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2025.09.10
類まれなる生態系を守る!NZの環境保護犬とは?~南半球のDog's letter~
勤務中のペスト探知犬ガジェットとハンドラーのサンディー・キングさん
(Photo: Matt Jones)
世界の様々な地域に順応して暮らしている犬たち。
ところ変われば犬とのライフスタイルも変わります。日本とはちょっと違う?!共通してるかも?!と思える目新しいドッグライフ情報を、自然豊かな南半球に位置するニュージーランドからお届けします。今回は、自然の生態系を守るユニークなお仕事犬「コンサベーションドッグ」についてご紹介します。


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この記事を書いた人:グルービー美子
ニュージーランド・オークランド在住のトラベルライター。JAL機内誌やガイドこの記事を書いた人:グルービー美子ブック「地球の歩き方」などに寄稿。子供の頃から柴犬と暮らし、現在はサビ猫のお世話係。趣味はサーフィン。
ユニークな自然を守る犬たち
独自の生態系が発達し、飛べない鳥キーウィなど希少な固有種も多いニュージーランド。その類まれなる自然を守るため、コンサベーション・ドッグ(環境保護犬)と呼ばれる犬たちが活躍しています。一体どのような仕事をしているのか、DOC(Department of Conservation/環境保護局)の環境保護犬プログラムマネージャー、ヘレン・ニールさんに話を伺いました。
2タイプの環境保護犬
「ニュージーランドでは現在、約120頭の環境保護犬が働いており、そのうちの45頭ほどが保護種探知犬、残りがペスト(有害生物)探知犬です」
2タイプの環境保護犬はどちらもハンドラーとともに自然保護区や決められたエリア内をパトロールして働きますが、役割が異なります。保護種探知犬の仕事は、キーウィ、タカへ、カカポといった絶滅が危惧される固有の保護種(主に鳥類)を見つけること。ハンドラーは犬が発見した保護種に標識バンドを取り付け、体重や体長を測るなどして個体数の調査・管理に役立てます。また、捕食者から守るため、保護種を安全なエリアに移すことも。そして、捕食者や環境破壊につながる有害生物を見つけ出し、駆除に貢献するのがペスト探知犬です。
上:固有のオウム、カカポを発見した保護種探知犬のデューク。保護種を見つけても犬は吠えることなく、ボディランゲージでハンドラーに存在を伝えます。(Photo: James Fraser)/下:アルゼンチンアリを発見できるペスト探知犬のヴィート。野鳥保護区へ送られる木材にアルゼンチンアリが潜んでいないか確認中。(Photo: Adeline Bosman)
「保護種探知犬はそれぞれ専門があり、例えばこの犬はキーウィのみ、別の犬はカカポのみを探すという風にターゲットが決まっています。一方、ペスト探知犬はイタチ、ネズミ、アルゼンチンアリなど1頭で数種類の有害生物を探索します」
ニュージーランドにはオークランド近海のティリティリマタンギ島、首都ウェリントンの近くに浮かぶカピティ島など害獣を完全に駆除した野鳥保護区がいくつか存在します。ペスト探知犬はこうした保護区に入る荷物や人間、車両等の検査も担当。有害生物の侵入を防ぐ任務を果たしています。ほかに、固有植物を脅かす病原菌や繁殖力の強い外来植物を専門にしているペスト探知犬もいます。
環境保護犬になるためのトレーニング
年3回行われるトレーニングキャンプに参加するハンドラーと犬のチーム(Photo: Helen Neale)
環境保護犬になるにはどのような訓練が必要なのでしょうか? ヘレンさんに尋ねると、トレーニングには約18カ月から2年を要し、環境保護犬の認定を受けるにはテストに合格する必要があるそうです。
「第1段階はコマンドに従うこと・自らを制御することを徹底的に教え、次の段階でターゲットのニオイをかぎ分け、見つけたらハンドラーに知らせることを覚えさせます。トレーニングは毎日行いますが、犬が飽きないように短時間で済ませ、身に着くまで反復することが大事。最終テストに落ちても一度は再受験できますが、サポート体制が整っているため、不合格になる犬はほとんどいません」
NZにある野鳥保護区の島のひとつ、ブルーマイン島で有害生物を探すペスト探知犬のインディー。ネズミなどのげっ歯類を探するのが得意です。(Photo: Hannah Irwin)
さらに、テストに受かって晴れて環境保護犬となったあとも、最長10年間、週に数回のトレーニングを継続することが義務付けられているとか。環境保護犬とは、それほど責任があり、大切な存在なのです。
「保護種探知犬はイングリッシュ・ポインターなどの大型犬、ペスト探知犬はボーダーテリア、スパニエルといった小型~中型犬が多い傾向ですが、重要なのは犬種ではなく、犬の気質です。落ち着きがあり、判断力に優れた犬が向いているといえるでしょう」
ニュージーランド航空は環境保護犬プログラムのパートナー。ハンドラーと犬を保護区へ無料で輸送したり、トレーニングへの資金援助を行うなど、活動に協力しています。(Photo: Air New Zealand)
2050年までに捕食生物ゼロを目指す
仕事中のペスト探知犬、プルー
ニュージーランドは1890年代、世界で初めて環境保護活動に犬を利用した国で、そのノウハウは国際的にも評価されています。
イギリスやオーストラリアでペスト探知犬プログラムをサポートしたほか、日本でも犬を使ったマングース駆除事業の構築に協力した歴史があるほど。DOCは2050年までに外来の捕食生物を根絶する「プレデターフリー2050」計画を掲げており、目標達成のために犬たちのさらなる活躍が期待されています。
取材・写真協力:DOC
*1 https://www.doc.govt.nz/our-work/conservation-dog-programme/


