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2018.11.27

ボーダーコリーなど牧羊犬のお仕事を知って、得意なことを探してみよう。

現在ではペットとして多くの人々に愛されているボーダーコリーやシェルティーに代表される牧羊犬。これらの犬たちは、その賢さと活動的で意欲的な性格でアジリティやフリスビーの大会の常連となっています。
ご存知の方も多いと思いますが、牧羊犬たちが生み出された背景には羊の放牧と、その誘導や警護といった使役犬としての歴史があります。
広大な放牧地を走り、機敏に羊飼いたちの誘導に羊たちを従わせるために豊富な運動量、使命感、そして状況判断力が高い犬たちの血を引く犬たちが犬種の固定に大きく役立ったことは確かです。

でも、これらの犬種の犬たちが生み出され、活躍していた牧羊のお仕事についてはあまり知られていませんよね。
そこで、牧羊犬たちのふるさととも呼べる、牧羊の仕事と歴史についてご紹介致します。

高度な古代文明が起源。人々と羊の出会い。

古代、人々が動物を家畜化するようになり、そしてそれが職業のような色合いを持ち始めると、牧畜を専門的に行う人々が現れるようになってきました。羊の家畜化が行われるようになったのは、紀元前7000~6000年頃の中央アジアに存在した文明・古代メソポタミアといわれていて、この文明は曜日の概念や暦、時間の単位、金属の鍛錬・加工といった現代のルーツとなる概念を持った高度な文明でした。

柔らかな被毛や脂肪などの栄養源の供給元が当時の中央アジアには乏しく、それを補う目的で羊の家畜化が試みられたと考えられています。現に、今でも中央アジアで飼育されている羊は脂肪を蓄える能力を持った羊たちで、現地の貴重な脂肪の供給元として大切にされています。

また、メソポタミア文明が発展した中央アジアは砂漠化や乾燥化が進み、荒涼とした平原で飼育ができる丈夫な家畜は珍重されていたのだそう。

このように始まった羊の飼育は、ほどなくヨーロッパなどに伝わり、羊のウールなどを活用した衣類の生産などに活用されるようになっていきます。
また、時代が下ると、羊の皮を活用した羊皮紙などに文字や図を残すようになり、記録媒体としても活用され、より一層羊たちの飼育が重要な産業として位置づけられるようになりました。

犬の手を借りないとやっていけない!?羊飼いの仕事の大変さ。

えっ……なに?なに?

羊は非常に臆病な性格をした動物で、常に群れを形成して団体行動を取る習性があります。そのため、オオカミなどの野生動物に襲われたときも、パニックに陥ってしまいバラバラに逃げ惑い、はぐれて迷子になってしまうことも多いのだとか。
そして、群れからはぐれた羊は非常に強いストレスを感じてしまう性格で、結果的に命を落とすことがあるほど。
そのため、非常に繊細な羊たちの番をするのは初心者には難しく、特殊な技能を持った専門家が必要になったようです。

さて、この羊飼いの仕事はといえば、なかなかの激務。
パニックを起こしやすい羊たちは群れで行動する上に、畜産物を効率良く利用するためにはやはり相当な数を飼育する必要があるため、必然的に数十頭の羊たちの面倒を見ることになります。
この羊たちの食べる草も、数十頭がいっせいに食べるのであっという間に周囲の草も芝刈りをしたようになってしまい、移動して別の場所で草を食べさせる必要が出てきます。

牧草を食べさせるために移動している途中で、オオカミの声にパニックを起こし、好き勝手に逃げ惑い、はぐれてしまう羊。慌てた羊飼いが必死で追いかければ、どんどんはぐれて行ってしまうという悪循環……。

ほとほと困り果てた羊飼いが目を付けたのが、そう。
私たち人間の優秀なアシスタント・犬たちでした。彼らの子孫が牧羊犬として大活躍することで私たち人間はさまざまなサポートを受けられるようになりました。

シープドッグたちの大活躍と素晴らしい能力が生まれた背景。


羊飼いたちが採用した牧羊犬たちの仕事には、いくつか種類がありました。

まずは、野生動物や羊泥棒(家畜も立派な資産でした)を威嚇して追い払ったり、撃退することができる勇敢さと注意深さ、そして立派な体格を持った、いわゆる「ガーディングドッグ」のお仕事。
今よりも自然が豊かだった時代、家畜たちはたびたび野生動物に襲われていました。
これらの脅威に立ち向かい、威嚇したり時には勇敢に戦ったりするだけでなく、いるだけで相手を威圧することができる体の大きな犬が求められました。
嗅覚や聴覚など鋭い感覚を活かし、夜間の警備業務や羊飼いたちの目の届かない脅威を取り除いた犬たちに、何度も人々は救われたはずです。

そして、もう一つのお仕事は、広大な牧草地で臆病な羊たちの群れをまとめ上げる「ハーディングドッグ」です。
特に牧場や農場などの広大な施設が作られるようになり、より多くの羊を飼育する人々が現れた頃から、犬たちが人に代わって羊を統率し、誘導する役割を担うようになっていきます。特に大きな群れになると、バラバラと自由に動き回ってしまう羊たちの前に走り回り込んで引き止めたり、はぐれてしまった羊を探しに駆け回ったりできる俊敏さな動きが得意な犬たちの力を借りる必要ができたのです。

さて、このハーディングと呼ばれる仕事は、ただ犬たちだけで出来る仕事ではなく、羊飼いの指示や意図を理解し、羊たちを素早く誘導する洞察力も求められる高度なもの。
また、額面どおり、指示通りに動いていただけではパニック状態に陥りやすい羊たちの全てまではフォローしきれないので、犬たち自身の咄嗟の機転・複雑な処理が要求されます。

これらのように、羊飼いたちのアシスタントとして活躍してきた歴史を持つ犬たちは、それぞれ訓練性能や運動能力、勇敢さなどの他にも咄嗟の判断力や冷静に思考できることを求められてきました。
そのため、牧羊犬として活躍してきた犬たちはいずれも「賢い」「判断力がある」「訓練性能が高い」という特徴を会得することになったんですね。

さいごに

牧羊犬は豊富な運動量が必要で、賢いためイタズラも激しく扱いにくい……なんて言われることも多いですが、それは彼らの活躍してきた場所や歴史に理由があったからこそなんですね。
単純な散歩やランニングではなく、犬たち自身に考えさせたり、自分で状況を判断しながら楽しめるアジリティやフリスビーが得意な犬たちが多いのも納得です。

ボーダーコリー、シェルティなどのほか、ジャーマンシェパードやスキッパーキなど牧羊犬たちの姿や体の大きさはさまざま。
中には、コーギーなど少し変わった牧羊のお仕事をしていた犬たちもいて、その作出の背景も少しずつ異なっているので、きちんと犬たちの歴史を知ることで暮らしはもっともっと豊かになっていくような気がしています。
皆さんと一緒に暮らしている犬たちはどのような背景を持つ犬たちなのか、得意なことや楽しいと感じることのヒントは、ご先祖さまやルーツに隠されているかもしれませんよ。

DOG's TALK

POCHI スタッフ OKAPY

歴史と犬猫を愛するスタッフ。幼い頃は秋田犬と暮らす。今は猫と同居中。
学生時代の専攻は日本古代史における伝染病のほか、民俗史や習俗など。
でも生涯を通じて一番好きな題材は三国志・三国時代。
好きな犬のタイプはスピッツタイプ。アラスカンマラミュートやハスキー、サモエド、秋田犬など。大型犬と触れ合うと漏れなくテンションが上がります。