物福祉を両立させていくことが理想ですが、この問題に対しての関心度があまり高くないのが現実なのだそうです。動物が好きな人が考えている動物福祉の課題(保護犬・保護猫問題)と、それ以外の人が考えている動物福祉の課題(犬や猫による衛生、騒音などの問題)にギャップがある現実を、少しずつでも埋めていくことができれば、より良い未来につながっていくのかもしれません。

また、動物が好きな人とそうでない人の意識の差について、イオンペット株式会社の代表取締役社長である米津一郎氏は、少しでも動物と触れ合う機会を増やしていくこと、そして相談できる環境づくりをしていくための取り組みを提案していました。
動物との暮らしのちょっとした困りごとを、地域や身近な人々に相談できる環境づくりをしていくことで、動物との暮らしの問題を「自分事」として考える人が増えていくのでは…とのことです。

おわりに:ペットとのより良い暮らしは、普段の暮らしから

今回のシンポジウムでは、普段ついつい見落としてしまいがちな「動物が苦手な人」の意見をスタート地点として、さまざまな意見を聞く良い機会になりました。
普段あまり意識することがない「犬を苦手な人の考え」ですが、その背景には飼い主側の配慮不足や責任不足があると捉えられていることに、改めて気付かされました。
犬たちがより快適に過ごすことができるかどうかは、私たち飼い主の意識や考え方にかかっていると言えるのかもしれません。
犬にとっても、地域にとっても、そして犬が苦手な人にとっても良い飼い主になれているかな?そんな思いを胸に、日々過ごしていければと思います。