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2022.08.31

Dog Snapshot R 令和の犬景Vol.18 夏休みの思い出

Dog Snapshot R 令和の犬景Vol.18 夏休みの思い出

写真・文 内村コースケ

犬は太古より人類と一緒に歩んできました。令和の世でも、私たちの暮らしにさまざまな形で犬たちが溶け込んでいます。このフォトエッセイでは、犬がいる情景を通じて犬と暮らす我々の「今」を緩やかに見つめていきます。

避暑地で過ごした夏

この夏は我が家に大きな変化があった。我が家のアイメイト(公益財団法人「アイメイト協会」出身の盲導犬)のリタイア犬「マメスケ」が、左後肢を切る手術をし、3本足での生活が始まった。骨の悪性腫瘍からの病理骨折で他に手段はなかった。手術から1ヶ月半経過した今は、術前よりも体調そのものは良く、車椅子や人の介助付きで元気に散歩できるようになった。ただ、急坂や長距離を歩くのはまだ難しく、本連載でも書いた信州・蓼科高原での山暮らしは中断。500mほど山を下った淺間山麓の実家に身を寄せている。

そんな今の暮らしのベースは、日本一メジャーな避暑地、軽井沢が近い。人流が回復傾向にある今年の夏休みは、都会の暑さを逃れてきた犬たちも大勢来て、久しぶりに“夏の犬のパラダイス”といった様相。そんな土地柄も手伝って、マメスケが車椅子で歩いていると、多くの犬連れの方々が「頑張ってるね」と声をかけてくださる。今回は、マメスケが呼んでくれたそんな夏の避暑地の出会いから、特に印象的だったDog Snapshotをピックアップした。

みんな前向きに生きている

こちらは、軽井沢から少し離れた地元の人たちで賑わう公園で出会ったご夫婦。マメスケがまだ車椅子に慣れていなくて少し歩いては休憩を繰り返していた時に、通りすがりにお話をした。聞けば、このトイプーちゃんも幼い時分に両前脚を骨折してプレートが入っているとのこと。そんなことは全く感じさせず、シニアとなった今も元気に歩いている。

やがてご夫婦の犬友のトイプーもやってきた。そちらの子はかなりの高齢で、もう目が見えないとのこと。自分の犬が障害を負ってしまうと「なんでうちの子だけ」と落ち込んでしまいがちだが、思っているよりもずっと多くの犬が体の不調や障害と付き合いながら暮らしている。「大変なのは自分たちだけじゃない」と、前向きな気持ちになれた出会いだった。



最高地点の家族

この写真を撮ったのは、今回のTOP画像(=犬友のラブラドール・レトリーバーとお孫さんたち)と同じく蓼科高原の女神湖。自宅と実家を結ぶ沿道の中間かつ最高地点(約1,500m)にある人造湖だ。8月の酷暑真っ盛りでも過ごしやすく、お盆前にはもう赤トンボが飛び始める。

半袖だと肌寒さすら感じる夕暮れの土手。スラリとしたミックス犬を連れたダンディなお父さんが歩いていた。やがて、奥様とかわいらしいお嬢さんも追いつく。犬はうめちゃんという保護犬で、ご家族は近くにお店を持っているとのこと。うめちゃんは、とっても涼しいこの地で温かい家族と共に第二の人生を謳歌している。



車椅子の練習を後押ししてくれた犬たち



軽井沢の住宅地にある中規模の公園。よく整備されていて、車椅子でも歩きやすい陸上競技対応の路面の遊歩道が一周する。観光地から離れているので混雑とは無縁。車椅子の練習にぴったりだ。夕方にそこへ行くと、たいてい3組ほどの犬たちに出会う。夏休みは周辺の別荘の人たちも犬連れで来ているので、大きい子から小さい子まで犬種はさまざま。マメスケはあいさつが大好きだから、さまざまな犬との出会いは良い歩くモチベーションになる。最初はここを半周するのがやっとだったが、今では余裕を持って一周できるようになった。

清々しい散歩道、御影用水

西軽井沢の御影(みかげ)用水は高級別荘地を流れる温水路で、一般車両が通行しない水辺の道が恰好の犬の散歩道になっている。ペットと泊まれる高級ホテルもあって、ここで出会う犬たちは、珍しい犬種だったり手入れがよく行き届いていたりと一味違う。飼い主さんたちも品の良い人が多くて、車椅子姿のマメスケにもフラットに接してくれる。水辺の景観と相まって、とても清々しい散歩道だ。





涼しくて温かな夏休み

お盆休みの最終盤、南軽井沢の別荘地にある湖畔を散歩していると、近くの店舗のおばちゃんが「頑張って歩いているから」と、マメスケに水を差し入れてくれた。「峠の釜飯」(近隣の碓氷峠手前にあった旧横川駅の駅弁が発祥の名物)の器がまたご当地ならではで嬉しくなる。

今年の夏は、マメスケと僕たちにとっては大変なスタートだったけれど、終わってみれば素敵な出会いに満ちた涼しくて温かな日々だった。「障害」という日本語の字面が良くないと、近年は「障がい」あるいは「障碍」と書き換えることが多い。でも、障害と付き合う日々に小さな喜びの積み重ねがあれば、そこにネガティブな意味を感じなくなる。



■ 内村コースケ(写真家)

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒。中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験後、カメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「撮れて書ける」フォトジャーナリストとして、ペット・動物愛護問題、地方移住、海外ニュース、帰国子女教育などをテーマに撮影・執筆活動をしている。特にアイメイト(盲導犬)関係の撮影・取材に力を入れている。ライフワークはモノクロのストリート・スナップ。日本写真家協会(JPS)正会員。