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2025.08.28
Dog Snapshot R 令和の犬景Vol.53 アイメイト(盲導犬)候補から家庭犬へ 「水遊び」に見る変化
写真・文 内村コースケ
犬は太古より人類と一緒に歩んできました。令和の世でも、私たちの暮らしにさまざまな形で犬たちが溶け込んでいます。このフォトエッセイでは、犬がいる情景を通じて犬と暮らす我々の「今」を緩やかに見つめていきます。
「不適格犬」は、申し分のない家庭犬
我が家のラブラドール・レトリーバー「ルカ」(4歳オス)は、元はアイメイト(公益財団法人アイメイト協会出身の盲導犬)候補犬です。2歳半で我が家に来るまで、アイメイトになるための訓練を受けていましたが、結果的にアイメイトには向かないと判断されました。そうした「不適格犬」は、ボランティアの一般家庭に引き取られますが、我が家もその奉仕家庭の一つです。
不適格の理由はそれぞれですが、ルカの場合はアイメイトとしては野生味と言うのでしょうか、本能が強いのが理由とのことでした。家庭犬として一緒に暮らしている分には、特別そのようには感じません。視覚障害者の心に寄り添うアイメイトらしい、とても心根の優しい子です。ただ、「ご飯食べたい」「遊びたい」といった気持ちが高まった時の衝動が抑えきれない傾向があり、そういう時はベッドルームの枕や僕の靴下を拾ってきて、かみかみしたりして気を紛らわします。
アイメイト協会では、長年「不適格犬」という呼び名を使っていますが、近年はその言葉の表面的な響きに不快感を感じる人が増え、「キャリアチェンジ犬」などと言い換えている他の盲導犬育成団体もあります。しかし、当然のことながら、「アイメイトとしては」不適格であっても、存在そのものが不適格という意味では決してありません。事実、大事に育てられてきた不適格犬は皆、幸せに暮らし、家族を幸せにしている優秀な家庭犬です。「アイメイトには向かない」という一つの事実をもって、存在の優劣を計れないのは当然のこと。誰にでも適性があり、得意なことを伸ばせば良いのです。だから、僕は「アイメイトしては」不適格であることを、オブラートに包む必要性を感じませんし、逆に誇りを持って「不適格犬」と呼び続けたいと思います。
我が家に来て3年目のルカ。家庭犬として申し分のない、優しくて楽しい子です
水辺で遊ぶ姿に幸せを感じる夏
さて、この夏は温暖化が進む近年でも、特に暑いですね。我が家は避暑地の軽井沢地域にありますが、以前は滅多に超えることがなかった30度オーバーが当たり前の夏を過ごしています。ルカを連れて楽しめる涼しい散歩場所や遊び場を探すのにもひと苦労。山に入ればだいぶ涼しくはなるのですが、今度は熊の出没情報が異常に増えているので、あまり人里離れた山間部には近づけません。そこで、ある程度開けた場所にある川・湖や、整備されたプール付きドッグランなどの水辺に行く機会が増えています。そして、ルカの場合、この水辺での遊び方が、アイメイト候補犬から家庭犬になったことに伴う「変化」を感じさせる指標の一つになっています。
アイメイト候補犬は、アイメイト協会で訓練に入るまでの1年間、ボランティアの飼育奉仕家庭で育てられます。その間は、特別なしつけをせずに愛情を込めてありのままに育ててください、というのがアイメイト協会の方針です。ただ、「ボール遊びをさせないでください」というお願いがあります。アイメイトとして仕事をしている最中に、何かを追いかけていってしまったら大変ですよね。だから、「ボール遊び」は数少ない禁止事項になっているのです。
また、アイメイトには、「利口な不服従」と呼ばれる重要かつ高度な訓練があります。アイメイト歩行は基本的に、使用者の「ゴー(進め)」「コーナー(交差点の段差などで止まれ)」「ライト(右へ進め)」などの指示に従って歩きます。しかし、急な車の飛び出しなどの危険を察知した場合には、指示があっても従わずに止まったり回避したりする自主性も求められます。その影響だと思いますが、現役に限らず、リタイア犬などアイメイト関係の犬には、「危険な場所」の一つである川、水路、水たまりなどには自ら入ろうとしない強い意志を感じることが多いです。
ルカも来た当初はそうでしたが、家庭犬として過ごすうちに、ボール遊びに目覚めました。そして、おもちゃを使って誘導するなどして「浅いところなら怖くないよ」と教えると、やがて水たまりから始まって、足がつく川にも自分から楽しそうに入っていくようになりました。足がつかない深いところにも積極的には飛び込みませんが、入ってしまえば上手に泳ぎます。そうして遊んでいる姿は、一般の飼い主としては微笑ましいもの。家庭犬としての適性を開花させたルカのそんな姿が、我が家の夏を幸せにします。
今のルカが好きなのは「足がつく水辺」
初めて一緒に迎えた去年の夏は、水泳とSUP(スタンド・アップ・パドルボート)にも挑戦しました。足がつかない深場にはなかなか自分では入りませんが、ライフジャケットのハンドルを持って一緒に入っていくと最初から上手に泳ぎ始めました。SUPに乗るのも風を感じて楽しそう。少々無理矢理SUPから水中に放り込むと、ぐいぐい泳いでリードで繋がっているSUPごと引っ張っていってくれました。
ただ、泳いでいっていく先は、岸か、近くの他のSUP。泳ぎそのものを楽しんでいるというより、早く水から上がりたい一心なのでしょう。ルカにとっては、足がつくところでチャプチャプやっている方が楽しいのだろうな、と思い、今年はそういう場所を中心に回りつつ、つい先日にはSUPも楽しみました。自分から乗船し、時には水に飛び込むなど去年よりもさらに水に親しんできたようです。
プールや川で暑い夏をエンジョイ
では、そんな、この夏のルカの水遊びの様子をご覧ください。末尾には、動画も何本か掲載します。皆さんも、暑い夏を愛犬とともに水辺で乗り切りましょう!
■ 内村コースケ(写真家)
1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒。中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験後、カメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「撮れて書ける」フォトジャーナリストとして、ペット・動物愛護問題、地方移住、海外ニュース、帰国子女教育などをテーマに撮影・執筆活動をしている。特にアイメイト(盲導犬)関係の撮影・取材に力を入れている。ライフワークはモノクロのストリート・スナップ。日本写真家協会(JPS)正会員。本連載でも取り上げたアイメイトのリタイア犬との日々を綴った『リタイア犬日記〜3本脚の元アイメイト(盲導犬)の物語〜』で、大空出版「第5回日本写真絵本大賞」毎日小学生新聞賞受賞。同個展をソニーイメージングギャラリー銀座で開催した。


