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2018.10.09

秋の夜長に。犬と月の昔話。【selfishな歴史犬聞録】

空気が澄んで、夜空にぽっかりと浮かぶ月を見上げるのに良い季節がやってきました。
よく晴れた夜や夕方のお散歩の時には、空を見上げると明るく輝くお月様を見ることができるかもしれません。

犬たちの中には、狼男よろしく月に向かって遠吠えをする子もいますし、月には犬を惹き付ける何かがあるのかもしれない、と漠然と考えたことがあるのは私だけではないはず。(そう信じたい)
そんな月に向かって犬が吠えることにも繋がる、「月食」という言葉の由来と犬たちの活躍の昔話をご紹介します。

「月食」。月を食べてしまったのは、犬?

「月食」という言葉が当たり前に使われていますが、この「月食」は実は犬が月をかじってしまったという昔話から生まれた言葉だということは、あまり知られていません。

由来は古代の中国の神話までさかのぼります。

その昔、とある英雄が人々を日照りから救う功績を立て、その褒美として妻と二人分の不老不死の薬を賜ります。しかしこの英雄の妻は、この薬を二人分一気に服用することで不老不死はおろか、仙人として強い力を得ることができるようになることを知ってしまいます。
そしてついに、夫の不在の間に二人分の薬を一気に飲んでしまい、仙人となった彼女の体は浮かび上がり、月に向かって逃亡を始めます。

しかし、一部始終を見ていたのが、英雄が可愛がっていた黒い犬。妻が逃げるのを見るや、零れた薬を飲んで同じように宙に浮かび、全速力で空を駆けて妻を追いかけ始めるのです。
犬に追いかけられた妻は月の影に隠れようとしますが、嗅覚の鋭い犬ですから、すぐに見つけ出して、月ごと妻をばくっと飲み込んでしまいました。

これが中国で「月食」という言葉が生まれるに至った物語です。

この後、驚いた神々や仙人が犬に事情を問うて妻と月を吐き出させ、少しずつ月を元の形に戻したのだそうです。そして、仙人になってしまった妻は満ち欠けをする月に閉じ込められ、人知れず薬を作る仕事を続けることになったといわれています。

さて、この月を食べてしまった黒い犬ですが、後の時代には様々な形で日本でも馴染み深い物語に登場することになります。

月を食べた犬はさまざまな名前で呼ばれるように。

空を駆けて月を食べたこの黒い犬は、時代が下るとさまざまな名前を付けられて物語の中に登場するようになります。

たとえば、日本でも馴染み深いものでは「天狗」。
中国の民間伝承では、その名の通り、天を駆ける犬、もしくは天界の犬とされていました。なにか悪いことが起きることを知らせることが出来る能力を持っている「神獣」でしたが、現代の日本では犬の面影はなくなってしまいましたね。

もう一つの名前は、「哮天犬」。中国の娯楽古典小説がお好きな方ならピンと来るかもしれませんが、時に王朝を乗っ取ろうとする悪の仙人と闘うヒーローの頼もしい仲間(武器)であり、西遊記の序盤で荒れ狂う孫悟空を捕らえた仙人の勇敢な相棒でもあります。

月を食べた犬=哮天犬は、どんな犬?

写真はサイトハウンドのサルーキ。陝西細犬で調べると良く似た犬が出てきます。

この哮天犬に関しては、いくつかの書物にその姿が描写されていて、色が黒になったり白になったりとばらつきはあるものの、一貫して「細身の体をしていて手足が長く力が強い」ということは共通して記述されています。
また、少し後の時代には図像(絵)でも残されているのですが、この姿は中央アジアなどを原産とするサイトハウンド系の犬の姿に良く似ています。

少し調べたのですが、現在でも「陝西細犬」という名前の中国では1000年前の「哮天犬」の特徴をうかがわせる犬が残っているのだそう。
陝西省といえば、中国古代のシルクロードの東の終着点・洛陽があった場所。
この陝西細犬も、かつてシルクロードを通った商人たちが中央アジアなどから連れてきた犬たちがルーツになっているのかもしれませんね。

おわりに

「月」と「犬」から始まったはずのお話が、シルクロードと古代の都まで展開してしまったのは予想外でしたが、古い時代から人々と暮らしてきた犬たちの営みの一端を見ることができたような気がします。犬も月も人間にとってはずっとそばにある存在だったので、これ以外にも犬と月に関する物語は存在していると思います。

これから陽が短くなり、お散歩の際に月を見ることもふえるかもしれません。そんな時は、満ち欠けを繰り返す月をかじってしまった犬の昔話を、犬たちにもぜひ聞かせてあげてくださいね。

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