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2021.01.01

POCHIビジョンな仲間たち 一般社団法人Do One Good代表理事 高橋一聡さん (第3回)

日本で暮らす犬のためにできることを考え、それを着実に形にしていく。POCHI が注目する粋な人物をご紹介します。(POCHI編集チーム

■ 一般社団法人Do One Good代表理事 高橋一聡さん

目標が見えたら、どうすればたどり着くかを考え、走るのをやめない、生粋のラガーマン。
高橋一聡さんの話を聞いていると、そんな言葉がしっくりきます。高校時代にラグビーを始め、大学では日本一を三度経験、卒業後は伊勢丹ラグビー部で活躍するなど輝かしい経歴をもつ一聡さん。
しかし、選手引退後に一聡さんが選んだのは「ラグビー」ではなく「犬」という未知のジャンルでした。現在は一般社団法人Do One Good代表理事という肩書きで活動していますが、その活動について、ラガーマン時代の経験なども含めて語っていただきました。

訓練士の居場所づくりと 警備犬の育成。

---話を聞いていると、突っ走ってきた印象がある一聡さんですが、今、使役犬の育成に力をいれているとか。

そうですね。使役犬って言ってもたくさんあるんですが、僕らがやっているのは警備犬の育成です。

 

---警察犬ではなく警備犬?

はい、警察犬は警察に所属して警察活動をする犬のことで、民間の僕らの領域ではありません。僕たちが育成しているのは、民間でもできる警備活動、捜索や探知、護身などの役割を主とする警備犬です。

 

---なるほど。でも、どうして警備犬を?

理由は色々あるのですが、社会に貢献できるという側面があります。僕らがやろうとしていることは警備の仕事なんですが、現場ではいろんな道具が使われますよね。カメラを使ったり、レーザーを使ったり、金属探知機などもそうです。その中でのひとつとして犬の強みを活かしましょうというのが狙いで、僕らは犬の育成、派遣をしたり、ハンドラーの教育をしたり、警備犬の訓練に関わる全般的なことをしています。

 

---捜索や探知という話もありましたが、実際にはどんな場面で役立てられるのですか?

わかりやすいのが、犬の嗅覚を生かした爆発物探知です。皆さんも住んでいて感じると思いますが、日本は安全な国と言われていて、爆発テロに対して防備が手薄なんです。ただ、インバウンドも増えて、今年はスポーツの大会で世界中から多くの人が集まりますので、そうも言っていられません。現在、国内の警備会社が総力をあげて爆発物に対する警備体制を整備している段階です。

 

---そうだったんですね。

そうなんです。現在のように急を要する場面で、機械警備を充実させるにはコストもかさみますし、人出も不足しています。それならば犬を活用しようという流れになっています。

 

---そこで訓練された犬の出番ということに。

そうですね。ただ、日本では警備犬を活用するシーンは少なくて、実績がないから信用されていなかったんです。しかし、世界を見るとスタンダードになっています。ロンドンオリンピックではかなりたくさんの警備犬が活躍しましたからね。今はまだトレーニング中ですが、近いうちに彼らの活躍が期待できると思います。

 

---警備犬の育成って難しいのでは?

そこはやっぱり難しくて、マンションで暮らす犬をトレーニングするのとはちょっと違うんです。使役犬を育成する専門の訓練士がいるのですが、実は今はその方達が活躍できる場が少なくなっていて、家庭犬のしつけの方に侵食してきている状態なんです。同じお客さんを取り合っても誰もハッピーにはなれないじゃないですか。だから、訓練士も本来の技術を生かせるという場をつくりたいという思いもあって、ビジネスになる警備犬を育成しようと思ったんです。

 

---社会貢献という、そんな背景が隠されていたんですね。

そういう仕組みづくりを今やっているところですが、僕も実際訓練には参加しているんですよ。

 

---どんな訓練ですか?

噛まれる役です(笑)

 

---体も大きいしイメージが湧きやすいですね(笑)

これは襲撃なので、公的機関に使ってもらうことを目的にしている訓練ですが、フェイスアタックっていうトレーニングがあるんです。ジャーマン・シェパード・ドッグより少し小さいベルジアン・シェパード・ドッグ・マリノアという30kgくらいの犬を、30〜40m先から訓練への意欲を高めた状態で、訓練用の防護スーツを着た僕の方に向かわせるんです。

 

---怖っ

こっちもどんどん煽ってね(笑)。それって、実はラグビーのトレーニングと似ているんです。人間のタックルを受けるときは、重心をずらしたりして絶対に倒れない自信があるんですが、犬の場合はちょっと違う。人間だったら、重心をずらせば遠心力が働いて相手は何もできないのですが、犬は遠心力で流れている間にもう一度背筋を使って引いてくるんです。顎の力と首の力がすごいから、こちらも立っていられないです。

 

---一聡さん、なんだか嬉しそう(笑)

そう、やられている自分が嬉しくて(笑)。スピードもあるし、反射神経もすごい。立っているためにはどうすればいいんだろうと思うと、飽きないですね。

 

---犬の方も全力でぶつかっていけて楽しいでしょうね。

あいつらにとっては、僕は全力で噛み付けるおもちゃ(笑)。だからワクワク感が伝わってきます。やっぱり、そういう血が流れている犬には自分を思い切り解放できる場を与えてあげるべきなんですよね。もちろん、犬にも性格があるのですべてのマリノアが訓練をすればいいというわけではないですが。

 

---そういう子たちに活躍の場が早くできるといいですね。

現在はこの団体も9年目になって、色々なプロジェクトが進んでいます。犬の活躍の場ができれば、それを扱う人が活躍できる場もできるので、そういう循環が生まれてくるように頑張っています。

 

---ちなみに使役犬は引退した後はどうなるんですか?

警備犬や警察犬など、組織内で育成されている犬であればキャリアチェンジなどもあります。また、引退していなくても適さない子もいますので、無理やり強化させずに違う道を模索するということもあります。

 

---そうなんですね。

あと、使役犬にもいろいろありますけど、全体的にふわっとしている部分もあって、よく見えないところもあるんです。たとえば、猟師という職業では犬を飼っている方もたくさんいます。ただ、怪我をしたり、高齢になって働けなくなるケースもあるんです。そういう時に愛情を注いで最後までみれない場合は、どうしているのかなと。

 

---心配ですね。

アメリカの警察犬、軍用犬などであれば、引退した後にどこに引き取られるといったウェイティングリストがあるんです。日本にもそういうものが必要だと思います。

 

---絶対必要ですね。

猟師の話に戻ってしまいますが、日本の場合、山でバリバリ働いていた犬が引退後はマンション暮らしというのも変な話なので、たとえば、農家とか、養鶏場とか、走れなくなったとしても活躍できる場所は残っていると思うんです。それって、犬の幸せにもつながってくると思うので、使役犬としての一生を考えてあげることも、僕らは真面目に向き合っていかなければならない問題だと思っています。それが、次のアドプションパークにもつながってくる話なのですが(笑)

(続く)