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2025.05.19
犬の"しつけ"にまつわるウソ・ホント《RETRIEVER + POCHI archive019》
撮影=樋口勇一郎
構成・文=RETRIEVER編集部
「RETRIEVER」は、ゴールデン、ラブラドール、フラットコーテッドを中心とした、レトリーバー種の専門誌。
陽気で明るい性格は家族に笑いをもたらし、豊かな表情は言葉が通じなくてもコミュニケーションを可能にしています。
何と言っても、人間に対する愛情がとても深い。そんな犬種との暮らしを紹介する「RETRIEVER」さんの素敵な記事をピックアップしてPOCHIバージョンでご紹介。
犬種が違っても読めばきっと皆さんのドッグライフがより充実したものになるはずです。(POCHI編集チーム)
「あなたが日本語しか話せず、英語しか話せない人といいパートナーシップを築こうと思った場合、お互いの言葉を知る必要があると思います。同様に、犬のしつけとは、言葉を話せない犬との共通言語をつくって、意思疎通できるようになることです」と、動物行動学を専門とする獣医師の水越美奈先生は話します。
「例えば、犬が人に飛びつくのをやめさせたくて、飛びついた時に『ダメ!』と言っても、犬はうれしくて飛びついただけなので、何がダメなのかわかりにくいのです。それが、オスワリをしっかり教えてあって、飛びつきそうになった時に『オスワリ』と言うなら、犬はこういう場合に何をすればいいのかわかりやすいですよね」
Case1こんな行動は犬になめられている?
犬があなたに向かって吠えるなど、何か自己主張をしてくる時、「愛犬になめられている」と感じることがあるかもしれません。しかし、家族の序列と同様、犬との関係を上下で考えることには意味がありません。「飼い主との信頼関係とは、犬にとってわかりやすい関係のこと」。
わかりやすいルールがある、望ましい行動を取った時には必ず正解が与えられるなど、飼い主の行動の予測性・一貫性があることが、犬からの信頼につながります。
★「人をなめている?」と思いがちな行動
✓ うなる
警告や恐怖、自己主張、守りたい、楽しいなど、状況によってさまざまな意味があり得ます。
✓ 吠える
さまざまな理由があり得ますが、「いつもはOKなのに何で!?」など自己主張していることもあります。
✓ 言うことを聞かない
指示がわかりにくい。一貫性がない、従ってもいいことがない経験をしたのかもしれません。
✓ 噛む
遊び、興奮、甘え、恐怖、自分や物を守るためなどさまざまな理由が考えられます。
✓ マウンティング
こっちが上(上位)だぞといった主張や、性的なもの以外の興奮(うれしい、楽しい)時や遊びの時にも行います。
Case2ほめるだけでOK?時には叱ることも必要?
「犬はほめてしつけましょう」と言われるようになって久しいですが、叱らなくていいのか疑問に思っている人もいると思います。飼い主が犬を叱る状況とは、うれしくて人に飛びついた、お客さんが来たから吠えたなど、人間社会にとっては望ましくないケースですが、犬にとっては正常な行動の場合がほとんどです。犬に悪気はないため、ただ叱られても混乱するだけなのです。なぜなら、叱ることには「何をすれば正解か」という情報がありません。
「例えば、暇を持て余した犬が家の中を荒らしたのを叱っても、犬は何をしたらいいのかは伝わりません。かじってもいい一人遊び用のオモチャを与えるなど、正解の方法を教えないと解決はしないんです」
しつけは”してはいけないことを制御する”ためのものではなく、”していいことやルールを教える”ことなのです。
★この叱り方は効果ある?
✓ マズルをつかむ
犬は攻撃されたとしか思わず、反撃してくるかおびえてしまうかのどちらかです。逆効果になるのでやめましょう。
✓ 大きな音をさせる
適切なタイミングで行えば、その行動は遮断することができますが、永続的な効果は期待できません。
✓ 「ノー」、「ダメ」と言う
犬が正解をしっかりわかっている場合、「違うよ」という合図として言うのであれば、効果はあります。
Case3合図の声は大きく強く言ったほうがいい?
犬の聴覚は人間の約4~10倍とも言われ、大きな声でなくても普通の声で十分聞こえています。もし犬が大きな声でないと言うことを聞かないなら、大きな声そのものが合図と覚えてしまっている可能性があります。同様に、「オスワリ!オスワリ!」と何度も言わないと聞かないのは、何度も言われたら座ればいいと認識しているから。普通の声で一度言えば、言われたことを聞くというようにしたいなら、その方法で教えるようにしましょう。
また、合図の内容によって、声のトーンを使い分けることも大切です。犬は人間の言葉の意味を理解できませんが、そのトーンは伝わります。例えば、「オイデ」のように犬を動かす合図の時には高い声、「マテ」のように落ち着かせる時には低い声を使うと、犬にもわかりやすいでしょう。
Case4新しく迎えた犬のしつけは、先住犬がしてくれる?
多頭飼いの場合、先住犬よりも後から来たコのほうが、例えばトイレを早く覚えたなどはよくあります。それは、先住犬がトイレで排泄するとほめられているのを見ていて、マネをするからです。ただ、犬は初めから人間社会のルールを知っているわけではないため、飼い主が1頭 1頭に対してしつけをすることは必要です。
「多頭飼いを始める時に注意したいのは、言葉の通じない飼い主より、会話が成立する犬同士の絆のほうが強くなりやすいことです。例えば、日本語しか話せない人が外国へ行った時に、日本語の話せる人がそこにいたら、言葉が通じるのでその人に頼りがちになるのと同じです。『お兄ちゃんといるほうが楽しい=飼い主を無視する』とならないよう、飼い主さんから積極的にかかわり、コミュニケーションを取るようにしましょう」
Case5散歩中のマーキングやめさせたほうがいい?
マーキングなどのニオイつけは、犬にとって正常で本能的な行動です。しかし、どこでオシッコをしていいかを犬が自分で判断することはできません。他の犬のオシッコのニオイを嗅げば、そのコもオシッコをしたくなってしまいます。オシッコをしないほうがいい住宅密集地や商店街では、立ち止まらずにさっさと通りすぎる、道の真ん中を歩く、そもそもその場所を通らないなど工夫しましょう。ただ、ニオイを嗅ぐことは犬にとって好奇心を刺激してくれる楽しい作業です。ストレス発散にもなるので、オシッコしても問題ない公園などでは嗅覚を使う時間をつくってあげたいですね。
出典=『RETRIEVER』vol. 110 理想のパートナーシップを築く上で押さえておきたい “しつけ”にまつわるウソ・ホント
*1 監修=監修 水越美奈 みずこしみな。 獣医師。日本獣医生命科学大学獣医学部獣医保健看護学科教授。動物病院勤務、アメリカ留学、行動クリニック開業を経て、現職。監訳書に『犬と人の絆:なぜ私たちは惹かれあうのか』(緑書房刊)他多数。


