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2021.01.01

POCHIビジョンな仲間たち 一般社団法人Do One Good代表理事 高橋一聡さん (第4回)

日本で暮らす犬のためにできることを考え、それを着実に形にしていく。POCHI が注目する粋な人物をご紹介します。(POCHI編集チーム)

■ 一般社団法人Do One Good代表理事 高橋一聡さん

目標が見えたら、どうすればたどり着くかを考え、走るのをやめない、生粋のラガーマン。
高橋一聡さんの話を聞いていると、そんな言葉がしっくりきます。高校時代にラグビーを始め、大学では日本一を三度経験、卒業後は伊勢丹ラグビー部で活躍するなど輝かしい経歴をもつ一聡さん。
しかし、選手引退後に一聡さんが選んだのは「ラグビー」ではなく「犬」という未知のジャンルでした。現在は一般社団法人Do One Good代表理事という肩書きで活動していますが、その活動について、ラガーマン時代の経験なども含めて語っていただきました。

保護活動の役割分担を明確にする、アドプションパーク。

---色々活動されている中で目立っているのがアドプションパークですよね。

そうですね、これが僕の今やっている中で、もっともメディアへの露出が多い活動ですからね。

 

---そもそも、どうして保護活動をやろうと思ったのですか?

ペットホテルをやっている時に、飼い主が超富裕層ばかりだったんですね。正直なところ、そこだけを見て「ペット業界にいます」と自信を持って言えなかったんです。末端も知らなければと。保護されて殺処分されている犬や猫がいることは知っていましたが、もっとその子たちのことを知らなければペットのことを語れないと思ったんです。

2006年くらいだったと思いますが、調べてみたらとんでもない数の犬猫が殺されていて。駅に乗り捨てられた自転車みたいに扱われている現状があって、それを許容している社会の感覚が歪んでるとか、ダサいと思ったんです。

 

---人間の都合という感じ。

うーん、人間の都合といえば、どんなことでも人間の都合でできているじゃないですか。そうじゃなくて、世の中の構造に疑問を抱かずに、こういうものだから仕方ないという考え方が嫌なんです。

 

---なるほど、当事者意識ですね。

もっといいやり方はあるんじゃないかなって、気になり始めてしまったんです。自分も社会のためにできることはないかと思って、いろいろ調べていくと保護活動って世の中でたくさんの人がやってるんです。保護活動をやっている人たちは昔から活動していて、まずは話を聞きに行ってみようと。

 

---考えるより行動に移したわけですね。

驚いたのは、その人たちって、むちゃくちゃ詳しいんです。保護された犬って、捨てられた犬だけじゃなくて、病気の犬、トラウマを持った犬もたくさんいるじゃないですか。そういう子たちを毎日預かり続けていて、ネガティブな状態からポジティブな状態まで持っていって譲渡するというのを、ずっとやっているんですね。だから経験値がものすごく高い。

 

---すごい方達と出会ってしまったんですね。

僕にとっての最高の相談相手が見つかったと思いましたね(笑)。当時、僕はペットホテルをやっていて、高いお金をもらい、サービスには自信を持ってやっているつもりだったんですが、僕たちよりも、この方達に預けた方が安心かもって。犬のために一生懸命活動しているボランティアの方が価値があると気づいて、徐々にホテルをクローズして、全精力を保護活動の方に注ぎ始めたんですよ。

 

---せっかくつくったのに、もったいない感じもします。

お金というよりも、まっとうにやりたいだけなんですよね。世の中って不平等にできて理不尽な部分もありますが、それに対して言い訳をするよりも、自分で行動して変えていく方が早いと思っているんです。おかしいと思った部分はそこを徹底的に掘り返して新しいフィールドをつくっていけば変えられると思うんですよ。

 

---なるほど。

この人たちの保護活動の価値を世の中に知ってもらい対価が発生するフィールドをつくれば、ペット業界は変わるってその時に思ったんです。それがアドプションパークという形になったんです。

 




---保護活動の新しい仕組みをつくろうとしているんですね。

僕がおつきあいしている団体だけでも、この10年間で全国115団体くらいあるんですよ。保護団体というのは「保護」「管理」「譲渡」をやっていて、そのすべてがボランティアなんです。ただ、その団体の人たちは、運営資金になる譲渡の機能が弱いんです。

 

---なるほど。

たとえば、アメリカならシェルター(現在はケアセンターと呼ばれることが多い)で、動物たちの保護・管理を行っており、そこで医療を用いたり、トレーニングをして譲渡対象にまで回復させています。そこからアドプションセンターという譲渡専門のところに移して譲渡を進めながら、ペットショップのような状態をつくっているんです。

 

---そういう仕組みづくりはアメリカは進んでいますね。

日本だと、保護団体単独で草の根的に活動している状態なんです。だから役割分担が必要だと思ったんです。管理は保護団体の方達にお願いして、アドプションセンターが活動資金を調達できる仕組みをつくりたかった。
そのためにこれまでいろいろ話を聞いてきた全国各地の保護団体に協力してもらいながら定期的にアドプションパークという譲渡会を行うようになったんです。

 

---最近、その取り組みの1例として、新しいことを熊本で始めたと。

ジョートフル熊本ですね。ここでは譲渡会を定期的に行なっているのですが、新しく譲渡活動の一環としてやろうとしているのは、保護動物の一時預かりをするフォスター制度です。アドプションセンターのミニマム版みたいな感じですね。

 

---ミニマム版ですか

これまで行っているアドプションパークは定期的に色々な場所でイベントとしてやっていて、譲渡がそのタイミングでしかできなかったんです。それを補うのもウェブでの紹介くらいで、アメリカにあるアドプションセンターのように、もっと日常的に身近なところで露出できればいいのではないかと思ったんです。

 

---たとえば、どんな風にですか?

実際にやったのはジュエリーショップさんとのコラボレーションです。お店の一角に気軽に保護猫と触れ合えて、紹介してもらえるというスペースをつくらせてもらいました。

 

---斬新ですね

ジュエリーショップの方は管理方法などを知りませんから、ネコリパブリックさんという保護猫カフェを運営する団体の協力を得ながら始まりました。猫は熊本の保護団体さんから譲渡できるようにマッチングしています。いま3つの団体と契約しているのですが、譲渡率はかなり上がってきています。また、ジュエリーショップとしても集客にもつながっていますので、お互いに良い関係が築けていると思います。

 

---そういう仕組みができると、やりたいというお店も増えそうですね。

お店などで一時預かりをするフォスター制度をうまく利用すれば何か新しい形が作れるのではないかと、今、少しずつ準備をしています。フォスターサロンとか、フォスタークリニックとか、フォスター布団屋とか(笑)。僕らが保護団体とフォスターのハブになることで、仕組みが整ってくればうまくいくと思っています。ただ、勘違いされると困るのはビジネスとして発展させていきたいわけではないんです。よく、ビジネスモデルとか言われますが、アイデアを使われるのは大歓迎で、今殺処分されている動物たちが少しでも減るのであれば、この役割は僕じゃなくていい。僕の代わりにどんどんやっていって欲しいくらい(笑)。

 

---たしかに。スタートはビジネスにすることではなく、物のように捨てられている動物たちがいることに違和感を覚えたところにありますからね。

そうですね。そして保護団体の方に話を聞いていなければ、今の形には絶対なっていなかった。でも、皆さん仕組みをつくるのは苦手なんです。なぜなら保護・管理・譲渡だけをやってきたプレイヤーだから。みんな思いはそれぞれで、やり方も違って、それが僕的にはすごく面白いのですが、殺処分される動物たちを助けたいと思う気持ちは変わりません。その人たちの思いを後押ししたいというのが、僕のモチベーションでもありますね。

 

---今後はどんな動きを?

いま僕がお付き合いしている保護団体が全国に115団体位あると言いましたが、もっと増やしていって、僕は相談を受けた時にその人たちを紹介する案内役になりたいと思っています。また、さっき言ったフォスター制度で動物を預かってくれるお店などを全国にどんどん増やしていきたいですね。

 

---おもしろそうですね。

たとえば、商店街一つ丸々をアドプションステーションにしてしまうとか、自治体単位でアドプションタウンにしてしまうとか。そういう場所が日本にたくさんマッピングされてくると、日常生活の中に譲渡の文化が根付いてくると思うんです。

僕は、いろんな人やコミュニティと力を合わせながらそういう仕組みをつくっていきたいと思っています。それは日本そのものが、動物の福祉を考えた世界一でっかいアニマルウェルフェアセンターになるという考え方。その実現のために走り続けていきたいですね。

 

(終わり)