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2019.08.21

肝臓病?犬の血液検査でALPなどの数値が高いと言われたら。【獣医師コラム】

肝臓病?犬の血液検査でALPなどの数値が高いと言われたら。【獣医師コラム】

■ この記事を書いた人

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(庄野 舞 しょうの まい)獣医師 東京大学 農学部獣医学科卒業。 東京大学付属動物医療センターにて、血液腫瘍科、神経内分泌科、消化器内科で従事。 たくさんのペットの生死を見てきて、共に戦った飼い主さんが最終的に願うのは「食べさせてあげたい」という思いであることに気づく。 現在は、病気予防のふだんの食事のこと~漢方、植物療法の世界の探求に励む。はじめの一歩に漢方茶マイスターを取得。 得意分野は、犬猫の血液腫瘍と回虫。講演なども行っている。(詳しいプロフィールはこちら

健康診断などで計測されることの多い肝臓の数値。ちょっと高いですね、などと言われて心配になったことはありませんか?
肝臓の数値が高い=肝臓の病気、はちょっと間違い!今回は、血液検査で肝臓の数値が高いときに考えられることをまとめてみました。

肝臓の働き

肝臓の数値を詳しく見る前に、普段肝臓がどんな働きをしているか簡単に見てみましょう。
肝臓は、大きく分けて3つの役割を担っています。

[1] 栄養素の合成と貯蔵

食事から摂取した栄養素は、腸で吸収されたのち、血液を通って肝臓に一度全て送られます。この肝臓で、体にとって必要な物質を合成したり、エネルギーを作り出したり、あるいは余分な栄養素は貯蔵したりして、日々の身体の動きを支えています。

[2] 胆汁の分泌

胆汁は肝臓で常に作成・分泌されている物質で、胆嚢で蓄えられています。食事を食べた時などに小腸に分泌され、脂肪の分解吸収を促進する働きを持ちます。

[3] 解毒

3つ目に大事な役割が、解毒作用です。体を流れる血液は、心臓にいく前に必ず肝臓を通るようになっており、ここで体に有害な物質を無害化し、尿や胆汁中に排泄する、という役割を担っています。たとえば食事中のタンパク質も、利用過程でアンモニアという有害物質が作られてしまいます。このアンモニアを尿素に分解し、尿中に排泄させるなどが、肝臓の代表的な解毒作用になります。

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こう見ると、肝臓が全身のエネルギー源であり、解毒の中核地点であることが分かりますよね。そしてこの肝臓は沈黙の臓器、と呼ばれるくらい頑張り屋さん。肝臓の疾患は重篤にならないと、目に見える症状に現れないことが多いのです。そこで重要になってくるのが、肝臓の働きを評価する検査になります。

血液検査の項目とそれぞれの意味について

肝臓の数値、とよくまとめて話される血液検査の項目は、「GPT(ALT)」「GOT(AST)」「ALP」「GGT」の4種類があります。これらは「肝酵素」とまとめて呼ばれています。それぞれどんな成分なのか、見てみましょう。

「GPT(ALT)」

GPTはグルタミン酸ピルビン酸転移酵素の略で、ピルビン酸とグルタミン酸をアラニンとα-ケトグルタル酸に変える酵素です。犬猫たちの全身の細胞内に含まれていますが、中でも肝細胞に含まれている量が圧倒的に多いため、この数値が血液中で上昇していると、肝臓の細胞が壊れている指標になります。

「GOT(AST)」

GOTはグルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼの略で、こちらも犬猫たちの全身の細胞に含まれている酵素になります。多く含まれている細胞に、、肝細胞、赤血球、心筋細胞、骨格筋細胞などが挙げられ、GOTが血液中で上昇していることは、これらの細胞のどれかが壊れていることが示唆されます。

「ALP」

ALPはアルカリフォスファターゼの略で、リン酸化合物を分解する酵素です。肝臓・腎臓・骨・腸などで作られ、肝臓に運ばれたのち、胆汁に流れでます。この胆汁の流れが悪くなった場合、また上記の臓器の壊死や修復が活発に行われいる場合などに、血液中のALPが上昇すると言われています。

「GGT」

GGTはγ-グルタミルトランスフェラーゼの略で、これも犬猫たちの全身に分布し、細胞膜に結合するような形で細胞内に存在しています。肝臓では胆管の細胞膜にあることが多いため、このGGTが血液中に流れでる場合、主に胆管まわりの異常が起きていることが示唆されます。

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さて、4つの肝酵素をざっと見てみましたが、どれも、肝臓だけの酵素でないことが分かりますね。GPTだけは肝臓に存在する量が圧倒的に多いのですが、その他の3つは、他の臓器にも多く分布している酵素になります。
ここから、『肝酵素上昇=肝臓の疾患』、でないことが感覚的に理解いただけたでしょうか。

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また、肝臓の働きでお伝えしたように、肝臓には全身の血液循環に入る前に、すべての血液が肝臓に流れ込みます。そのため、肝臓以外の疾患や、一時的な身体のバランスの悪化でも、肝酵素に影響がでことがよくあるのです。

肝臓疾患以外でよく肝酵素上昇がみられる時

疾患ではないもの

・ 成長期
骨で作られるALPが多くなるため、ALPが高くなる傾向にあります。

・ 犬種
シベリアンハスキーやスコティッシュテリアにて、遺伝的にALPが高くなる現象が認められています。

・ 薬剤投与
肝酵素を上げる代表的な薬に、フェノバルビタールやステロイドがあります。ステロイドは特に、服用している犬猫たちも多いと思いますが、これらの薬は肝臓で処理されるため、肝酵素上昇が認められることが多いです。服用中は定期的に血液検査を実施し、肝臓の数値を追うことが一般的です。

・ 食事やサプリメント
小腸から吸収された栄養素は、血液を通してすべて肝臓に流れ込みます。そのため食事やサプリメントがその犬猫たちに合わないと、肝臓に負担をかけることになります。昔さまざまなサプリメントを数種類服用している犬に肝酵素上昇が認められた時、サプリメントを中止したら正常値に戻ったこともありました。

・ ストレス
ストレスを受けると、身体を守るためにコルチゾールというホルモンが分泌されます。このホルモン、ALPの産生を誘導するとされているので、慢性的なストレスを受けているとALPが上昇する傾向にあります。

疾患

クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)犬がクッシング症候群かも?と思ったときに確認しておきたい症状【獣医師監修】
犬でよく見られるホルモンの分泌異常の疾患です。これは副腎と呼ばれる、腎臓の奥にある臓器の疾患なのですが、肝酵素、とくにALPが上昇することで知られており、ALP上昇からこの疾患が見つかることも多いです。

・ 高脂血症
血液中の中性脂肪や総コレステロール値が高いことを高脂血症と呼びます。原因は遺伝的なもの(ミニチュアシュナウザー、シェルティーなど)から、上記のクッシング症候群による二次的なもの、あるいは食生活などが考えられますが、脂質の代謝も肝臓で行っているため、高脂血症の場合は肝臓に負担がかかり、肝酵素上昇が認められることがあります。

・ 炎症性疾患全般
特に、膵炎や消化器系のトラブルで上昇しやすい印象があります。炎症が起きている時、ストレス時と同じようにコルチゾールが分泌されるため、ALPが上昇する傾向にあります。

糖尿病 →【獣医師監修】犬の糖尿病かも?と思ったら。チェックしたい症状~犬の病気のイントロダクションcase#05 ~
糖尿病は食後血糖値が異様に高くなる疾患ですが、血糖を取り込んで血糖値を維持する役割を肝臓は担っています。そのため血糖値が高いことによる肝臓への負担が発生し、肝酵素上昇につながるとされています。

歯周病 →シニア犬の歯周病が怖い理由 ~ペット栄養管理士のアドバイス #11 ~
見落されがちな肝酵素上昇の原因疾患に、歯周病があります。歯周病の治療をすると肝酵素が下がったという報告が続いており、歯周病によって慢性的な炎症状態が作り出され、その炎症による肝臓への負担があるのではないかと言われています。人でも、歯周病と肝酵素上昇や肝炎、糖尿病には大きな相関があるとされ、歯の治療をまず実施するよう勧められることも多いようです。

・ 骨の疾患
骨にできる腫瘍や、骨の障害時に肝酵素上昇は見られます。これは骨でもこれらの酵素を作っているからです。骨の障害はたとえば、腎臓病などでカルシウムやリンなどのバランスが崩れてしまった時などが挙げられます。

・ 肝臓疾患
そして最後に、肝臓疾患になります。肝臓疾患といっても、様々な疾患が挙げられますが、肝炎や先天性の肝障害、肝リピドーシスと呼ばれる肝臓に脂肪が蓄積する病気などが比較的多く見られます。

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やはりここでも、肝酵素上昇があるときに、イコール肝臓疾患でないことがさらによくお分かりいただけたかと思います。

肝酵素上昇がみられた時の診断方針

それでは、肝酵素が高いことが分かったら、どのように診断していくのでしょうか?

まず、一時的な上昇でないことを確認します。
肝酵素はお伝えしているように、たくさんの要因が絡んでいる物質なので、その日のストレスや食べたものによって変動することがよくあります。そのため、軽度な上昇であれば、同じ条件で、再度日を改めて測定し、本当に問題となるべき異常値かを検討します。

その次に、現在食べているものや与えているサプリメント・薬を洗い出します。
最近変更したり追加したりしたものがないか確認し、上昇の前後で変えているものがあれば、その製品をストップしてみることも検討します。
そして口腔内の状態もチェック。歯周病が認められた場合、その治療を行うことで、肝酵素の変化を見ることも多いです。

その次に、上記疾患をひとつひとつ除外していきます。
肝酵素は上に挙げた4つですが、その他にも、肝機能を表す血液検査項目があります。血糖値(グルコース)や尿素窒素(BUN)、ビリルビンやアルブミンが挙げられ、肝酵素が高い場合、追加でこれらの項目を計測することがあります。その後、エコー検査などを経て、それぞれの病気を診断していく流れになります。

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食事やサプリメント、歯周病が原因になるなんて…ちょっと驚きませんか?肝酵素上昇が見られたら、犬猫たちの生活を一度見直す機会かもしれません!

まとめ

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肝臓は全身の代謝・解毒の中核を担っている

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肝酵素は肝臓以外の臓器にも多く分布している

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肝酵素上昇を引き起こす状態や疾患は肝臓以外の問題であることもとっても多い

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食事やサプリメント、歯周病によって肝酵素が上昇することも

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肝酵素上昇を引き起こす状態や疾患がとても多いことに驚きますよね。肝酵素、という名前が悪いと思っているのですが、うちの子肝臓が悪いの、とお話されている方の多くは、肝酵素が高いことを指していることが多いように思います。
軽度の上昇であれば、疾患とは限らず、日々口にしているものや、歯周病の可能性もありますので、肝酵素上昇=肝臓疾患だから肝臓のサプリメントを!とか肝臓の療法食を!とならないよう気を付けていきたいですね。