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2021.12.21

犬の血液型は何種類?輸血を行う時の注意点と犬の血液について【獣医師コラム】

犬の血液型は何種類?輸血を行う時の注意点と犬の血液について【獣医師コラム】

私たち人間に血液型があるように、犬にも血液型があります。しかし、一緒に暮らしている犬の血液型を知っている方は少ないのではないでしょうか。普段の生活で気にすることがない犬の血液型ですが、その子に輸血が必要になった時には、調べる必要がでてきます。
今回は、犬の血液型の紹介、そして輸血について、その仕組みや実際の実施方法、日本の輸血環境の問題点などをまとめてみました。

血液とはどんなもの?

そもそも血液とはなんでしょうか。私たちの身体の中で常に循環をしている血液ですが、この血液は様々な成分からできており、それぞれが大事な役割を果たしています。ひとつずつ簡単に紹介します。

①赤血球
赤血球は、血液の血球成分のうちほとんどを占めていて、酸素を身体に運ぶ働きをしています。この赤血球やその成分が減少することを貧血と呼び、身体に十分な酸素が行き渡らなくなるため、倦怠感や息切れなどが主な症状として現れます。


②白血球
白血球も血液の血球成分です。体の免疫機能を担っており、いくつか種類があります。


・好中球:白血球のうち多くを占めており、細菌などの異物が体内に侵入したら集まってきて、それらを貪食することで、感染を防ぐ役割を担います。

・好酸球:こちらも身体の防御反応を担っており、特にアレルギー反応や寄生虫感染の際に増加します。

・好塩基球:好酸球と同じく、アレルギー反応に関与しており、即時型アレルギーなどを引き起こします。

・単球:「マクロファージ」とも呼ばれており、細菌等の異物のほか、死んだ細胞など、体内で不要になったものなどを貪食します。

・リンパ球:身体の免疫反応を担っており、体内に侵入した異物に対して、抗体を産生したりします。

白血球はこのように、主に感染に対する身体の防御を担っているため、数が少なくなると、さまざまな感染症にかかりやすくなります。


③血小板
血小板も血球成分の一つですが、血液全体に占める割合は1%以下ととても少ないです。
しかし、体内の血管が損傷し、血液が血管から漏れ出すようなとき、この穴に集まりかさぶたを作ることで出血を止める、という重要な役割を担っています。
そのため血小板の数が減少すると、出血しやすくなり、貧血、吐血、下血、血尿などの症状に繋がりやすくなります。

④血漿(血しょう)
血液のうち、血球成分以外の液体成分を血漿と呼びます。血漿はたんぱく質(アルブミン、免疫グロブリンなど)が含まれており、体内の物質の運搬などを担っています。

犬の血液型は何種類あるの?

血液は多数の血球と血漿でてきている、とお伝えしてきましたが、一般的な「血液型」とはこの中でも、赤血球の型の違いを表したものになります。

たとえば、人の血液型はABO型を用いて分類することが多いですが、これは赤血球の表面にA抗原がある人をA型、B抗原がある人をB型、どちらも持っている人をAB型、どちらも持っていない人をO型、と分類したものになります。

この分類方法は赤血球表面の抗原によって分類されているため、動物種によってその抗原は異なります。そのため、犬の血液型は人間と異なる分類方法が用いられており、国際的にはDEA式(Dog Erythrocyte Antigen=犬赤血球抗原)が採用されています。犬の場合、人よりも分類に使用する抗原の種類が多く、DEA1.1~13の13型が存在し、13個の抗原について、それぞれある・なし、のパターンが存在します。そのため人よりもかなり複雑な血液型と言えます。

 

ちょこっとメモ血液型によって犬の性格に違いはあるの?


人では、A型さんは几帳面、O型さんはおおらか、などの血液型占いを耳にすることも多いと思います。
しかし、犬では現時点では血液型と性格についての関連性はない、と言われています。

犬の性格は社会化期の過ごし方が大きく影響するようですね。ちなみに、人でも血液型と性格に関連性があるとの研究結果はなく、そう思えてしまうのは、分類をすることで当てはまる特徴だけが強調されて印象に残ってしまうというステレオタイプ効果や、誰にでも該当するような曖昧で一般的な記述を目にすると、自分だけに当てはまると思ってしまうというバーナム効果の影響、とされています。

犬の血液型と輸血について

この血液型が犬で重要になってくるのは、輸血の時です。

輸血とは、健康な個体の血液を患者の体内に入れることで、血液が足りない状態の患者に対しての治療方法になります。血液が足りない、と一口に言ってもその状態は様々で、すべての血液成分が足りなくなる大量出血時や、赤血球が足りなくなる貧血時などが代表例として挙げられます。これ以外にも、血小板が少なくなり出血の可能性が極めて高い時や、アルブミンの量が極めて低い時などに輸血を実施することなどもあります。

この輸血、いくら同じ動物種の血液とはいえ、外部から体内に入ってくるため、身体には異物として認識されてしまうことがあります。そうなった場合、正常な免疫反応が発現すると、白血球などによってせっかく入れた血液が攻撃され、破壊されることがあります。ただ無駄になるだけならまだよいのですが、この破壊活動によって、患者の体内で炎症物質が大量に産生され、急激な血圧低下や他臓器の不全につながり、生死に影響がでる場合もあります。これを輸血の溶血性副反応と呼び、輸血の際に最も気をつけなければいけない副作用になります。

 

この副反応が起きる一番多い原因が、輸血血液の赤血球抗原に対して、もともと患者が抗体を持っていること、つまりは血液型の組み合わせが悪いことにあたります。たとえば人では、A型の人は赤血球の表面にA抗原を持っており、逆にB抗原に対する抗体を持っています。B型の人はその逆です。そのため、A型の人に、B型の人の血液を入れると、もともとのA型の人の体内にあったB抗体が、その血液を一斉に攻撃しはじめます。これが上記の副反応につながるというメカニズムです。

犬の場合は、人よりもたくさんの血液型があるとお伝えしましたが、輸血の際に気を付けなければいけないのは、DEAの中でも、DEA1.1抗原の有無です。DEA2~13までの抗原はあまり影響がないと言われており、動物病院ではDEA1.1があるかどうかのみを調べることがほとんどです。DEA1.1抗原があることを、DEA1.1陽性、あるいはDEA1.1(+)と呼び、この血液型の犬にはDEA1.1に対する抗体は存在しません。一方で、DEA1.1抗原がない、DEA1.1陰性/DEA1.1(-)の場合は、DEA1.1抗体が元から存在しています。
そのため、輸血を行う場合、DEA1.1(+)の犬が患者の場合、輸血血液はどちらの血液型からでも問題がないのですが、DEA1.1(-)の犬が患者の場合、輸血血液はDEA1.1(-)の犬から確保するのが望ましいとされています。

血液型の判定には、犬血液型判定キットが用いられ、少量の血液を使用すればすぐに判定が可能です。血液型の割合は、国や地域、品種により異なりますが、DEA1.1(+)がDEA1.1(-)よりも若干多いと言われています。

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犬の輸血の実施方法

実際に輸血を行うとなった際の手順を簡単に紹介します。

①血液型の確認
血液をもらう犬の血液型を確認し、合致する血液型の犬を探します。


②交差適合試験(クロスマッチ試験)
合致する血液型の犬が見つかったら、その犬からまずは少量の血液を採血します。この血液と、血液をもらう犬の血液を実際に混ぜ合わせ、異常が起きないか肉眼的に確認をします。血液型が合致していたとしても、ここで異常が見つかることもあり、その場合は輸血の実施リスクが上がるため、取りやめとなる場合もあります。


③供給犬からの採血
上記の試験をクリアした血液を持つ犬から、輸血用の血液を採血します。首の毛を一部刈り、消毒を入念に行ったうえ、大人しい子であれば、鎮静や麻酔をかけずに、頸動脈から採血します。採血量は最大でも体内の血液量の15%とされており、体格に合わせて200~400mlとしている病院が多いです。採血後は十分に止血をし、採血した血液量と同程度の輸液や皮下点滴を行います。


④輸血前投与薬
輸血をうける犬に副反応が起きないように、輸血前投与薬を投与する場合があります。ここで使用されるのは免疫反応が起きづらくなるような薬で、ステロイドなどが使用されることが多いです。


⑤輸血
実際に輸血を行います。1回の輸血は、輸血をうける犬の体重あたり10~20mlを目安とし、0.5ml/kg程度の速度から、ゆっくりと体内へ入れていきます。副反応の初期には体温上昇が認められることが多いため、輸血中は定期的に体温を計測しながら、徐々に輸血量を増やしていきます。犬の体格にもよりますが、輸血にかかる時間は最短でも4時間、長い場合は8時間程度に渡る場合もあります。


⑥輸血後モニター
輸血後、急性の副反応であればすぐに症状が現れるため、数十分の経過観察を行い、問題がなく、かつ輸血をする原因となった疾患が安定している場合には、そのまま自宅へ帰ることができます。一方で、遅延性の副作用が起きる場合もあり、これは輸血のタイミングから数日後に現れることもあります。そのため輸血後数日間は安静にし、犬の様子をこまめに観察する必要があります。その後、その子の疾患の状況にもよりますが、数日あけて血液検査を実施し、輸血によって血液がどれだけ増えたかを評価します。

犬の輸血ボランティアについて

輸血を実施しようと思った時、手順の中で最も大変なのが、血液型が合致する犬を探すことです。人では日本赤十字社が献血を呼びかけ、血液バンクを持っているため、輸血の実施はこの血液バンクから適合する血液を選べばよい状態になっているのですが、犬では残念ながらこのような血液バンクが存在しません。そのため、動物病院によって、様々な手段で血液を確保しようと奮闘しています。


たとえば大きな病院で、輸血を頻繁に行う必要があるような施設では、輸血の血液をもらうための犬猫を飼っていることが多いのが現状です。彼らは供血犬、供血猫と呼ばれ、あらかじめ血液型が把握されており、常に動物病院で健康管理されながら、輸血が必要になったときに血液を提供する、そういった役割を果たしています。そこまで輸血の頻度が高くない、小さな病院の場合は、病院スタッフが一緒に暮らしている犬猫たちに協力してもらったりする場合もあります。


しかし、どちらであっても、同じ犬猫から頻繁に採血を行う訳にはいかず、どうして輸血用血液の量は限られてしまいます。そのため、多くの動物病院では、病院に通っている健康な犬猫たちに血液の提供をお願いする輸血ボランティア制度を取り入れています。
この制度は、それぞれの病院によって形式は異なりますが、よく見る形としては、血液を提供してくれる犬猫(ドナー)を募集し、彼らをドナーリストとして登録、登録時に血液型を調べておき、輸血が必要になったときに、合致する血液型のドナーに連絡をして病院にきてもらい供血いただく、そういった流れをとっていることが多いようです。ドナーは、健康診断が無料になったり、フードのプレゼントなど、お礼を用意されている病院もあります。

おわりに

今回は、血液型と輸血についてお話をしてみました。私は以前、血液腫瘍内科にいたことがあるため、犬の輸血をとても頻繁に実施していました。犬で輸血が必要になるような場合、多くが生命の危機に直面しています。
そういった犬たちを助ける制度として、もちろん犬でも血液バンクが設立されればいいなと思っているのですが(これは日本の法律の問題が大きく、多くの獣医師が考案し国にかけあっていますが、まだ実現していません)、こういったボランティア制度も広く認知され、犬たちが助け合うような世界になれば嬉しいなと思っています。

ちょっとブレイク ポチっとクイズ

DOG's TALK

問題:犬の血液型は人間と同じA型、B型、O型、AB型のいずれかに分類することができる。〇か×、どっち?

正解:×です。犬の血液型の種類はなんと13種類!人間とは違う判別方法で分類されています。国際的にはDEA式(Dog Erythrocyte Antigen=犬赤血球抗原)と呼ばれる方法での分類です。