• コラム
  • スタッフコラム

2022.10.27

犬の視覚は人の「行動」を見ている?犬とのコミュニケーションに関する最新研究

犬の視覚は人の「行動」を見ている?犬とのコミュニケーションに関する最新研究

皆さま、犬と暮らしている中で「どうしてこんな反応をするの?」とか「なぜこんなことをするの?」と不思議な行動を取る場面を見かけることってありませんか?
犬がどんなことを考えたり、感じたりしているのかは、常にいろいろ知っておきたいものですよね。

そんな犬の「知覚」に関する最新研究で、面白い結果が見られたようです。
今回調査が進められたのは、犬の「視覚」に関する研究です。犬たちには世界がどんな風に見えていて、どのような物事に興味を持っているのか、犬たちの世界を理解する第一歩になるかもしれません。

犬たちに関するお悩みへのヒントになるかもしれない行動に関する最新研究を今回は簡単にご紹介いたします。

脳スキャンで犬の視界はどう見えているかを再現する研究

先日、アメリカのある大学で、健康的な犬の脳をスキャンするという実験が行われました。犬たちにさまざまな映像を見せて、その映像に対して脳のどの部分がどれくらい反応しているかを調べたのです。
大抵の犬は途中で映像を見ることをやめてしまったようですが、限られた犬たちは30分間の映像を休憩を挟みつつも3種類、最後までじっくり見ることに成功したのだとか(スゴイ)。

さて、映像を見ている時の犬の脳のスキャン結果からは、映像の中に映し出された「モノ」や「人物」「犬」などそのものよりも、それらが「どう動いたか」を理解するための部分がより強く反応した、というのです。
もともと、犬の脳は動きを処理する部分が人間よりも発達しているといわれていますから、それが裏付けられたような形の結果が出たということです。

私たち人間は、目に映るありとあらゆるものに名前を付けてそれを理解しようとする脳の構造を持っています。そのため、人間の脳では「視覚から入った情報がどんなものか」を理解しようとする部分が発達しているといわれています。
しかし、犬たちの世界にはものに名前がありませんから、「そのものが何か」を理解する部分はあまり反応を示さなかったのです。
これは、犬の見ている世界と人間が見ている世界が違った見え方をしていることを示すひとつの根拠になると指摘されています。

「動き」「アクション」に強く反応する、犬の脳

犬が見分けることができる色は、人間よりもずっと少ないということはご存知だと思います。犬は視覚細胞のうち、色を見分けるのに必要な錐体細胞を2種類しか持っていません。(人間の錐体細胞は3種類)そのため、大まかにモノトーンと青と黄色の色合いしか見分けることができないといわれています。
色を見分けることができないのは、なんだか不便な気がしますが、犬にとっての視覚は人間とは違い「情報を見分ける」ためのものではなく、「動きを知る」ためのものですから、色はあまり重要ではなかったのだろう、と研究者たちは語っています。

具体的には、犬にとっては飼い主が投げたボールが「どんなものなのか」というよりは、「どの方向に飛んだのか、どれくらいのスピードで飛んだのか」の方が重要だったということです。
犬たちが「どんなもの」「誰」を探るのに使っていたのは嗅覚。鋭い嗅覚を持っていた犬たちは、視覚に頼る必要がなかったのでしょうね。

犬の仲間たちをはじめとした野生動物たちの視覚について、今回の研究チームの一員であるグレゴリー・バーンズ氏は、以下のように語っています。
「捕食されるのを避けたり、狩りをする対象の動物を監視するために、環境で起こっていることに非常に関心を持たなければなりません。そういった意味で、動きが最も重要だったのです。」

犬とのコミュニケーションへの役立て方

今回の研究結果から分かったことは、私たちの普段の暮らしの中でも役立てられる場面があるかもしれません。

例えば、犬に指示を出すとき。アイコンタクトを出した後に、大きくアクションをすることでより犬は飼い主に強い関心を持ってくれるようになるかもしれません。上手く指示が通らない、と感じた時や「ノー」の伝え方も、動きを取り入れると意外とスムーズに犬も理解してくれる可能性があります。


犬の興味を掻き立てて、自発的にアクションをするように誘導したい時などにも、「犬は動きがあるものに興味を持つ」という特性を理解していると、様々な場所で役立ちそうな予感がします。
こういった脳科学の研究が進められると、今後は犬とのコミュニケーションやトレーニングの進め方もどんどん新しく更新されていくことになるかもしれません。

おわりに

今回は犬の視覚に関しての最新情報をご紹介いたしました。
犬の視界は「何を」見ているかというよりも、「どんな動き」をするかに意識がより向きやすい傾向にあることが分かりつつあるとのことです。もちろん、これは犬種によって違った傾向があるかもしれませんし、犬の個性によっても違いは出てくるかもしれません。まだまだ研究が進められている段階の結果ですから、しばらくしたらまた異なった見解が出てくることもあります。
でも、犬の見ている世界が私たちの見ているものと「こう違う」ということが理解できると、犬との距離が縮まったような気になります。犬がどんなことを考え、感じているのかを知る一つの手がかりになるかもしれない、そんな研究にこれからも目が離せませんね。