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2025.06.19

Dog Snapshot R 令和の犬景Vol.51 「お空組」のあの子に思いを馳せて

Dog Snapshot R 令和の犬景Vol.51 「お空組」のあの子に思いを馳せて

写真・文 内村コースケ

犬は太古より人類と一緒に歩んできました。令和の世でも、私たちの暮らしにさまざまな形で犬たちが溶け込んでいます。このフォトエッセイでは、犬がいる情景を通じて犬と暮らす我々の「今」を緩やかに見つめていきます。

シャボン玉を飛ばして

毎年3月末に、「はなぺちゃフェスティバル(ぺちゃフェス)」という鼻ぺちゃ犬の大規模オフ会が開催されます。僕は最初と2番目に迎えた犬がフレンチ・ブルドッグということもあって、その子たちへの感謝の気持ちも込めて、毎回ボランティアで会の様子を撮影しています。

主催の「ふがふがれすきゅークラブ(ふがれす)」は、鼻ぺちゃ犬のレスキュー団体で、さまざまな事情で飼育放棄されたパグ、フレンチ・ブルドッグ、ボストン・テリア、ペキニーズなどの短頭種を専門に保護し、里親に引き渡す活動をしています。「ぺちゃフェス」には、同会によって保護された犬と家族に限らず誰でも参加でき、参加費は保護活動に役立てられます。一般的なオフ会と内容は大きく変わりません。10歳以上の参加犬への「ご長寿表彰」や、みんなでお神輿を引く「ぺちゃみこし」などのコーナーがあり、鼻ぺちゃ犬のグッズなどを販売する出店が並びます。楽しい1日を通じて飼い主さん同士の交流を深め、レスキュー活動への理解を深めてもらうのが目的です。

フェスの終盤に、今は亡き「お空組」に向かって、夕焼けが広がる空にシャボン玉を飛ばすコーナーがあります。特にお空に家族がいる方にとっては、胸がキュンとなるひとときです。日本の伝統行事にたとえれば、灯籠流しのようなものでしょうか。うちにも5頭のお空組がいますが、僕もその子たちに思いを馳せながら毎年写真を撮っています。











ずっと一緒に



犬は、亡くなった後も、ずっと私たちのそばに寄り添ってくれていますよね。でも、現世の忙しい日常の中では、記憶は少しずつ薄れていくものです。だからこそ、年に1度でも上記のようなお空の子たちと対話する機会を設けるのは、とても大切なことだと思うのです。

人間の場合は、先に触れた灯籠流しをはじめ、年忌法要やお盆のお墓参りなど、社会的・宗教的に定着している行事があります。ペットの場合はどうでしょう?人と同じような供養ができるペット霊園などもありますが、やはり、飼い主それぞれが少し意識して自分なりの形で思いを馳せるのが良いのではないでしょうか。

僕の場合、「ずっと一緒」だということを日常的に意識できるように、みんなの遺骨を自宅の寝室と居間に置いています。仏教的観点からは、遺骨をいつまでも手元に置いておくのは良くないのかもしれませんが、僕は自分が犬たちと一緒にお墓に入るまではこうしておこうと思います。





晩年を一緒に過ごしたリタイア犬に囲まれて



我が家のお空組の中でも、最近に亡くなった「マルコ」(ラブラドール・レトリーバー・オス)は少し特別です。存命中は、本連載にも「マメスケ」の名前で登場した、アイメイト(公益財団法人「アイメイト協会」出身の盲導犬)のリタイア犬です。アイメイトを引退した後、我が家で引き取り、家庭犬として10歳から14歳までの歳月を過ごしました。

マルコは、うちに来る前に視覚障害者のパートナーと一緒に長年暮らしたほか、生まれた繁殖奉仕家庭、育った飼育奉仕家庭、訓練・歩行指導の日々を過ごしたアイメイト協会と、複数の家族を持っています(これは、どのアイメイトも同じです)。そのため、うちを含めた「みんなの家族」であり、視覚障害者福祉の一翼を担う社会全体の支えでもあります。

そのこともあって、僕はマルコが亡くなった後、一緒に過ごした4年間の日々に撮りためた写真を「日本写真絵本大賞」という写真絵本のコンテンストに応募するとともに、写真展を開いてマルコの愛を広く皆さんに伝えました。そのことによって、微力ながら、マルコが心の灯し火として、皆さんの中にあまねく残るお手伝いができたと思っています。

マルコの「リタイア犬日記」の写真展で展示したパネルは、今、季節ごとに入れ替えながら、我が家の壁に年中飾られています。現世を一緒に生きている「ルカ」(ラブラドール・レトリーバー / オス4歳)との日々を、マルコに囲まれながら過ごしてる感じです。皆さんも、自分らしい形で、お空のあの子に語りかける時間や空間を作ってはいかがでしょうか?





■ 内村コースケ(写真家)

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒。中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験後、カメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「撮れて書ける」フォトジャーナリストとして、ペット・動物愛護問題、地方移住、海外ニュース、帰国子女教育などをテーマに撮影・執筆活動をしている。特にアイメイト(盲導犬)関係の撮影・取材に力を入れている。ライフワークはモノクロのストリート・スナップ。日本写真家協会(JPS)正会員。本連載でも取り上げたアイメイトのリタイア犬との日々を綴った『リタイア犬日記〜3本脚の元アイメイト(盲導犬)の物語〜』で、大空出版「第5回日本写真絵本大賞」毎日小学生新聞賞受賞。同個展をソニーイメージングギャラリー銀座で開催した。