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2018.12.17

【#selfishな歴史犬聞録】犬は何を食べてきたのか?文献に出てくる犬たちから考えてみた。

ドッグフードの紹介文などでも見ることが多くなってきたのが、「犬本来の食事~」や「野生の犬たちが~」という文言です。
犬たちの祖先である野生動物・オオカミなどの食性から、その消化や食事のプロセスを推測し、より本来の食事に近づけようという試みが多くされるようになっています。でも、さらにさかのぼると、「トマークタス」というキツネやタヌキなどを含むイヌ科の動物の祖先につながります。

……うーん、なんだか果てしのないお話になりそうな予感がしてきました。そこで、人間との暮らしを通して犬たちの食事はどのように変わってきたのでしょうか?
私たち人間と暮らすようになった犬たちは、一体どんなものを食べてきたの?
ちょっとだけ、想像してみませんか?

平安時代の宮中で暮らしていた犬の場合

平安時代といえば、日本らしい文化・いわゆる国風文化が花開き、日本という国の象徴となるさまざまな事物が生まれた時代といわれています。その一つである「ひらがな」は、中国で生まれた漢字などをくずして、より柔らかく日本人の感性にマッチした文章を書き上げるのに適した文字です。

このひらがなを生み出したのは、宮中で働いていた女性たちだったそうです。

さて、この女性たち、いわゆる女官・女房たちの中には犬好きも紛れ込んでいたようで、宮中での住み込みの仕事の傍ら、犬たちを可愛がっていたことが日記などに残されています。
有名な犬でいうと、清少納言の日記・枕草子に登場する白い犬。名前は翁丸と言います。かわいそうな目にあってしまう翁丸のお話はまた別の機会に。

さて、この翁丸のような犬たちは、女房たちに食事を分けてもらったり、天皇の后である中宮の食事に同席したりしていたようです。そう考えると、中宮の食事とほぼ変わらない(今で言うヒューマングレード)食事をもらっていたのかもしれませんね。

中世の犬たちの暮らしぶりと、日本人

さて、時代は下って武士という存在が日本の歴史の中心に立つようになっていく中世。武芸が美徳とされる武士の世界では、狩りは自身の腕を見せ、鍛錬を積む大切な場面として認識されるようになっていきます。
この頃、やっぱり人々のそばで暮らしていた犬たちは、猟犬として活躍の場を広げていくことになります。例えば、弓の腕を見せ付けるために野鳥を狩った時には、人々が射る野鳥を茂みから追い立てたり、猪などの大物を追いかけたり、動物の居場所を鋭い嗅覚で探り当てたり、時には勇敢に戦ったり。

そのせいか、犬たちが怪物や悪者を退治するお話が神社やお寺に残されるようになっていきます。その中の一つが、山の神である大猿を倒す活躍をして見せたしっぺい太郎のお話です。(コチラのお話も詳しくは別の機会に……)

このお話の中でも、食事が出てきます。しっぺい太郎は、とあるお寺で野生の狼であった母親から生まれました。とても強い狼、それも子どもを生んだばかりのメスの周囲に人々は恐ろしがって近寄りもしなかったのですが、住職はそっと母犬と生まれた子どもたちに赤飯を与え、食べさせるのです。
その後、母親はしっぺい太郎だけをその寺に残し、他のきょうだいたちとともに山に帰っていきました。

こちらも生まれた場所がお寺ということもあり、やはり肉を食べる様子は描かれていません。ですが、山猿を倒すなどの描写から、犬たちは狩猟などのお手伝いをしていたことが想像できますね。昔の人たちだって、いつも一緒にいる犬たちをとても可愛がっていたはずですし、そのお駄賃代わりに新鮮な肉をほんの少し分けてもらったりして……。

犬公方さまの犬小屋のマニュアルを公開!……でも…?

さらに時代は変わって江戸時代。かの有名な生類憐みの令を出した徳川綱吉の時代を見てみましょう。

この将軍は動物の殺生を禁じ、中でも犬を特別に手厚く保護したと言われています。江戸に複数の犬小屋・御犬囲と呼ばれる保護施設を作り、そこに江戸中にいた野良犬たちを収容したのです。
収容した、というだけではなく、特に「病気の犬」や「衰弱した犬」などには別の食事を与えるなどの措置も行ったと言われています。

例えば「重病の犬たちには生魚を焼いてやり、軽く煮て毎日朝晩に食べさせてやりなさい」だとか「かつお節は、犬が病気になって食欲がない時に与えてやるものなので、大切に使いなさい」といった具体的なマニュアルが当時の犬小屋には存在していたのだそう。
実は生類憐みの令の解釈は、どんどん拡大していって、最終的には虫や魚を殺すことすら禁止されていたので、人よりも犬たちの方が良い物を食べていた……なんてことがあったようです。

まとめ

犬たち本来の食事、といえば生の肉が真っ先に連想されるようになってしまっていますが、実は日本の犬って、雑穀や小魚を食べていた時期の方が長いのでは……?という新たな疑問が生まれました。
今ではドッグフードのタンパク源の選択肢の一つとして定着した魚。でも、この魚は野生の犬や狼たちにとっては、狩の対象となっていたかといえば疑問が残ります。海や川、水中にいる魚はやはり犬にとっては馴染みのない食べ物だったように思います。もっと深読みすると、セミやバッタ、ミミズなどの虫の方が、より犬たちにとっては身近で良質なタンパク源だった可能性の方があるような……。なにはともあれ、お掃除やさんといわれるジャッカルやディンゴなどもイヌ科ですし、犬はもともと雑食性が強かったという説もありますが、人々と一緒に文化や歴史をつむいできたからこそ、雑食性が強くなったと思いたいところです。

DOG's TALK

POCHI スタッフ OKAPY

歴史と犬猫を愛するスタッフ。幼い頃は秋田犬と暮らす。今は猫と同居中。
学生時代の専攻は日本古代史における伝染病のほか、民俗史や習俗など。
でも生涯を通じて一番好きな題材は三国志・三国時代。
好きな犬のタイプはスピッツタイプ。アラスカンマラミュートやハスキー、サモエド、秋田犬など。大型犬と触れ合うと漏れなくテンションが上がります。