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2025.06.16
比べてビックリ!犬の嗅覚と人の嗅覚の"差"《RETRIEVER + POCHI archive022》
撮影=野口祐一
イラスト=macco
構成・文=RETRIEVER編集部
「RETRIEVER」は、ゴールデン、ラブラドール、フラットコーテッドを中心とした、レトリーバー種の専門誌。
陽気で明るい性格は家族に笑いをもたらし、豊かな表情は言葉が通じなくてもコミュニケーションを可能にしています。
何と言っても、人間に対する愛情がとても深い。そんな犬種との暮らしを紹介する「RETRIEVER」さんの素敵な記事をピックアップしてPOCHIバージョンでご紹介。
犬種が違っても読めばきっと皆さんのドッグライフがより充実したものになるはずです。(POCHI編集チーム)
解剖学的に見る 犬の嗅覚のスゴさ
犬の鼻と人の鼻、見た目も違えば、精度も違います。では、この〝差〟はいったいどこから来ているのでしょうか?
「人間も犬も哺乳類なので、基本的な構造は同じですよ」と言うのは、嗅覚やフェロモンに関する遺伝子の研究を行う新村芳人先生。「空気中を漂っているにおい分子が鼻の中に入り、嗅上皮(きゅうじょうひ)という場所で捉えられます。嗅上皮にはにおいを受け取る嗅神経細胞が集まっていて、嗅毛(きゅうもう)と呼ばれる毛が生えています。その先にはにおいセンサーであるさまざまな受容体があり、それぞれ結合する分子が決まっています。その信号が嗅神経を通じて“においの脳”である嗅球(きゅうきゅう)に伝わり、認識されるという流れです。これはどんな哺乳類でも同じなのです。ただ、人と犬の鼻の違いのポイントは、“嗅上皮の大きさ”、“におい受容体の種類の数”、“鼻の外側の構造”です。犬は人の30倍の大きさの嗅上皮を持っていて、受容体の種類は約2倍。さらに、人にはない鼻鏡という鼻先の構造が、空気を効率よく取り込むのを助けるため、犬は人よりもはるかに嗅覚が優れているのです」。
★人の鼻の構造
★犬の鼻の構造
犬種によって違うマズルの長さと鼻のよさって関係ある?
「犬種間で比較して、何をもって“鼻がいい”と判断するかは現段階では難しい」と新村先生は言います。
「違う犬種に対してにおいを嗅がせ、どの程度嗅ぐことができるかの実験はされてきましたが、条件だったり、犬種ごとの訓練性能の違いなども影響し、定量的に調べるのが難しいのです。ただ、大きな違いとして挙げられるのがマズルの長さ。犬の先祖であるオオカミは、長いマズルを持ち、これはにおい分子を体内に取り込むのに理想的な形をしているといわれています。なので、レトリーバー種をはじめ、マズルの長さがある犬種のほうがにおいを取り込むために理想的な解剖学的構造を持っていると言えますが、一概にどの犬種の鼻がいいと言うのは難しいです」。
■ Column:ブルドッグは野生では生きていけない!?
犬の祖先であるオオカミが持つ長いマズルは、 においを嗅ぐために最適化された形です。一方、人為的交配により誕生した短頭種は、情報源である嗅覚器が本来の状態から離れているため、野生環境で生きていくのは難しいかもしれません。
だから補助犬として活躍できる! 犬の好きなにおい、嫌いなにおい
災害救助犬、がん探知犬をはじめ、近年ではコロナ探知犬など嗅覚を使った仕事で特に活躍しているレトリーバー種。この背景には、犬が本能的に好きなにおいが関係していました。
「犬は基本的に、柑橘系、酢に加え、アルコールなどの自然界にないにおいを嫌います。一方で、体臭系のにおいは大好き。犬の先祖はオオカミなので獲物を捕まえ、群れをつくって生活をしていました。だから、嗅覚による個体の識別が得意なのです。人は病気になると代謝経路に影響が出て、本来は酵素で分解されるはずの物質が分解されず、蓄積されてしまいます。それによる微妙な体臭の変化を犬は嗅ぎ分けることができるのです」(新村先生)
■ Column:においを嗅ぐことでストレスが減る!?
嗅覚から得た情報で外界を認識している犬達にとって、においを嗅ぐことができない状況は不安を助長してしまい、ストレスにつながります。反対に、日常の散歩やクン活で嗅覚をしっかり使えると安心でき、ストレス軽減につながるのです。
出典:『RETEIEVER』Vol.106/「比べてビックリ! レトリーバーの嗅覚と人の嗅覚の“差”」
*1 監修=新村芳人 にいむらよしひと。 宮崎大 学農学部獣医学科、獣医遺 伝情報学研究室教授。嗅覚やフェロモンに関連する遺伝子を進化的視点で解析し、 農学や獣医学への応用の研究を行う。『嗅覚はどう進化してきたか生き物たちの匂い世界』など著書多数。


