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2025.11.10

がん治療"3本の矢"~積極的な治療は、犬と過ごす時間をもたらす~《RETRIEVER + POCHI archive039》

がん治療

構成・文=RETRIEVER編集部

「RETRIEVER」は、ゴールデン、ラブラドール、フラットコーテッドを中心とした、レトリーバー種の専門誌。
陽気で明るい性格は家族に笑いをもたらし、豊かな表情は言葉が通じなくてもコミュニケーションを可能にしています。
何と言っても、人間に対する愛情がとても深い。そんな犬種との暮らしを紹介する「RETRIEVER」さんの素敵な記事をピックアップしてPOCHIバージョンでご紹介。
犬種が違っても読めばきっと皆さんのドッグライフがより充実したものになるはずです。(POCHI編集チーム)

イメージで考えず内容もちゃんと知る

犬のがんの治療は、「手術療法」、「化学療法(抗がん剤)」、「放射線療法」の3本柱とされ、 単体で行うだけでなく、必要に応じてうまく組み合わせながら、がんと闘っていく治療について紹介します。犬のがん治療の大枠の考え方は、人と同じです。「手術療法」、「化学療法(抗がん剤)」、「放射線療法」が3本の矢としてあり、昨今は「免疫療法」も行われています。イメージや先入観に惑わされず、それぞれの治療について正しくすること。その上で、「治療の選択は最終的に飼い主が行うもの」と「埼玉動物医療センター」の院長の林宝謙治先生は話します。

1本目の矢 ― 手術療法

手術療法は、体にメスを入れてがんを切除する局所治療であり、がんが発生した部位にとどまっている場合には完治も期待できる、最も直接的な治療法です。また、化学療法や放射線療法と組み合わせて行われることも多く、がん治療の第一選択肢とされることが少なくありません。しかし、手術は決して万能ではありません。がんがすでに進行して遠隔転移を起こしている場合や、リンパ腫・白血病のように全身に広がるがんには効果が期待できないのです。さらに、犬が高齢であったり持病を抱えていたりして、手術のリスクが得られる効果を上回ると判断される場合には、適用外となることもあります。こうしたケースでは、無理に手術を行うのではなく、なるべく安らかに過ごせる方法を検討することも大切です。手術で根治を目指すためには、がんが手術に適しているかどうかを見極め、早期発見・早期治療を徹底することが重要です。


■メリット

◎ 完全に切除できれば体からがんを消せる
◎ 最も直接的かつ根治の可能性が高い

■デメリット

△ 術後、傷や体力の回復にある程度の時間がかかる
△ 切除する部位によっては臓器やカラダの機能が失われる

2本目の矢 ― 化学療法(抗がん剤)


化学療法(抗がん剤)は、全身に広がるがん細胞の増殖を抑え、がんの縮小や進行を緩やかにする治療です。手術で取り切れないがんや白血病・リンパ腫、転移した進行がん、悪性度の高いがんなどに多く用いられます。副作用として骨髄抑制が問題となり、白血球が減少して感染症のリスクが高まりますが、犬では人のような強力な治療は行わないため、副作用も比較的軽いことが多いです。副作用が出ることはありますが、むやみに恐れる必要はありません。また、抗がん剤治療は必ず最後まで続けなければならないものではなく、副作用への対応や投与量の調整を行いながら、生活の質を重視して進めていく治療であることを理解しておくことが大切です。


■メリット

◎ リンパ腫や白血病など全身性のがんの治療が可能
◎ 転移における症状の緩和と延命に期待ができる
◎ 術後に補助的に行うことで治癒する確率を高められる
◎ 全身麻酔を必要としない

■デメリット

△ 嘔吐や食欲低下、脱毛など副作用を有する ・抵抗力の低下によって感染などへのリスクが高まる

3本目の矢 ― 放射線療法(抗がん剤)


放射線療法には、根治的放射線治療と緩和的放射線治療の2種類があります。根治的放射線治療は、例えば肥満細胞腫で手術だと断脚が必要になる場合に、しこり部分のみを切除し、その後に放射線を照射して不完全切除を補う治療法です。がん周辺に重要な器官があり手術で取り切れない場合にも行われ、手術と同様に局所治療に分類されます。放射線は細胞内のDNAを損傷させ、がん細胞を攻撃しますが、痛みや熱は感じません。ただし、動物病院の数が少なく、待機期間が数カ月に及ぶことや、高額な費用が大きな課題です。それでも近年は対応できる病院も増えています。


■メリット

◎ 手術や化学療法と併用することで治癒を高められる
◎ 手術療法では難しい局所のがんに対応できる
◎ 痛みを感じることなくカラダの深部にあるがんを治療できる

■デメリット

△ 治療部位の日焼けや二次がんの発生、組織の壊 死などの副作用がある ・治療費が高額
△ 行える動物病院の数が限られ待機期間が長いことも

改めて「緩和治療」って何だろう?

がん治療には完治や延命を目的とした積極的治療方針とは別に、生活の質(QOL)維持を重視する緩和的治療方針があります。これは人でいうホスピスに近く、痛みや不快感を和らげることを目的とし、抗がん剤やリスクの高い手術は行いません。緩和的治療方針が治療の方向性を指すのに対し、緩和治療は症状緩和そのものを意味し、副作用が少ないのが特徴です。従来は終末期に行われる印象が強かったものの、近年は積極的治療と並行し、状況に応じて比率を変える考え方が広がっています。特に犬の場合、身体的苦痛の軽減を中心に治療中から生活の質を高めることが治療効果や安全性向上にもつながるとされ、飼い主の明るい接し方も重要なケアの一部とされています。

その1痛みのコントロール

がんの緩和治療として代表的ともいえるのが痛みのコントロール。痛み止めから最も強いものでは医療麻薬まで、痛みの評価を行いながら段階 に応じて使用していきます。昨今は痛みの管理を専門的に行うペインクリニックが存在する他、麻酔科と連携した痛みのケアも積極的に行われるようになっています。

その2栄養サポート

食べられなくなることで栄養状態が悪くなると、体力が維持できなくなったり、経口投薬そのものが犬にとって苦痛となったりするなど、がんの治療や他の緩和治療にも影響が及んでしまいます。また犬が食べられない状態というのは、飼い主にとってもつらいもの。食欲増進剤などを駆使して栄養状態を維持します。

その3副作用に対する治療

がんやがん治療によって起きる可能性のある合併症や副作用、後遺症などを予防し、また実際に症状が出た場合はそれを軽減させるのもまた、 緩和治療です(「支持療法」といわれることも)。代表的なところでは、化学療法の副作用である嘔吐に対する制吐剤や、放射線治療の副作用で あるやけどの治療などがあります。

出典:「RETRIEVER」vol.115/「がん治療“3本の矢”」

*1 監修=林宝謙治。りんぽうけんじ。獣医師、日本獣医がん学会獣医腫瘍化認定医I 種、「埼玉動物医療センター」院長。同病院における腫瘍科の二次診療を担当。日本獣医畜産大学放射線学教室出身。日本臨床獣医学フォーラム幹事、日本獣医がん学会代議士も務める。