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2023.01.05

Dog Snapshot R 令和の犬景Vol.22 Dog Snapshot 秋冬編

Dog Snapshot R 令和の犬景Vol.22 Dog Snapshot 秋冬編

写真・文 内村コースケ

犬は太古より人類と一緒に歩んできました。令和の世でも、私たちの暮らしにさまざまな形で犬たちが溶け込んでいます。このフォトエッセイでは、犬がいる情景を通じて犬と暮らす我々の「今」を緩やかに見つめていきます。

Dog Snapshotのススメ

今回は、Vol.17<令和4年初夏の犬景>に続く、街角で出会った「犬景」の秋冬版をお届けします。

本連載のタイトルにもしている「Dog Snapshot」は僕の造語で、街角の風物や人間模様のリアルな瞬間を捉えた「ストリート・スナップ」と言われるジャンルの写真のうち、特に犬が絡んでいるものをそう呼んでいる。エリオット・アーウィットの『我われは犬である』(1992)がその最も優れた作品集なので、ぜひ手に取ってこの素晴らしき世界を知ってほしい。アーウィットにあやかるわけではないが、僕もふだんの移動や犬の散歩などの日常の中で、密かにDog Snapshotのシャッターチャンスに目を光らせている。

Dog Snapshotはプロの写真家や写真愛好家だけのものではない。今はスマートフォンで誰でも写真を撮って世界中に発信できる時代だ。スマホが得意とする自撮り機能を生かして、自分自身と愛犬を「犬景」の一部として撮るのも今風で面白いかもしれない。

公園で出会ったそれぞれの「元気印」

こちらは軽井沢の公園で出会ったフリスビー犬の「キャンディ」。聞けば、アメリカの大会に遠征するなどかなり本格的にドッグスポーツに取り組んでいる。人と犬との関わりは、もともと狩猟などの共同作業から始まっているけれど、フリスビーを咥えて飼い主さんのもとへ戻ってくるキャンディの目の輝きに、人と犬の絆の原点を見たような気がした。

続いて同じ公園で出会ったのは、元気いっぱいに跳ね回るキャンディとは対照的に、一歩ずつゆっくりゆっくり歩いてきた老犬。パグとポメラニアンのミックスで、なんと18歳!「一度は食べなくなってしまったのだけど、回復して公園を一周できるようになったの。どんなにゆっくりでもいいから、歩くのが長生きの秘訣」と飼い主の老婦人は目を細めた。

待つ犬たち

ベルリンのスーパーで

ベルリンのスーパーで

社会全体がドッグフレンドリーなドイツなどでは、たいていのお店やレストラン、公共交通機関に犬が入れるが、食品を扱う店は例外。そのため、上の写真のようにスーパーや食料品店の前に繋がれて飼い主を待つ犬をよく見かける。

一方、「入れない」のが当たり前な日本では、そもそも買い物などの飼い主の用事に犬を同行するのが一般的ではない。そのため、こうした「待つ犬」を見る機会も比較的少ないが、晩秋の週末にとある施設の前を通りかかった時、自転車置き場に繋がれたラブラドゥードルに出会った。

ガラス張りで中の様子が伺える建物に目を移すと、どうやら飼い主さんは中で打ち合わせ中。すると、警備員さんがやってきて、犬の様子を確認してから建物の中へ戻っていった。「ちゃんとおとなしく待っていますよ」「そうですか、安心しました」というようなやりとりがあったのだろうか。なんでも自己責任のヨーロッパとは違う、日本的な親切心を見たような気がした。



一方、下の写真は「テラス席ペットOK」の蕎麦屋さんで順番待ちのうちの「マメスケ」。最近は日本でもペット可の施設が増えてきて、周りのお客さんも自然に接してくれるのがありがたい。「かわいいですね」と、偶然居合わせた人に話しかけられて会話が弾むことも多いけれど、それも一種の犬の癒し効果だと思う。さまざまな場所でこうした「犬景」がナチュラルに展開する世の中になってほしいものだ。

群馬のイギリスでDog Snap

この12月はカタールでサッカー・ワールドカップが開かれた。僕は子供の頃に住んでいたロンドンでサッカー観戦に明け暮れていた関係で、世界大会ではイングランド代表を熱烈に応援する。そんなことも淡くつながって、W杯期間中に、マメスケと“群馬のイギリス”へ遠征した。ここ「ロックハート城」は、本物のイギリスの城を移築したテーマパークで、ドッグフレンドリーさも世界基準。一部を除いて建物内にも犬連れで入れる素晴らしいスポットなのだ。「プリンセス体験」のお姫様たちも場内を歩いているし、スナップのチャンスがたくさんある。

こうしてこの年末も、マメスケと一緒にたくさんの犬と飼い主さんに出会った。人と人のつながりが少なくなっていく世の中だけど、犬景=Dog Snapshotは変わらずに温かい。



■ 内村コースケ(写真家)

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒。中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験後、カメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「撮れて書ける」フォトジャーナリストとして、ペット・動物愛護問題、地方移住、海外ニュース、帰国子女教育などをテーマに撮影・執筆活動をしている。特にアイメイト(盲導犬)関係の撮影・取材に力を入れている。ライフワークはモノクロのストリート・スナップ。日本写真家協会(JPS)正会員。