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2025.10.02
Dog Snapshot R 令和の犬景Vol.54 ひと夏の思い出 2025夏の犬景
写真・文 内村コースケ
犬は太古より人類と一緒に歩んできました。令和の世でも、私たちの暮らしにさまざまな形で犬たちが溶け込んでいます。このフォトエッセイでは、犬がいる情景を通じて犬と暮らす我々の「今」を緩やかに見つめていきます。
過ぎ行く夏に思いを馳せ
近年でもひときわ暑い夏が終わり、ようやく涼しい風が吹くようになりました。2025年の夏を振り返って、皆さんはどんな形で愛犬との思い出を残しましたか?
冒頭の写真は、アイメイト(公益財団法人「アイメイト協会」出身の盲導犬)候補の子犬たちとの別れを前に、奉仕家庭のご家族を撮った記念写真です。アイメイト候補の子犬は、メスの繁殖犬を預かる「繁殖奉仕家庭」で生まれます。子犬たちは奉仕者に見守られながら、母犬と兄弟姉妹とすくすくと育ちます。そして、生後2カ月を過ぎたころに、1頭ずつ別々の飼育奉仕家庭(訓練に入る1歳過ぎまで預かるボランティア家庭)へと巣立っていきます。この子犬たちは、7月に生まれて9月に巣立っていきました。賑やかで愛しい夏の日々は、あっという間に過ぎていったことでしょう。
9月上旬、この写真の撮影前にふらっと湘南の海を訪れたのですが、砂浜に立ち並ぶ海の家は店仕舞いを始めていました。日曜日だというのに海水浴客もそれほど多くなく、真夏の喧騒が過ぎ去ったのを実感しました。そんな感傷に浸って海を眺めながら、僕なりにこの夏の「犬景」を振り返ってみたのでした。今回は、その時に脳裏を駆け巡った、過ぎ去りし夏の犬景をお届けします。
盛夏は若者の季節
僕が暮らす軽井沢エリアは古くからの避暑地ですが、最近の夏は30度を超える日も珍しくなくなりました。うちはこの夏も扇風機のみで乗り切りましたが、来シーズンこそはエアコンを入れようかと真剣に考えています。
それでも、東京や本州の他の大都市圏よりはだいぶ涼しいのは間違いありません。特に犬連れの人たちには、軽井沢は相変わらず夏休みを過ごす人気のスポットです。今年も何組かの犬連れのご家族の依頼を受け、軽井沢で撮影させていただきました。結婚を控え、離れて暮らすことになる実家の愛犬との思い出にと、犬と一緒にウエディングの前撮りをご依頼してくださったカップルもいました。上の写真と下の3枚は、たまたまその撮影の前に軽井沢に遊びに来た大学院生の姪とお友だちと一緒に、うちのラブラドール・レトリーバーのルカを連れてロケハンを兼ねて撮影スポットに行った時の写真です。
ルカは、2年前の秋に2歳半でうちに来ました。今年は2回目の夏。最初はまだパピーっぽさが残る華奢な体つきでしたが、4歳になった今年はひと回り大きくなり、オスの成犬らしく成長しました。盛夏にはやっぱり、人生・犬生の盛りの「若さ」が似合います。
キラキラと輝く子犬たちと過ごした日々
そして、子犬たちとの思い出。アイメイトの繁殖奉仕に限らず一般家庭やブリーダーでも、生まれた子全員を手元に置くのは稀で、2、3カ月のうちにお別れが来る場合がほとんどだと思います。子犬と過ごす時期は夏に限らないものの、その意味では、子犬たちと過ごす賑やかな数カ月の日々は、子供のころの記憶にあるキラキラとした夏休みのようなものかもしれませんね。
老犬とのかけがえのない時間
都会の一角でも、ひと夏の思い出に出会いました。15歳のゴールデン・レトリーバーのリリちゃん宅に、アメリカへ留学中の飼い主一家のお嬢さんが、夏休みを利用して一時帰国してきました。離れ離れに暮らす高齢のリリちゃんとの思い出を作りたくて、はるばる飛んできたのです。大型犬の15歳といえば、相当な長寿。「もしかしてこれが最後になるかもしれない」。そんな思いもあったのではないでしょうか。
リリちゃんたちを撮影したのは、まだまだ酷暑が続く8月末の東京。それでも夕方になると、緑の多い河川敷は昼間の熱気が和らいで比較的過ごしやすくなっていました。リリちゃんのお友だちのシェットランド・シープドッグのソラちゃん(11歳)の飼い主さんご夫婦も合流。夕日を浴びながら、ひと夏の思い出が静かに流れていきました。
老いも若きも、夏の思い出は永遠に。
■ 内村コースケ(写真家)
1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒。中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験後、カメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「撮れて書ける」フォトジャーナリストとして、ペット・動物愛護問題、地方移住、海外ニュース、帰国子女教育などをテーマに撮影・執筆活動をしている。特にアイメイト(盲導犬)関係の撮影・取材に力を入れている。ライフワークはモノクロのストリート・スナップ。日本写真家協会(JPS)正会員。本連載でも取り上げたアイメイトのリタイア犬との日々を綴った『リタイア犬日記〜3本脚の元アイメイト(盲導犬)の物語〜』で、大空出版「第5回日本写真絵本大賞」毎日小学生新聞賞受賞。同個展をソニーイメージングギャラリー銀座で開催した。


