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2021.10.04

Dog Snapshot R 令和の犬景 Vol.7「日本横断徒歩の旅」で出会った犬たち

Dog Snapshot R 令和の犬景 Vol.7「日本横断徒歩の旅」で出会った犬たち

(写真・文 内村コースケ)

犬は太古より人類と一緒に歩んできました。令和の世でも、私たちの暮らしにさまざまな形で犬たちが溶け込んでいます。このフォトエッセイでは、犬がいる情景を通じて犬と暮らす我々の「今」を緩やかに見つめていきます。

令和の日常を捉えて真実を探る旅

2019年2月から今年2021年9月にかけて、東京・晴海埠頭から新潟県糸魚川市の日本海まで、歩いて旅をした。もちろん、ずっと歩き続けたわけではなく、30回に分けて歩き繋いだ。A地点からB地点まで歩いたら一旦帰宅し、後日またB地点からスタートしてC地点へ・・・ということを30回繰り返したわけだ。1回の歩行距離は15〜30km。直線距離では330kmほどのルートだが、裏道を歩いたり寄り道をしているので、実際の歩行距離は552.7kmを記録した。旅の様子は、『ニューズウィーク日本版』webサイトのコラム欄で、フォトエッセイの形で連載している(『日本横断徒歩の旅』https://www.newsweekjapan.jp/uchimura/)。


旅の目的は、愚直に歩き続けることで、「日本のリアルな今」を見直すこと。極端な事象や政治経済の動きだけがニュースではない。地味な日常にこそ、事実とその先にある真実が宿る。そこで、日本列島の地質的・文化的な真ん中に位置するフォッサマグナに沿って歩くことで、この国の「都会」「地方」「過疎地」「海」「山」の姿を偏りなく抽出することにした。併せて、戦後の終わり・新時代の幕開けとなりそうな2020東京オリンピック・パラリンピックの閉幕時期(結果的に1年延期され2021年9月となった)に合わせてゴールすることにした。途中で元号も平成から令和に切り替わり、この国の「節目の時代」を見ることができたと思う。

その道々で、さまざまな犬たちに出会った。写真を撮らせてもらった犬は57頭。今回は、犬視点での旅の総括を兼ねて、その顔ぶれの一部を紹介しよう。最初に出会った犬は、手紙を咥えたトイプードル。2019年2月10日、オリンピックの選手村が建設されていた東京湾岸の晴海埠頭をスタートし、都心の先の最初の住宅地である四谷の裏道で、飼い主さんの素敵な笑顔と共に写真を撮らせてもらった。まだコロナの脅威が東京を襲う前の一コマ。裏路地の庶民的な暮らしと都会の洗練が融合した散歩風景だった。

都会の裏路地で出会った手紙を咥えたトイプードル(2019年2月・東京都新宿区)

都会の裏路地で出会った手紙を咥えたトイプードル(2019年2月・東京都新宿区)

地域性によって変わる犬の暮らしぶり

郊外住宅地では、若い飼い主と若い洋犬の姿が目立った(2019年3月・東京都府中市)

郊外住宅地では、若い飼い主と若い洋犬の姿が目立った(2019年3月・東京都府中市)

個別の地域性にもよるが、郊外住宅地の暮らしは、都心や下町よりもかえって流行に敏感だと思う。少し前までは、23区内でも住宅地の世田谷あたりからそうした流行のにおいを感じたが、今回通過した今の世田谷は想像以上に老人の姿が目立ち、都会なりの少子高齢化の波を感じざるを得なかった。23区を出て多摩川の土手あたりまで来ると、ようやく現役世代の姿の方が目立つようになり、必然、連れている犬も若い洋犬の姿が多くなった。

東京脱出の際は、裏高尾から登山道に入り、山越えで相模湖方面に抜けるルートを選んだ。東京と神奈川の境界にある景信山の茶屋には、保護犬だという犬が3頭いた。最近は「犬嫌い・犬アレルギーの人もいるから」といったお題目が広まり、昔はちょくちょく出会ったお店の看板犬がめっきり減ったように思う。それだけに、伝統的な日本の雑種犬らしい風貌も手伝って、人懐っこい彼らが暮らす茶屋は、昭和の昔にタイムスリップしたようなおおらかな­空間だった。

山梨県に入ると、「首都圏」から「地方」へと地域性が変わる。犬たちも、都会的な室内犬よりも庭先に繋がれた雑種犬が目立つようになった。といっても、まだ山村というほどの奥地を歩いているわけではなく、番犬というよりは「外飼いの家庭犬」と言うべき中間的な存在の方が多かった。

景信山の茶屋の看板犬(2019年3月・東京都八王子市)

景信山の茶屋の看板犬(2019年3月・東京都八王子市)



山梨県に入ると外飼いの雑種犬が目立つようになった(2019年4月・山梨県大月市)

山梨県に入ると外飼いの雑種犬が目立つようになった(2019年4月・山梨県大月市)

農村と山間部の老犬たち

農家の庭先の番犬(2019年6月・山梨県甲州市)

農家の庭先の番犬(2019年6月・山梨県甲州市)



道に出てきてあいさつをしに来た牧場の老犬(2019年12月・長野県原村)

道に出てきてあいさつをしに来た牧場の老犬(2019年12月・長野県原村)



霧ヶ峰で出会った登山犬(2020年2月・長野県諏訪市)

霧ヶ峰で出会った登山犬(2020年2月・長野県諏訪市)

山梨県は、笹子峠を境に、富士五湖などがある「郡内地方」と、甲府盆地を中心とした「国中地方」に分かれる。国中地方の勝沼ぶどう郷などの農村地帯では、郡内で目立った外飼いの家庭犬に代わって、昔ながらの番犬や猟犬を農家の庭先でよく見かけた。そうした犬たちはカメラを向けると勢いよく吠えてきたが、僕にはそれはそれでかわいらしい姿に見え、吠えられてちょっと嬉しいのであった。

長野県に入ると状況はさらにワイルドになって、八ヶ岳山麓では、牧場でフリーに飼われている犬がフラっと出てきて、前の道を歩いていた僕にあいさつしてくれた。撫でてあげるとしばらくゆっくりとした足取りで後をついてきたが、牧場の敷地の前から離れるとスッと戻っていった。霧ヶ峰の登山道では、小型犬を抱えた山岳パトロールのお兄さんに遭遇。松本の住宅地では、夕方の犬の散歩ついでに井戸端会議をするお年寄りたちに声をかけて写真を撮らせてもらった。件の牧場の犬がそうだったように、高齢化が顕著な過疎の村や地方都市では、犬も老犬の姿が目立った。安曇野で出会った農作業に向かう軽トラックの荷台の犬も、10歳を超えていそうな老犬だった。

お年寄りの井戸端会議に犬たちも参加(2020年7月・長野県松本市)

お年寄りの井戸端会議に犬たちも参加(2020年7月・長野県松本市)



農作業に向かう軽トラの荷台の犬(2020年11月・長野県安曇野市)

農作業に向かう軽トラの荷台の犬(2020年11月・長野県安曇野市)

犬は人間社会の写し鏡

山間部では主に雑種の老犬との出会いが続いたが、最後に出会った犬は、比較的若そうな笑顔がかわいいシェルティ(シェットランド・シープドッグ)だった。ゴールの糸魚川は、日本列島を地質的にも文化的にも東西に分ける北アメリカプレートとユーラシアプレートがぶつかる土地。そのプレートの動きによって5億年の歳月をかけてできた宝石が、日本の「国石」に指定されているヒスイ(翡翠)である。古墳時代の勾玉などに使われている宝石だ。シェルティは、そのヒスイを産出する渓谷のそばの土産物店の看板犬だった。カメラを向けると店の中から入り口の外まで出てきて、優しい笑顔をふりまいてくれた。

犬たちの出で立ち、人との関係、出会いの形。こうしてあらためて振り返ると、それらは同じ日本の中にグラデーションを作り出す地域性と密接につながっていることが分かる。同時に少子高齢化などの時代性も反映されていた。「犬は人間社会の写し鏡」。これからもこの視点で、日本の犬たちをスナップしていきたい。

旅で最後に出会った土産物店のシェルティ(2021年8月・新潟県糸魚川市)

旅で最後に出会った土産物店のシェルティ(2021年8月・新潟県糸魚川市)

■ 内村コースケ(写真家)

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞で記者を経験後、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争の撮影などに従事した。2005年よりフリーとなり、「撮れて書ける」フォトジャーナリストとして、ペット・動物愛護問題、地方移住、海外ニュース、帰国子女教育などをテーマに撮影・執筆活動をしている。特にアイメイト(盲導犬)関係の撮影・取材に力を入れている。ライフワークはモノクロのストリート・スナップ。日本写真家協会(JPS)会員。