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2019.09.17

犬も朋輩 鷹も朋輩 ~犬の故事成語・ことわざ講座~

人々と長く過ごしてきた犬たちは、さまざまな形で私たちの文化にも関わって来ました。昔の人々から伝えられてきた言い回しや表現にも、犬たちが登場します。そこには「犬って○○だよね」という昔の人々が犬たちに抱いてきた印象やイメージなどが反映されています。
昔の人々が見てきた犬たちの姿を映す鏡として、犬たちが登場する故事成語やことわざ、慣用句を紹介します。

犬の故事成語・ことわざ講座 ~犬も朋輩 鷹も朋輩(いぬもほうばい たかもほうばい)~

犬も朋輩 鷹も朋輩

《意味》
犬も鷹もそれぞれ得意なことも立場も違うけれど、同じ狩をする仲間である。それと同じように、同じ主人に仕えていたり、同じ目的を持っている者は等しく仲間として仲良くやっていくべきだ。

《出展》
近松門左衛門『賀古教信七墓廻』(浄瑠璃の演目)

どういった場面で使われる?

本日の出展元は、江戸時代に流行した浄瑠璃の演目・賀古教信七墓廻(かこきょうしんななはかめぐり)です。
三味線の伴奏に合わせてセリフ、しぐさを語る歌を歌う(これを語ると表現します)浄瑠璃は、日本風オペラとも言えるかも知れません。これから派生したものに人形劇と浄瑠璃を合わせた人形浄瑠璃などがあります。

さて、賀古教信七墓廻の演目は、とある僧侶が大阪周辺にあった「七墓めぐり」というとある祭礼を行うもの。ストーリーでは家族の死や両親の敵の死を受けて、供養のために大阪市内の七つの墓を巡っていきます。
その中に、武家で家老を務める人物が、身分がずっと下であるはずの使用人、草履取りにお酒をすすめる場面があります。当時の日本は士農工商の身分がくっきりと分かれていた社会。当然、使用人は「とんでもないことでございます、一緒にお酒をいただくなんてできません」と断るのですが、それに対して家老は「何を言う。犬も朋輩(ほうばい) 鷹(たか)も朋輩じゃ。同じ殿のために働いておる仲じゃないか」と返すのです。

日本では伝統的に武士のたしなみとして狩りは行われて来ました。狩りの場では、犬たちも鷹もどちらも「狩り」で、それぞれの得意なことをして主人に「成功」をもたらす存在だったのです。
犬も鷹も、そして、自分たちも同じ仲間、という思いがあったことがうかがい知れる言葉です。

DOG's TALK

地を駆ける犬と空を飛ぶ鷹では見えている視界は違うけれど、同じ獲物を捕まえるという目的は一致しています。そしてその視点の違いが成功への近道へと繋がることも少なくはないはずです。そのことを身分社会だった江戸時代の演目に盛り込んだ近松門左衛門は、当時としてはかなり先進的な考え方をしていた人だったといえるのではないでしょうか。
そしてさまざまな立場の人や考えの人が同じ社会に暮らす現代に生きる私たちにも、通じるものなのかもしれません。